第9話 束の間の休息

 翌朝ソールとルナは起きて早々、これからどうするのかについて話し合い始めた。


「さて、これからどうしよっか?」


「……今日は学院の授業も休みだったっけ?」


「えぇ、そうよ。……そうだ、ケイトさんの所に行くっていうのはどうかな?」


 ルナは突然の思いつきで提案した。


「ケイトさんに?」


 ケイトとは、この街で時計店を営んでいる老人だった。街の古株としても有名で、ソールとルナの二人も昔から遊んでもらったことがあるなど、親しい間柄であった。


「うん、ケイトさんならその時計について何か知ってるかも。ソールだって、余りそれのこと知らないでしょ?」


 そう言いながら、ルナはソールが取り出した懐中時計を指差した。


「確かにそうかもしれない、けど……」


 その時だった。


 コンコンコン、とドアを三回叩く音がした。


「……はい?どうぞー」


 それに対しルナが答えた。


「お邪魔するわね」


 そう言ってドアを開け入ってきたのは、アンナだった。


「アンナさん、どうしたんですか?」


「朝食持ってきたわよー」


「え?」


 ソールが疑問に思った。昨日の受付では朝食を頼んだ覚えはなかったからだ。


「あの、頼んでないですよ」


「サービスよ、サービス」


 そう言いながら、アンナは料理の載ったプレートを机の上に置いた。プレートには、サラダとトースト、そしてミルクが二人分並べて置いてあった。


 ルナが驚いて、


「そんな、お金も払ってないですよ!?」


「いいの。言ったでしょ、サービスだって。こういうものは黙って受け取っておきなさい」


 アンナは引き下がる気はそもそもないようだった。ソールもそれを悟ったのか、


「分かりました、ありがとうございます」


 彼女の好意に甘えることにした。




 朝食後、出掛ける際。


「あの、色々お世話になりました」


 ルナがアンナと話をしていた。


「いいって、そんな。私が勝手にやったことだし、ね。」


 アンナは続けて、


「それより、朝食はどうだったかな?」


「はい、とっても美味しかったです。ありがとうございました!」


 ルナは笑顔で返した。すると、


「良かった。やっと笑ってくれた」


「え?」


「昨日から二人とも、凄く暗い顔だったからさ。気になってたのよねぇ」


「あ」


 そう言えばと気付いたように、ルナは自然と声を発していた。


「……ありがとうございます、本当に色々と」


 再三、ルナはアンナにお礼を言った。


「いいえ」


 それにアンナは笑顔で返した。


「彼の方も、元気になるといいわね」


「……こういう時、ソールはいつもあんな感じだったんです」


「……」


 一時の沈黙の後、


「それなら、あなたが元気づければいいだけじゃない」


「私が?」


「そう。ずっと傍にいるんでしょ?だったら、あなたになら出来るはずよ」


「……そうですね、頑張ってみます」


 その瞬間、ルナの脳内にはかつての記憶が甦っていた。それは、幼少期にソールがルナをいじめから守ってくれた際の思い出だった。


(今度は私が、ソールを守らなきゃ……!)


 そう言い終えたその時、部屋のドアが開き、ソールが出てきた。


「準備できたよ、ルナ」


「よし!じゃあ行こ」


「……?何かあったの?」


「ううん。なんでもないよ」


「そっか。……それじゃ、アンナさん。お世話になりました」


「はい、行ってらっしゃい」


 二人はアンナに見送られながら、時計店に向けて歩き出した。ソールには、隣を歩くルナの足取りが昨日よりも軽やかに見えたのだった。

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