第12話 増える神々が世界を滅ぼす
それから数日後――
「うっ、うっ、うわぁああぁ~ん!
私へのざまぁが、ざまぁが酷すぎますぅ~!!
私、ちょっと言葉が足りなかっただけなのにぃ~! ちょっと色々忘れてただけなのにぃい~!!」
「転生者への説明不足は結構な大罪デスよ、ルーナ」
ズタボロになって大泣きしながら、女神様にしょっぴかれて俺のところにくるルーナ。
どうやら今日も、はんぺんと玉露の世界に強制連行されて酷い目に遭わされたようだ。
その様子から察するに、はんぺんも玉露も魔法のステッキによる世界を大いに楽しんでいるみたいだな。何よりだ。
「ところで、銀さんは今日もコチラでいいのデスか?」
「あぁ。俺はこの、イチゴ味のアールグレイがあれば今のところ十分だな」
女神様の問いに、静かに答える俺。
今の俺は王らしく、白い丸テーブルで優雅に茶を楽しんでいる。
目の前の池ではチャポチャポと音を立てながら、例の黒い触手どもが跳ね回っている。無駄にするのも触手に申し訳ないからな。
はんぺんと玉露は、ほぼ毎日のようにステッキを使って別の世界を作り出していたが――
俺は依然としてこの世界で王として君臨しながらも、そこそこ忙しく働いている。
王といえども、いや、王だからこそ、のんべんだらりとはしていられない。
このアールグレイティーの香りが流れる世界では、俺が何も教えない限り、住民は農業漁業建築どころか、料理を作ることもそれを運ぶことも出来ないのだ。空術の自動発動で勝手に建築がなされたり勝手に倉庫が満杯になったり、勝手に魔物を撃退しているということもない。
俺がきちんと指示しない限り、住民たちはせっかく作ったパンやケーキを、肥料の原料(つまりウ×コ)と同じ収納に突っ込んでしまうことさえある。魔物と一生懸命戦っている最中に、せっかく作った温泉や貯水池を住民自身がぶっ壊して周囲を水浸しにしてしまうトラブルも何度あったか。最初はドアの開け方すら知らなかった住人たちだから、当然といえば当然だが。
勿論王たるもの、そんな住民たちの頼みも出来る限り聞いていかねばならない。そうしなければ働かなくなってしまう住民も現れるからだ。
少しずつ住民たちに色々教えて、素っ頓狂な行動をしがちな彼らを的確に指示し、願いを聞き。
そんな試行錯誤を繰り返しながら、自分たちの町を作っていく――
うん、適度のストレスがある理想の世界だ! 現実世界で培ったブラック企業での経験も存分に生かされる上、住民への指示さえちゃんとしておけばぐっすり眠れるのも最高。
満足そうな俺を前に、女神様もそっと晴れた空を見上げる。
「元々、この『ウナロ』はとても自由な世界でした。
やってきた転生者たちが、思うままに世界を創造し、色とりどりの世界を生み出した――
元は小さかった『ウナロ』はそれに伴い、どんどん大きくなっていった。
広がった『ウナロ』は多くの神々に愛され、支えられ、さらに広く大きな世界になっていきました。
しかし――『ウナロ』の拡大に伴い、それを支える神々も増え。
そんな神々の中には、『ウナロ』で生み出されたものをお気に召さない神もいたのです。
えっち、リョ×、ストレスなどなど……」
そうだったのか。
現世でも人が多くなれば、それだけトラブルも増えた。
神々の世界も同じということか。
「だから『ウナロ』自体を見捨てて、他の世界へ自分自身で転生を行なう転生者さえ現れています」
「他の世界? 自分自身で転生?
そんなことも出来るのか?」
「ハイ。
具体的には、『ムクヨーカ』や『ラ・ベプノ』といった世界ですネ。
それらの世界を支える神々はまだまだ『ウナロ』に比べると少ないですが、その分自由に色々なことが出来マスから。
そんな転生者たちによって、それらの世界は次第に栄え始めています。かつて、『ウナロ』が繫栄し始めた時と同じように……」
なるほどな。
そして逆に、自由のきかない『ウナロ』はかげりが見え始めていると。
「神々が増えれば増えるほど、神々のお気に召さないものは増えていく。
だが、それも時の流れだろう。形あるものはいずれ終わりを迎えるものだ、仕方ない」
「はぁ……それは分かってイマスが。
神としてはそこまで悟っていられないのも現状デス。これ以上、見るにたえない世界にはなってほしくないのデス」
見るにたえない世界、か。
今までのアレコレを思い浮かべれば、分かる気もする。
「最近などは――
世界中から溺愛され、何もしなくてもシアワセになれるノーストレスな世界だけでは飽き足らず、ドクズをもっと寄こせとおっしゃる転生者も多く。
そしてそれを望む神々も、さらに多いのです」
「は? ドクズ?」
「ハイ。ドクズを徹底的にぶちのめしてスッキリしたいからドクズを作ってくれと。
しかも、そこまでストレスにならない程度のモラハラパワハラセクハラ三昧ドクズをと」
「……女神様も大変だな」
「そういった神々の要望が今、圧倒的に多いから仕方ないデス。
だからワタシたちも仕方なく、転生者たちの前にドクズを放りこむこともありマス。そのドクズをぶちのめすことで神々が満たされ、世界を支えるエネルギーが異常なほどに増加していくことも多いので……」
エネルギー云々はよく分からんが、とにかく大変そうだということは分かった。
「なので『ウナロ』の世界は、豊かになればなるほど何故か狭くなっていく。
元々『ウナロ』は、たくさんの転生者たちによって形作られ、無数の色をもつとても魅力的な世界でした。
しかし今はその色が、ほぼ一色でしかない。そんな気がしているのデス……」
うーん。
この世界の未来とか、難しいことはよく分からんが。
「でも俺は、ここでのんびり適度なストレスに追われつつ王として働くのが、一番性に合ってる気がするよ。
神々がお気に召そうが召すまいが、俺はここでゆっくり楽しく過ごせれば、それでいい。
はんぺんも玉露も、趣向は違えど同じ気持ちだろう。
少なくとも、エヌマ。君は俺たちを認めてくれたんだ――」
「エッ?
ぎ、銀さん?」
ほんの少しだけ、頬を赤らめる女神様。
そんな彼女に、俺はてらいなく言ってのけた。
「他の多くの神々に見捨てられようが……
俺は君が認めてくれれば、それで充分だと思ってる。
君は神だ。たとえたった一柱であろうとも、俺のありようを認めてくれる神がいるのならば。
俺はこれからも、この『ウナロ』で生きようと思う」
すると女神様は、大きな金色の瞳に涙までたたえ、それでも嬉しそうに微笑んだ。
よっぽど苦労しているのだな。俺たちの知らないところで――
「ぎ、銀さん……
ワタシ、その言葉を頂けただけでもシアワセです。
これからもどうか末永く、よろしくお願いシマス!」
お互い、両手を握りしめあう俺と女神様。
なんか妙な勘違いをされているような気もするが、これでどうにか、この世界も俺の異世界転生も、何とかしばらくはうまくいきそうだ――
だが、俺がハッピーエンドを確信したその瞬間。
「そーはいきませんよぉ!
こんなオチ、私はみっとめませーん! 認めるもんですかぁあ!!」
俺と女神様の間に突然割りこんできたのはなんと、あのアホウサギでありアホ駄天使――ルーナ。
女神の枷が何故か外れ、背中の翼は真っ黒に変わり、紅の瞳はギラギラと異様な光を放っている。
どういうわけかその両腕には、はんぺんと玉露が軽々と抱えられている。どんな腕力だ。
そして二人の首元には、鈍く光る鎌がつきつけられていた!
「ぎ、銀ちゃぁああん! 助けてぇええ!!」
「ぼ、ぼぼボクたち、何故かルーナさんに捕まっちゃいましたぁ~!!」
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