-39- 「手」

 ある夏祭りの日、大人は皆忙しかったので、僕と悠太だけでお祭りに出かけた。


 人混みではぐれないよう、僕と悠太はぎゅっと固く手を繋いでいた。


 それでも、花火の時間が迫ると人が増え、人混みに飲まれて一瞬悠太の手を離してしまった。


 慌てて人混みの中を手で弄ると、小さな手がぎゅっと僕の手を握って来た。


 今度こそ手を離すまいと、僕はその手を強く握りしめた。


「お兄ちゃん、待って」


 背後から、悠太の声が聞こえた。


 振り返ると、人混みに呑まれた雄太が、隙間から顔だけ覗かせて、僕を呼んでいた。


 悠太が僕に向かって、手を伸ばしている。


 じゃあ、僕が握っている手は、誰の手だろう。


 自分が握っている手の主を探すけれど、虚空から手だけが生えていて、僕を何処かへ連れて行こうとぐいぐい引っ張っている。


 慌てて振り払うと、その小さな手は、すうっと消えて行った。

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