第27話 成長した咲
コンビニでパンを買った後、家に帰って早速パンを食べた。
まだメリーは復活していないため、実体化せずにパンを頬張った。
触ろうとすると体は透けて貫通するのに、パンはメリーが頬張るたびに小さくなっていく。
本当にどんな原理になってるのか不思議でたまらない。
「コンビニのパンってこんなに美味しいんですね!」
「ん、そうか、メリーはコンビニのパンを食べるのは初めてか」
「そうですね。一度食べてみたかったんですけど、メリーは幽霊なのでお金なんて持っていないですし、そのまま持っていったら窃盗になりますし、防犯カメラに写ったらコンビニに幽霊がいるって騒がれて店が大混乱してしまう可能性があるので……」
「な、なるほどな……」
確かに、メリーは霊感が強い人にしか見えない。
もしメリーが、パンを取ろうとしているところを防犯カメラに映りこんだとしたら、間違いなく大騒ぎになるだろう。
店員や客はそこにはいないと言っていても、カメラには映っているなんてことがあっったら、次の日からは幽霊マニアの人が殺到することになって、客の迷惑になってしまうだろう。
幽霊でも、なかなか大変なところもあるようだ。
「――――ふう、ごちそうさま」
『ごちそうさまでした』
パンを食べ終わり、俺とメリーは手を合わせてそう言った。
もう夕方になっているから、そんなに多く食べることはしない。
ブブッ
俺のスマホが震えた。
そういえばミュート解除してなかったな。
上からスライドしてミュート解除のアイコンをポチッとな。
これでバイブーレーションと通知音がなるようになった。
通知バーを見ると、1件のメッセージが。
『もうちょっとで着く』
メッセージを送ってきたのは咲だった。
時計を見ると、針は15:30を指していた。
学校が終わり、ここに着くには良い時間だ。
「そろそろ咲が来る時間みたいだ」
『分かりました。じゃあメリーはお散歩してますね』
「分かった」
メリーはパンの袋をゴミ箱に捨てた後、俺に手を振りながら壁をすり抜けていった。
幽霊というものはなんでもありだな……。
さて、俺はこの後試練に挑まなければならない。
咲が異様に俺を求めてくるようになった原因は何なのかを聞く、それが今回咲を俺の家に呼ぼうとした理由だ。
幸い、咲から俺の家に遊びに行きたいと言ってきたから手間は省けたけど……。
ピンポーン
遂に来た……!
俺は気を引き締めて玄関へと向かった。
そして、俺は玄関のドアを引いて開けると、そこには胸元で手をもじもじさせる咲がいた。
「い、いらっしゃい咲。ささ、どうぞ中に入って良いぞ」
「――――」
「咲? どうかしたのか?」
「――――!」
「――――!?」
黙り込む咲にもう一度声をかけると、咲は俺に一歩近づいた途端、なんと俺を抱きしめてきたのだ。
「お、おい! なしたんだよ急に!?」
「ねえ聞いてよおおおお!!」
咲は泣きながら俺にしがみついた。
何も事情を知らない俺は、突然泣き出した咲に戸惑いながらも、とりあえず家の中に咲を入れてあげて事情を聞くことにした。
◇◇◇
「なるほどな、それで俺のせいにしたいと」
「そうよ! 悠真が体調を悪くしなければこんなこと言われなかったのに……!」
「そうかそうか、そこまで俺のせいにしたいか……。お前は子どもか!」
「だってだって!」
「だってじゃねんだよ! 駄々こねるんじゃありません!」
話を聞いてみたところ、咲は朝の会が終わった後、担任の先生に俺が休みだと伝えたらしい。
そしたら、担任の先生はこう言ったらしい。
『花園がそんなことを報告してくるなんて珍しいな。まさか……』
『そ、そんなんじゃありませんからね……!』
『分かった分かった。そういうことにしておくよ』
そう言って、担任の先生はさっさと職員室へ行ってしまったらしい。
さすがうちの担任だ。
明らかにジョークだとわかる。
担任の先生は渡辺先生といって、まだ26歳の若い先生だ。
いつも冗談を言ってみんなを笑わせてくれる、面白い先生だ。
咲に言ったことだって冗談だって分かる。
だけど、咲はそれを本気で受け入れてしまったようで……相当恥ずかしかったんだそうだ。
そう、俺にしがみついて、びーびー泣いてしまうほどに。
「あの渡辺先生だぞ? 冗談を言ってるに決まってるだろ」
「でも! そんなこと言われたら本気でそう思っちゃうでしょ!? 悠真はバカなの!?」
「なっ! 誰がバカだって!?」
しばらくはお互い睨み合っていた。
と言っても、こんなことは朝飯前にあることだ。
俺と咲は昔からよく喧嘩をしていたぐらいだ。
彼女が学校で『氷花姫』というあだ名が付けられるようになった頃から少なくなったが、やはりこんな感じの喧嘩はいつまで経っても絶えない。
そして、この時咲は必ず目に涙を浮かべる。
それを見た俺は口癖のように必ずこう言う。
「はあ……。こんなことで喧嘩してるのなら、お菓子でも食いながらその話をゆっくりしようぜ」
「――――うん、そうね……」
俺はティッシュを渡してあげて、咲はそれを受け取って目に浮かんだ涙を拭き取る。
咲を椅子に座らせ、俺は台所からチップスや煎餅などの袋菓子を持ってくる。
そして、ポテトチップスはパーティー開け、煎餅は1つずつ袋に入っているから、袋の口を開けて中を出してそれをテーブルの上に適当に並べた。
咲はすぐさまポテトチップスを1枚掴んで口の中に運んだ。
「そうだ、今日は咲にどうしても聞きたいことがあるんだ。食べながらでも良いけどちょっと真剣な話になるからちゃんと聞いてほしいんだ」
「う、うん。どうしたの急に……」
咲は手を止めて俺の顔を見る。
リビングは一瞬にして緊迫した重い空気に変わった。
「けっこうストレートに聞くから傷ついたら申し訳ないけど我慢して欲しい」
「わ、分かった……」
「最近、咲の行動がやけに気になっているんだ」
「ふぇ!?」
咲の顔がみるみるうちに赤くなった。
しまった……。
緊迫した空気に負けて重要な言葉が飛んでしまった……!
俺が咲のことが気になって仕方がないから告白したみたいな勘違いをされたら困る!
「ごめんその言葉だと誤解を生んでしまうから訂正させて! 俺が言いたかったのは咲の最近の行動が怪しくて気になっているってことだ!」
「な、何よ……。期待したのにがっかりした……」
咲は頬を膨らましてそっぽ向いた。
あーあ、面倒くさいことになっちゃったよ……。
「そ、それでな咲。俺は何でそういう行動をするようになったのかが聞きたかったんだ。ほら……この前だってメリーがいなくなった途端にあんなことしてくるから……」
「あー、そういうことね。わたしが急に悠真に大胆な行動をしてきた理由を知りたいってことね」
「そそ」
いや、当の本人が大胆な行動をしてるって言ってくるのが正直ヤバい。
自分で自覚した上で言ってるのかよ……。
まあ、咲っぽいけどな。
「そうね……。メリーが現れたから」
やっぱりか……。
「でもそれだけじゃないの」
「どういうことだ?」
「その、えっと……」
咲は頬を赤くしながら視線を逸らし、もじもじとし始めた。
今までそんな仕草なんて俺の前でしなかったんだけど……。
「本気で悠真のこと……す、好きになっちゃったからよ……!」
「――――!」
「あんたのことなんて今までは幼馴染とでしか見てこなかった。でも、中学終わる直前に悠真のこと異性として意識するようになったの。本当は早く言いたかったけど、気持ちを伝えるのに躊躇してしまって……。そしたら、悠真の隣にメリーという幽霊が現れて、わたしより咲に悠真に告白した。わたしはそれが悔しくて……! だから、もっと大胆な行動をしなければ悠真に振り向いてくれないって思ったの」
「それで、最近そんな行動を取っていたということか……」
「うん……。でも、最近はちょっとやりすぎたなって反省してるの。こんなことしても悠真は混乱するだけだし、逆に悠真から信頼を失ってしまうと思ったから」
咲が自分から自分を抑えるなんて初めて聞いた。
今までなら、自分がやりたいことは満足するまでやり通していたから、遠慮なくやっていた。
でも、咲の話を聞いていると自分を抑えることが出来るようになったみたいだ。
同い年で幼馴染なのに、何故か親の気分になってしまった。
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