第25話 新たな仲間・恐怖

「――――」


「でも、あながち間違ってもいないですよね? だってメリーたちは……友達以上恋人未満なんですから」


「ちょっ! それを人前で言うのは……!」


『えっ……。今何って言った……?』


 メリーがいきなりとんでもないことを、聖斗が目の前でいるところで言ってしまった。

それはなるべく他の人に言わないようにしようって2人で決めたのに!

 メリーが意地になって言ってしまったことで、聖斗の顔がスッと変わった。


『友達以上恋人未満の関係ってどういうこと……? だって君たちは幽霊と生きている人間だよね? それなのにそんな親密な関係になっているってどういうこと……?』


「ふふーん、気になりますよね……?。やっぱり気になりますよね!?」


 どう考えてもメリーが聖斗に向かって煽っているようにしか見えない。

しかし、聖斗はそれに対する怒りより、その前のメリーの暴露の衝撃が凄すぎてそれどころではないようだった。

ただ立ち尽くしている状態になってしまっている。


「えっと……ま、まあそういうことなんだ聖斗。メリーとはそういう間柄なんだ」


「そ、そうなんだ……へぇ……」


 全く話が耳に入っていない様子。

何回か名前を呼んでも、全然反応がない。

 にしても、そこまで驚かなくても良くないか?

でも、生きている人間と死んでいる人間がそこまでの関係になっているのはおかしな話だ。

咲のように、幽霊の姿が見えるくらい霊感が強い人なら誰もが取り憑かれていると思われるだろう。

 街灯に照らされた公園の時計の針は、もう3時を回っていた。

そろそろ戻らないと、学校で支障が出るかもしれない。


「せ、聖斗……? 俺たちは帰るよ」


「――――! あ、ごめんね! ついぼーっとしちゃった……。うん! また会おうね!」


 俺とメリーは聖斗に手を振って別れを告げ、自分の家へと向かった。

聖斗も元気よく手を振って見送ってくれた。


「ゆーまくん」


「なんだ?」


「また新しいお友達が増えましたね」


「そうだな……。まさかの幽霊とね」


「何だかゆーまくんの仲の良い人って、変わり者が多いですよね?」


「ははは……咲は全然普通だけど、幽霊のメリーと聖斗がいるというのが変わってる。でも、もともと友達が少なかった俺にとっては結構嬉しいんだ」


 俺は心からそう思った。

咲とは小さい頃から一緒にいたが、陰キャで友達ができない俺は学校生活がつまらなかった。

しかし、メリーが俺の家に突然来てから3ヶ月が経ったが、俺の生活は変わった。

幽霊だけど人生で初めて話せる相手が増え、さらに今日は聖斗という新たに仲が良くなった人が出来た。

 前の俺からすれば、ここまで充実した生活を送ることができるなんて絶対に考えられなかった。

俺の生活を変えてくれた存在こそ、いま俺の腕を組んで楽しそうにしているメリーだ。


「ありがとなメリー」


「ど、どうしたんですか急に……」


「なんだろう、メリーにそう伝えたくなっただけだ」


「なんですかそれ……。まあ、でもメリーは嬉しいので気にしないでおきます」


「ならありがたい」


 俺たちはそう言って笑い合った。

メリーと話していて楽しい。

俺にとっては神様のような存在になりつつあった。


「さて、メリーは疲れたのでゆっくりしようと思うのですが、ゆーまくんはどうするんですか?」


「俺はもうちょっと寝るよ。もうこんな時間になっちゃったし、何だか少しだけ眠くなってきたから」


「なら、メリーはゆーまくんの寝顔を見るとしましょう」


「恥ずかしいからやめてくれ……」


「結構ゆーまくんの寝顔可愛いんですよ? いつまでも見てられ――――っ!?」


 メリーは話している途中、突然ビクリと体を跳ね上がらせ、ばっと後ろを振り向いた。

メリーが向いている先は、俺たちがさっきいた公園だった。

彼女の横顔は、何かに怯えているような感じだった。


「ど、どうしたんだ?」


「い、いえ……。とにかく急いで帰りましょう」


「お、おう……。分かった」


 メリーは体を震わせながら俺にそう伝えた。

俺は何も異常だと思うところはなかったけど、メリーが顔色を悪くしているため、とにかく早めに帰ったほうが良いと判断した俺は、足早に家に向かおうとしたその時だった。


『――――から』


「――――っ!? は……? は……!?」


 突然俺の耳に、誰かの声が流れ込んできた。

もちろん周りには誰もいない。

でも、『から』という言葉は確かに聞こえた。

 恐怖が俺に襲いかかってくる。

体全体から、変な汗が滲み出てくる。

俺は周りを見ないで前だけを見たまま、逃げるように家へと向かった。

そしてメリーは、家に着いても耳を手で塞いだまま、部屋の隅でずっと怯えていた。

もちろん俺も恐怖で眠れず、ずっと怯えているメリーが少しでも安心できるように傍に居続けた。

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