第15話 もっと知らなきゃな

 自宅に着き、咲と別れた。

鍵を開け、玄関に入る。


「ふぁあ……なんかめっちゃ疲れた」


 俺は靴を脱ぐと、腕を上げて背伸びをしながらリビングへと向かう。


『ゆーまくん』


「ん?」


『その、ありがとうございました』


「礼なら咲に言ってくれ。俺は付き添いだけだから」


『いやそれもそうなんですが……』


「――――?」


『メリーが気を失っているときに運んでくれて……。それのお礼を言いたかったんです!』


 メリーは改めてありがとうございました、とお礼の言葉を述べると、俺に向かって深々と頭を下げた。


「お、お礼なんていらないよ! あれは俺が悪いんだから……」


 俺はその時の状況を思い出し、思わず横を向いた。

 メリーは悪くない。

俺がよく考えずに言ってしまったのが悪いんだ。


「――――なんか食べに行くか?」


『え?』


「その、なんだ……お詫びというか……。メリーが食べたいものないか?」


『そ、そんな! ゆーまくんが悪いんじゃないんですから』


「いや、良いんだメリー」


『――――!』


「今回は俺が悪い。今回でよくわかったよ。俺はもっと女子のこと、メリーのことも知っていかなきゃなって」


 正直言って、これは本心だった。

幼馴染に咲がいるが、今までは興味がなかったせいもあって知ろうともしなかった。

しかし、ある日突然俺の家に訪れたメリーが我が家に加わったことで、俺の生活は激変した。

 一人っ子で、親は仕事の関係上、早朝に出勤して夜遅く帰宅する……実質1人暮らしをしているようなものだ。

まあ、自分はゲーマーだし、料理も一通りはできるから苦労はしてないけど、そこに1人加わっただけでガラリと環境が変わることを思い知った。

確かにゲームをして1日を過ごすのも楽しいが、話し相手がいると何か食べながらでも、なにか作業しながらでも楽しい。

 学校生活でもそうだ。

俺は陰キャで、もはや存在すら知っているのかというくらい影が薄くなるせいで、グループワークでも省かれるし、弁当を食べるときも教室の隅っこで細々と食べている。

しかし、メリーはいつも俺の傍にいてくれた。

姿はみんなから見えないようにしてテレパシーで話しているが、やっぱり誰かと話しながら食べるのは楽しいし、いつもより弁当が美味しく感じる。


「俺はメリーが俺のところに来てくれて、めっちゃ感謝してるんだ。感謝してもしきれないくらいに。それくらいメリーの存在は大きんだ……。だから、ありがとうメリー。いつも俺の傍にいてくれて」


『――――!』


 俺はメリーに精一杯の感謝を言葉にして伝えた。

それを聞いたメリーは驚いた表情をしていたが、胸に掌を当てると、


『ゆーまくん……。メリーのわがままでここに居させてもらっているだけなのに……。でも、メリーもゆーまくんに出会えて本当に良かったです! その……これからも、ゆーまくんの傍に居続けても良いですか?』


 メリーはもじもじしながら上目遣いで俺を見る。

俺はその姿にドキッとしたが、メリーから視線を逸らして心を落ち着かせようとした。


「えっと……も、勿論だ! これからもよろしくお願いしま、す……」


『――――! はい! これからもよろしくお願いしますね、ゆーまくん!』


 メリーの満面の笑みを見て、俺はさらにドキッとする。

あれ……これって……いや違う違う!

俺とメリーはあくまで友達以上恋人未満の関係だ。

――――そうするとメリーとどう接すれば良い?

 いやいや、恋人だし、友達以上ってことは親友みたいなもんじゃないか。

――――友達以上って女子相手だとどこまで?


「――――」


『どうしたんですかゆーまくん? さっきからすごく顔が赤いですけど……』


「えっ、あ、いや、なんでも、ない……」


『――――?』


 あれ、いつもメリーとどう接してたっけ?

俺の頭の中が大混乱に陥った。

いつもならちゃんと眼を見て話せていたはずなのに、何故か今はそれが出来ない。

見ようとしても、恥ずかしすぎて少し目があっただけでもだめだ。


『――――』


「め、メリー!?」


 メリーは突然俺に抱きついてきた。

俺の心臓の鼓動が、今まで以上に速くなる。


『はあ……癒やされます……。咲さんがしばらくいたから2人だけって久しぶりですね』


「いや、1日しか空いてないけど……」


『それでもですよ。こうやってゆーまくんを独り占めできるんですから』


「――――」


 落ち着け、いつも通りだ。

メリーは普段からスキンシップが多いんだからこれくらい普通普通……。


『――――ん? ゆーまくん今日はやけに心臓の音が大きいような……?』


「――――! き、気のせいじゃないかな?」


『んー? 怪しいですね……。眼がとても泳いでますよ?』


「そ、そんなことないと思う、ぞ?」


 メリーは俺から離れることなく、怪しみながらそのまま顔を近づけてくる。

や、やめてくれ……!

今日の俺はなんかおかしいんだ、だからそんなに近づけられると……!


『――――まあ、メリーがこういう行動を取れば、ゆーまくんはいつも顔を赤くしてドキドキしてるんですから普通通りですね!』


「そ、そうだろう? 平常運行だから心配しなくてもいいぞ? そうだ! さっきの話に戻るけど、何食べたい?」


『――――えっと、ゆーまくんの手料理が食べたいです!』


「え、それで良いのか?」


『それで良いんです! だってどこのレストランのものを食べても、ゆーまくんが作る料理が世界で一番美味しいです!』


「そ、そうか。じゃあお詫びだからいつもより豪華にするか! じゃあ早速やるか!」


 俺はそう言ってさっさとキッチンの方へと向かった。

あ、危なかった……。

あの状況が続いていたら、俺はどんな感じになっていたことやら。

 しかし、今日の俺は本当におかしい。

確かにあんなことされるのはしょっちゅうだから、ドキッとするけど……今日はいつも以上に動悸がすごかった。

自分でもうるさいと思うほどに。

 ――――いや、絶対にそんなことはないはずだ。

今日は俺がおかしいんだから、明日になったら治ってるだろう。

メリーのお詫びの気持ちを込めながら、冷蔵庫から取り出した食材に手をつけた。


『――――ゆーまくんがあんな顔をするところを見たのは初めてです……。大好きですゆーまくん。メリーはずっとゆーまくんの傍に居続けます。だって……メリーはゆーまくんに本気で恋をしてしまったんですから』

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