第10話 張り合う2人(メリーさんのターン)

 この後普通にゲームをした。

メリーと咲は仲良く遊んでいた。

さっきのバチバチと火花が散ったような戦いはどこへ行ったのやら……。

 なんか色々ありすぎて疲れたし、今日は早く寝るとしようかな。


『ゆーまくん』


 いつの間にか俺の横に実体化したメリーがいた。


「どうした?」


『あの……忘れてませんよね?』


 あぁ、帰る時に甘えてもいいですかって言ってたな。


「忘れてないけど、俺どうすればいいんだ?」


『思うがままにしてくれれば良いです!』


「うわっ!?」


 急にメリーは俺に飛びついてきた。

俺はバランスを崩し、思い切り床に背中をぶつけた。


「―――――った」


『ふふ……これでメリーが有利な体制になりましたね』


「な、何を言って……」


『メリーは咲さんに負けたくないです』


 俺の腹に跨ったままメリーは俯く。

何とかして抜け出したいが、メリーが踏ん張ってそれを阻止している。

 こんな細い体してなんていう強さなんだ……。


『メリーは……メリーはゆーまくんを誰にも渡したくないんです! せっかく出会えたのに、なんでいつもメリーには邪魔が入ってくるの? なんでメリーを不幸にさせたがるの? なんで……』


「メリー……」


 メリーの目から大粒の涙を流し、俺の服を濡らす。

俺の服を掴んでいる手を、さらに強く握りしめた。

 思わず俺はメリーを抱きしめてしまった。


『―――――!? ゆーま、くん?』


「ごめん、何でだろう。こうしてあげないといけない気がして……」


『もしかして……泣いているんですか?』


「さっきの言葉を聞いたら……メリーは今まで辛い思いをしてきたんだなって。そう考えたら……」


『―――――』


 涙を拭っても涙は溢れてくる。

俺こんなに泣いたことないんだけどな……。


「メリーとは友達以上恋人未満の関係だから、もう辛い思いはさせないから」


『じゃ、じゃあ恋人に昇格とか……』


「それはないけど」


『なんでですか! いい感じだったのに!』


「すまん、苦しい苦しい! 首根っこ締めるな!」


 でもメリーは笑っていた。

最初に会った時より1番いい表情だった。

この子には笑っていて欲しい、そう思った。


『―――――ん』


「な……!?」


『1日1回、ゆーまくんにキスするって今決めました!』


「―――――」


 か、顔が熱い……。

べ、別にメリーのこと好きになったわけじゃないからな!

いきなりだし、大胆なことしてくるから……は、恥ずかしくなっただけだ。


「―――――」


『―――――!? ど、どうしたんですか? メリーの頭に、て、手を置いて……』


 俺はメリーの頭を撫でる。

余程心地いいのか猫みたいにゴロゴロ言ってる。

いやゴロゴロ言ってる時点で普通に猫になってるじゃねぇかよ……。

 ―――――俺はなんでメリーの頭を撫でてあげようなんて思ったんだ?


「2人で何やってん、の?」


「『―――――!?』」


 風呂から上がってきた咲が俺の部屋のドアの前で立ち尽くしていた。

 やばい、この体勢結構まずくないか?


『―――――ふっ、油断しましたね』


「なっ……」


『さっきのお返しです。咲さんには負ける気なんて微塵もありませんので! さぁさぁゆーまくん! さっきの続きやってください』


 そう言って俺に頭を差し出してきた。

なんでこの状況でこんなに冷静なんだ!?

な、撫でてあげた方がいいのか?


「ぐぬぬ……」


 咲はめちゃくちゃ悔しそうな顔をしている。

 うーん、男子には分からない女子の戦いというやつか。

男である俺には全然理解できない……。

 でもひとつ理解できるのは、俺を巡っての争いということだけ。

 学校ではボッチで家では部屋に引きこもっている俺のどこが良いのかが分からない。


「ギャーギャー」


『ギャーギャー』


 俺の耳の近くで騒がしく言い争っている。

おかげで鼓膜がギンギンいっている。

騒がしい環境にだんだんイライラが募り始めた。


「お前らうるせぇよ! 俺の居ない時にやってくれ!」

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