第16話 厄介者
「さすが私が見込んだ龍姫よの」
そんな時、兵たちの間を歩いて璃羽の元へやってくる翠の姿が見えた。
彼が現れるや否や、皆が畏まり、嶺鷹も馬から降りて膝を折る。
「翠。見送りに来てくれたのか?」
「当然であろう。龍姫の初陣ぞ、私が来ぬでどうする。嶺鷹、璃羽を頼んだぞ」
「は、承知」
翠との挨拶を交わし、璃羽たちは忍びの里へ動き出すと、討伐隊もその後すぐ出立する。
そんな時、璃羽はふと空を見上げた。
「……またあの小鳥だ。ずっとついてきてる」
少し離れた青い空の中を、一羽の鳥がぐるぐると旋回しながらも、ずっと側を飛んでいるのが見えた。
「ーー本当に、瑠衣が言った通りよの」
璃羽たちの後ろ姿を眺めながら、翠は小さくぼやく。
「私としては、瑠衣を龍姫としても良かったのだが、どうやらそれは間違いだったようだ」
以前、嶺鷹が連れてきた瑠衣を思い出して、翠は考えを改めた。
あの時は、瑠衣が龍姫に相応しいと思っていた。
彼女に断られても、何度も食い下がって懇願さえした。
しかし
ーー私では駄目なのです。私では龍神様の加護は得られなかった。けれど、いつな様ならきっと……
「正しく龍姫を導く為の扉をつくり上げる、か。異世界から来るにしても、正当なる手順を踏まなければ姫として選ばれないとは、些か信じ難かったが」
だが、実際いつなと共に現れた璃羽には、何らかの加護があるようだ。
どうしてそんなことを瑠衣は知っていたのだろう。
「まったく。そなたは何者なのだろうな、瑠衣よ」
*
それから。
二頭の馬を走らせ何度か休憩をとりながらも、璃羽たちは約半日で忍びの里にたどり着いた。
夕日でオレンジ色に変わった景色の中、キョロキョロと見渡すと、所々建物が崩れたりしていて妖魔からの被害が見受けられたが、夕暮れ時にもかかわらず人集りができているのに気づく。
「あれは……」
どうやら妖魔を討伐する為に集まった里の者たちのようだ。
しっかりと武装した忍び装束の男たちが今回の戦闘を話し合っているところらしい。
「ん? 何者だ! お前たち!」
そこへ璃羽たちが到着し、男たちがこちらを一斉に見てくると、その中の何人かが嶺鷹に気づいてボソボソと呟き始めた。
「あれは龍の爪……!?」
「嶺鷹殿、か?」
「妖魔出現の報告を聞き、参上した。討伐隊を送れず、申し訳ないが」
「いいえっ、あなたの噂は常々耳にしていた。我々にご助力下さるのか?」
「あぁ」
男たちは嶺鷹の返事を聞くなり、ドッと歓喜の声をあげた。
討伐隊を率いてきた訳でもないのにこの反応は、嶺鷹がどれだけ大きな存在かを教えてくれる。
「そちらの女人は?」
一方で璃羽を見て訊ねてくるが、彼女が説明しようと口を開く前に、誰かが遮るように言い放った。
「龍姫、とお見受けするが?」
見ると、人集りの中から若者の男が一人出てきて、鋭い眼球を璃羽に見せつけるように凝視してくる。
「あれは――牛司殿」
彼を知っているのか、嶺鷹がその名を口にする。
「つい最近、この里を束ねる頭領となった者だ。若いが人望もあり、長も大変期待なさっている」
「へぇ」
見たところ厳しそうではあるが、しっかりしていて真面目そうだと璃羽は思った。
今まで妖魔の襲撃にも怯まず、里を守り抜けて来られたのも、彼の手腕によるものなのかもしれない。
「璃羽だ。微力ながら私も協力したいと思ってやって来た。よろしく頼む」
「……」
「?」
璃羽なりにきちんと挨拶したつもりなのだが、何が気に入らなかったのか一度睨んでくると、せっかく差し出した手をそのままに無言で背を向けられた。
何処となく周りの人達の視線も冷たいような気がする。
――分かってはいたが、私全然歓迎されてないっ
「うわぁ、おっかねぇ。俺、帰っていい?」
馬が、言葉が伝わらないのをいいことに好き勝手ぼやく。
出発前はあれだけ駄々をこねてた癖に何なんだと、いつなが呆れていると、
「……長老方があなたに会いたがっていた。案内する」
そう言って、璃羽の顔も見ずに牛司は歩き出した。
ひどい疎外感だ。
それでも仕方なく璃羽はついていくと、そんな気持ちを表すかのように、空の雲行きもひっそりと怪しくなっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます