第14話 忍びの里

 忍びの里では。

 早くも璃羽たちが里にやってくるという情報を嗅ぎつけ、長老たちが集まりを開いていた。


 「龍姫がこの里にやってくる、か。龍姫といっても異世界から来たというだけで、ただの小娘ではないか」

 「そんな娘に、この里が救えるとは思えんぞ」


 彼らは、口々に璃羽の話を持ち出しては愚弄していた。

 やはり伝承を信じていないようで彼女に期待する者はいなかったが、そんな中で皆の話を静かに聞いていた長老の一人がふと呟く。

 

 「しかし、一緒に龍の爪も来るそうじゃないか。奴の腕前は、その名に相応しいものだったのだろう?」

 「そのようだと、影早かげはやの文には書かれている」


 老人がそう訊ねると、側に控えていた若者がはっきり答えた。

 それは、がっしりとした体格に鋭い目つきの男。

 影早というのは、長の屋敷で璃羽を襲った忍のことだろう。


 「その男の反応と身のこなし、間違いないと」

 「奴の噂なら、他でもよく聞く。討伐隊を指揮することも多いが、その太刀を一振りでもすれば、妖魔など軽く吹き飛ぶと」

 「そんな男を護衛につけるとは……随分と長に気に入られたものよの、龍姫は」

 「長は信仰深い方だ。仕方あるまい」


 長老たちの口からは不満の声が多かったが、どうやら嶺鷹も来るということで、何とか収まりを見せていた。

 嶺鷹は龍の爪と呼ばれるくらい、剣に長けていることで有名らしい。

 しかしそんな嶺鷹だけに期待を寄せる長老たちの中で、若者の男は物思いに耽る。

 考えていたのは、影早が送ってきた文に書かれた龍姫のこと。


 ――龍姫から機械のような不思議な音がした。と


 それが何を意味しているのかは分からないが、驚いたことに、連絡手段に影早と共に送り込んだ小鳥のフェイファが彼女に懐いたと、文に記されていたのだ。

 朝、璃羽の肩にとまっていた人懐こい小鳥がそのようだ。

 フェイファは小柄な為に素早く遠くまで飛べるが、その有能さ故に少々気位が高く、なかなか懐かないのだ。


 ――そんなフェイファを、姫が……


 もしや伝承は、あながち間違いではないのか?

 そんな風に思い始めていると。


 「牛司ぎゅうじ


 突然名前を呼ばれて、男は顔を上げた。


 「とにかくお前は、妖魔討伐に全力を尽くせ。龍の爪が来るというのなら、上手く奴を使え。姫の方は影早に任せる、良いな?」

 「影早? 姫を討伐に加えないということか?」

 「小娘に何が出来る? それよりも、長の気に入りなら使い道は他にあろうーー龍姫を籠絡できればあるいは、な」

 「……」


 何やら企みを含む笑みを浮かべる長老たちに、牛司は嫌気がさすも、仕方なく頭を下げた。

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