三景


月夜

ドビュッシー「夢」

帰り道

舞台人たちが反省会をしながら立ち止まっている

マリオはあまり会話に参加しない。

人々が通り過ぎる。

別れる。

マリオが一人残る。

人々も少しずつ減っていき、一人だけ残る。

榊原涼子とマリオが残る。


涼子 月が綺麗ですね。

マリオ なんですか。

涼子 こんばんは。お久しぶり。

マリオ 君は。

涼子 忘れた? 記憶力、結構あったと思うんだけど。

マリオ 涼子。

涼子 やっぱり覚えてる。

マリオ 生きていたのか。

涼子 酷いなぁ。人を勝手に殺して。

マリオ 僕以外みんな死んでいるものかと。

涼子 それは間違ってないわ。内戦のゴタゴタで国の管理下から逃亡し国外で穏やかな生活を送れたのは貴方ぐらいよ。

マリオ 君は何をしてきたんだ。

涼子 月を眺めてきたわ。

マリオ そうか。

涼子 詮索してもいいのよ。

マリオ 身を滅ぼす予定はなくてな。

涼子 勝手にしやがれ。

マリオ 何の用だ。最後の挨拶ってわけでもないだろ。

涼子 恋のランデブーのお誘い、って冗談は通用しない?

マリオ 火傷する気はない。

涼子 人扱いして欲しい。

マリオ 僕も君も普通の人と同じにできない。

涼子 間違いない。

マリオ どうやら君はまだあの泥の世界で泳ぎ続けているみたいだな。僕は脚を洗った。君に協力はできない。

涼子 どうやって生きていくの。貴方は泥で溺れて死ぬしか道はない。私たちの不幸はどっち?

マリオ 不安定な国に拉致されたことか。

涼子 拉致されて直ぐに死ねなかったことか。

マリオ 工作員として優秀だったことか。

涼子 工作員から解放されても生きていることか。

マリオ 全てが不幸か? しかし俺は不幸でも構わない。こうやって月の空を独りで眺められる自由が俺を慰めてくれる。

涼子 心は違うと拒絶してるんでは。いつまでも満たされない、生き抜いていない強迫観念が頭を追っているのでは。

マリオ 構わない。これは俺自身に課せられた義務だ。

涼子 貴方は私と共に闘えば或いは解放される。

マリオ 誘いはごめんだ。もう俺は君とは違う人生を歩んでいる。

涼子 私は信じません。まだ貴方は私と同じ。

マリオ 同じだったとしても、道は違う。

涼子 またきますよ。その時まで考えていてね。


涼子退場


マリオ 俺はもう二度と。人を殺さない。


暗転

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