第82話~第84話
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第82話 ドワーフの歴史
ボルカノ「世界をひとつになんか、してほしくないんだよ」
マリア「ど、どういう意味ですか?」
ボルカノ「今ドワーフは、外部とほとんど関わりを持っていないのは、知っているか?」
ジャンヌ「ええ、ロックスさんが教えてくれた」
フィスト「関わりを持つのは、もうこりごりだって……」
キャッツ「そう言えば、その話になったときに、ロックスさんは、ドワーフは昔、よそ者にひどいことをされた?みたいな言い方だったね」
マリン「うん、すごく悲しいような、やるせないような」
ロックス「…………」
ボルカノ「ははははっ!そうか、ロックスよ。よほど心を許してしまったみたいだな!」
ロックス「申し訳ありません」
ボルカノ「いい、気にするな。気持ちはわからんでもない。このお嬢さん方には、そうさせる何かがある気がする」
ブラド「え?この気難しいおっちゃん、私たちに心許してたん?」
ロックス「……うるせえ」
サリー「かわいい」
リーフ「かわいい」
ロックス「うるせえ!黙って聞いてろ!」
ボルカノ「そうだな、話を戻そう。ロックスが言うように、ドワーフは今から100年以上前、よそ者にひどいことをされていたんだ」
ローズ「それって、ドワーフと仲が悪いっていう、鳥人族とかエルフに?」
ボルカノ「人間にだよ。お嬢さん」
ローズ「えっ」
ボルカノ「鳥人族とエルフ、その2種族とドワーフは、確かに仲は悪いが、お互いに積極的に関わって来なかった。積極的に害を加えるようなこともなかった。だが人間は違った。我々の里に入り込み、里の者をさらっていった」
ジャンヌ「なに……それ…………何があったの?」
ボルカノ「こっちが聞きたいね」
ロックス「……」
ボルカノ「さらわれたほとんどの者は、金持ちの観賞用に売られたらしい。金持ちがそれに飽きると、今度は見世物小屋だ。何もわからずさらわれ、檻に入れられ、『世にも珍しい怪力の小男』と笑われ、怒りに吠えると『野蛮で不潔で凶暴だ』とさげすまれた」
キャッツ「なによ……それ」
ボルカノ「お嬢さん方は知らないが、我々は知っている歴史だよ。私のひいばあさんが子どものときのことだ……ドワーフが人間とそんな関わりを持っていたのはおよそ10年間だ。知恵と心を持つ人間たちが声を上げ、世界条約が作られ、ドワーフは守られた。だが里に戻れたものは半分にも満たなかった」
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第83話 ドワーフの気持ち
ボルカノ「里に戻れたものは半分にも満たなかった」
9人は一様に口をつぐんでいました。
誰もが「ひどい」と言いたかったけれど、言えないでいました。
言えるはずもありません。
ボルカノ「世界条約ができてからは、落ち着いたもんだよ。ドワーフは昔よりもさらに人が踏み込まない地に住み、たまに入り込んだ人間には、できるだけ関わらずさっさと出ていってもらう。そうしてきた」
ジャンヌ「でも……」
ジャンヌは思い返していました。
里の中で多くのドワーフから向けられてきた、好奇の視線を。
ボルカノ「お嬢さん方には悪いが、今回もそうしてもらう。今回、館までご足労願ったのはオーブについて聞きたかったからだ。とは言え、話を聞いてハイおしまいというのは、あまりにも無礼だ。今日はこの館に泊まるといい。お嬢さん方のサイズのベッドも」
ジャンヌ「でも!これからも、ずっとそれでいいんですか?」
ボルカノ「……それ以外、どうしようがある?人間への恨みを持つ我々は」
マリア「持ってるんですか?そんなもの、本当に」
ボルカノ「……」
里の長は黙って少女たちを見つめます。
キャッツ「あなたの穏やかな話し方には、私たちへの憎しみなんて感じられないわ」
フィスト「それに、街にいたドワーフたちも、珍しそうに見てきたけど、決して、憎むようににらみつける人はいなかったわ」
ブラド「確かに、話聞いたら、石投げられてもおかしくないもんね」
サリー「ボルカノさんのひいおばあちゃんが子どものころの話だったら、ボルカノさんは、人間と話すのは初めてではないですか?」
ボルカノ「賢いお嬢さんだ……」
リーフ「エルフも、むかし人間にひどいことされたって聞いてます」
ボルカノ「……そうだな。世界条約によって守られたのは、ドワーフだけじゃない。すべての種族だ」
リーフ「でも、私は昔の人たちがしたことを見てないし、されてもいない。だから、今こうやってみんなと過ごしていて、仲良くなれるって、思ってます」
ボルカノ「それは君らが何も知らんからだ」
次の瞬間、怒号が響きました。
マリン「いい加減にしなさいよね!あんた!」
ロックス「おい!」
ロックスの怒り交じりの制止と同時に、衛兵が槍を9人に向けました。
ローズ「リ、マリンちゃん……」
マリン「知ってることの何が偉いのよ!」
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第84話 マリンの気持ち
ボルカノ「それは君らが何も知らんからだ」
マリン「いい加減にしなさいよね!あんた!知ってることの何が偉いのよ!」
ロックス「おい!やめろ」
マリン「なによ!だってそうでしょ!?リーフは昔エルフがされたひどいことを知らないから私たちと仲良くできるのよ!知らない方がいいこともあるってことじゃん!」
ジャンヌ「マリン……」
マリン「私たちは言っちゃダメなの?『知らない方がいいこともある』って。やった側だから?」
ボルカノ「…………」
マリン「確かに、ドワーフの、あなたたちの歴史を考えたら、『知らない方がいい』なんて簡単には言えないかもしれないわ……でも、知ってる世代が知らない世代に怨みつらみを語って、憎しみを受け継がせることは、立派なことじゃないわよ!それくらい私にもわかるわ!」
マリア「それに、あなたも、ロックスさんも、今のドワーフの若い世代も、実際には憎しみなんて受け継いでいません。そうでしょ?」
ロックス「…………」
フィスト「私もそう思う。里の中で出会った子どもたちは、私たちを本当に、珍獣を見るような目で、好奇心たっぷりで見てたわ。『どんな人たちなんだろう』って、目が輝いてた」
ブラド「ロックスのおっちゃんもな(笑)」
マリン「私が何より許せないのは……そんな前の世代の不仲を残すことで、今の世代の可能性を、あんたたちがつぶしてることよ!」
リーフ「マリンちゃん……」
ロックス「おい!いい加減にしろ!」
ボルカノ「いい、しゃべらせろ」
マリン「そりゃどうも!ありがたいわね!私はね、もっと世界に目を向けろって言ってんのよ!この里を作るための技術が、外の世界に行ったら、どうなると思う?」
ローズ「確かに、こんなすごい技術って、どこの国にでもあるものじゃない……」
マリン「私、海を渡って、いろんな国の、いろんな場所を見てきたわ。今にも崩れそうな橋、踏み外したら命を落とす崖、肉食魚が棲む川、そういう道を歩きながら、学校に通う子どもたちがいるのよ!」
サリー「そんな場所があるの……?」
マリン「その子たちは……そんな大変な毎日を送りながら……家事や農作業もして……それでも……それでも!幸せいっぱいに笑うのよ……見たことないでしょ!」
マリア「……」
マリン「あんたたちが外で仕事することで、そんな子どもたちの、どれだけが救われると思ってんのよ!そしてそういう仕事をする姿を見せることが、ドワーフの子どもたちにとってどれだけ素敵なことか、ちょっとは考えたことあんのかって聞いてんのよ!よそ者と関わらないのが、掟だかしきたりだか知らないけどね!そんなもん、あんたたちがこれから作れる未来に比べたら……ク〇くらえよ!」
マリンは言い終えると、肩を大きく上下させ、荒い息を上げながら、ボルカノをにらみつけていました。
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