迷探偵の条件【増量試し読み】
日向夏/MF文庫J編集部
始 真丘家の男の宿命
始 真丘家の男の宿命
「お前は運命の女性を見つけるんだ……」
叔父さんは十八歳の誕生日に死んだ。
死因は、見ず知らずの女性ストーカーに刺されたこと。
辞世の句は、
「童貞捨てたかった」
だった。
俺こと
「ねえ、りくくん、わたしのことすき?」
長い髪の女の子。近所に住んでいて保育園も一緒。優しくて
八歳の時は、バレンタインデーに手作りチョコを
十五歳、電車で痴漢の
そして、今日は四月三日。俺の十七歳の誕生日。
女性という人類の半分を占める生命体に恐れを抱くしかない人生も十七年だが、誕生日とくればめでたい──わけがなかった。
「はぁっぴばぁすでぇ~」
読経のようなバースデーソング。十七本、ろうそくが立ったケーキ。鼻水を流しながらろうそくを吹き消す俺と、通夜のような重々しい顔の母さんとじいちゃん。
「陸がもう十七歳なんて……うぅ」
「お、お
無事と言えるだろうか?
先週、俺の子を妊娠したという女性に出会ったのですが、残念ながら清い体です。ええ、残念ながら。
悲しみにくれつつも、母さんはケーキを切り分ける。不器用な人だけど、普通一番大きいケーキを息子にやるもんでしょう。なんで自分が一番大きいケーキを取ってるのかな。本当にちゃっかりしている。
「母さんにじいちゃん、ケーキ食べよ……。わぁい、俺の好きなメロンだー」
俺はカラ元気を振りまきつつ、なぜかしょっぱいメロンケーキを
そんな中、呼び鈴が鳴るとともに、どたどたと誰かが入ってくる音がした。俺らがいる居間にやってきたのは、すらりとした
「誕生日おめでとう!」
パーンと、爆発音とともに、紙吹雪とリボンが舞い散る。葬式めいた誕生日がほんの少し明るくなった。
「ユキ! めっちゃケーキにかかってる」
俺は紙吹雪が積もったケーキを掲げ、クリームがついたリボンを
「わっ、ごめん! あっ、おばさん、おじいちゃんこんにちは!」
「ふふふ、相変わらず元気ねえ、ユキくん」
「前よりもカッコよくなったのう」
慣れた様子で母さんとじいちゃんはユキを迎える。
ユキは俺と
「ほい。誕生日プレゼント! 全然、めでたくなさそうだけど、ないよりましだろ?」
ぽいっと投げられる紙袋を受け取る俺。
「開けるね」
「どうぞ」
妙にドヤッとした表情を見せるユキ。
紙袋の中には懐中電灯が入っていた。
「なんで懐中電灯?」
俺だけでなく、母さんとじいちゃんも不思議そうにのぞき込む。
「これはこう使うんだ」
にこにこ笑いつつ、ユキは懐中電灯のスイッチをカチャカチャ動かす。強烈な光とともに、バチッと電流が走った。
「光だけでもひるませられるけど、だめだったらここのスイッチ切り替えてスタンさせる。
「いやいやいや」
誕生日プレゼントに懐中電灯型スタンガン。ユキは幼馴染だけあって、俺の引き寄せ体質を熟知している。ユキに何度、痴漢の
「ユキくんがいると心強いわ」
「そうだなあ、剣道も空手もどちらも強いからなあ」
「
母さんとじいちゃんは、俺を見て大きなため息をつく。
「あー、もううるさいなあ! ほら、ユキも食うだろ、ケーキ」
「食べる! いただきまーす」
丸いケーキは四等分されていたのでちょうどよかった。たぶん、残ったら母さんが食べただろうけど。
俺は、物騒な誕生日プレゼントを横に置くと、またフォークを手にした。
ユキのおかげで少し気持ちは明るくなったものの、俺の中のカウントダウンは止まらない。
俺は今日で十七歳。
十八歳で必ず死ぬ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます