第十六話

 「此方も疑う訳じゃないんだが…抑々の話確かなのか?護衛について来た連中が聖騎士を除いて軒並み背教者だ、ってのは」

 「それを証明するのはある意味でとても難しいのですが…時に、ユリウス卿は木神様と意を交わすことは出来ますか?」

 「いやぁ御冗談…あぁ、何となく話が読めてきたな、日神か月神の神託で知れた訳か」

 『帝国の首都イポリス・ミクラガルズには万象の真実を照らし出す日神オークゥと賢人にも見通せぬ明日を報せる月神フルの神祠がありき』ってのが吟遊詩人の唄にも有ったな。


 「『神々の語りしをあまねく人の世に知らしめしは聖女のみ、天上の詞を解し紡ぐのは天下に聖女のみ』、そりゃあ人間相手に説明は難しいやな」

 「…理解が早いのはよい事です」

 意地でも『助かります』とは言えねぇのか、『お願い』の時にも思ったが中央の慣習ってのは難儀なもんだな。自分について吟われるのを恥じらってるらしい辺りは多少可愛げあるが。


 「ユーリぃ~?」

 「いやいやいやいや違う違うそう言うんじゃないですすいません不敬ですねやめます」

 「気の多い方とは聞いていましたが…申し訳ありません、この身は天上と祖国を渡す橋としましたので…」

 「変な気ぃ遣わんで!なんか俺が振られた感じになるから!つーかそこは素直に謝っちゃうのかよ!」

 後ろの聖騎士が全身震わせながらやっばい殺気漂わせてるのでマジでやめて欲しい。



 「…まぁそう言う事なら話自体は信ずるに吝かじゃねぇよ、ただ問題なのは対外的にそれを証明する手立てが無い以上こっちの身の保証が無いって事だ」

 聖女の祈請巡礼の警護、しかも御忍びの道行きに同行するとなればそれなりに高い位の人間も混じってる筈だ。そんな連中を物証も無しに排する、しかも使うのは凡そ文明とは縁遠い生活をしてるエテ公の集団。万一世間に事が明るみになった場合印象的にはこっちが不利だわなぁ…


 「せめて聖女サマに尻尾切りするつもりがないってこと位は示して貰わねぇと、捨て駒は勘弁だぜ」

 俺の言葉に暫し思案した聖女は徐に口を開いた。



 「であれば、今この場で貴殿に『聖騎士』の位を与えましょう」



 「…流石にその返しは予想してなかったな」

 「…?なぜです?これならば間違いなく一蓮托生と分かるでしょう?」

 そう、職務も報酬も無い名誉称号が何故諸国連合における最大の誉れと称えられるかの理由がそこに有った。


 『聖女は聖騎士と運命を同じくする』、これは聖騎士の称号が作られた当時から絶対の不文律として存在した。しかもこれは聖騎士に殉死を強いるのではなく、騎士の犯した罪を聖女が一方的に背負う形でのみ発揮される。

 過去には『救世の戦巫女』と吟われたにも関わらず、命令無視から背教の嫌疑をかけられた騎士と共に火刑に処された聖女すら居たのだ。それ程に、聖女がこの称号を与えることの意味は非常に重い。ぶっちゃけこんなその場の思い付きみたいなテンションで貰えるもんとは終ぞ思わなんだ。


 「そこまでの覚悟なら…良いだろう、聖騎士の位、謹んで頂戴します」

 佩剣を腰から外し、鞘を持って跪く。

 「ビユ・マルシェの広場に共に並ぶその時まで、俺がマグニシアの安寧を守る妨げにならぬ限りにおいて、聖騎士として務めを果たす事を誓おう」

 「…宜しい、口の減らぬ勇士よ、妾の地上における権能に基づいて、貴殿の誓いを受け、『聖騎士』の称号を与えましょう」


 ―――


 えええええ、きゃっこいいぃぃぃ~~~

 ウチの天使くんマジでカッコよすぎるんですけどぉぉぉぉぉ


 大国の皇女様相手に大人の会話をそつなくこなして交渉までしちゃうとかヤバすぎん?

 ちょっと悪ぶって乱暴な口調で応答しちゃうところもきゃわいい~~~

(/▽\)♪


 しかも『聖騎士』!ウチの子が!諸国連合最高の栄誉称号受勲者!最強か!もうユーリしか勝たん!

 もう無理ぃ~!///しゅきぃ~!///


 ―――


 「あの…先程からエリザベートの様子が…」

 「うん、分かってる、いつもの発作だから御構い無く」

 「ね、ね、ちょっと…ユーリ、馬車まで連れてって」

 「…すいません、ちょっとウチの主人が限界っぽいので休ませて来ます」

 「分かりました…出発は予定どおりでも?」

 「大丈夫です、薬与えれば落ち着きますから」

 「うん…おくしゅり…ユーリのおくしゅりちょうだ「ちょっと!!ヤバそうなので!!失礼します!!!主に人間としての尊厳とかが!!!」」

 

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