第十四話
第十四話
最近星の巡りが悪いのかやる事為すこと悉く裏目に出ている気がする。まぁ公に奉仕する身分を考えると行動の結果が後の自分に与える影響を考えられる程選択の余地自体もそう多くは無いんだが。
同郷連中に散々責められた上に件の聖女殿下にも謁見するや早々にキツめのお叱言を賜った。消沈した心持ちで進む道中は足取り軽くとは到底行かず、衆目が無いのを良いことにリズの膝枕で散々に不貞腐れて過ごしたのだった。
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「なんじゃい、着くなり無愛想にしとったのはそれが原因か」
「…それだけでもねぇよ、つーか油売ってて良いわけ?」
「曾孫との語らいに勝る用事は心当たりが無いのう、お前さんこそ警護の仕事は良いんか?」
「一体聖域の最奥で何から警護しろってんだ…」
木神べトールの座す聖域最深部は広大な森林を定められた道順で進まなければ決して辿り着けない。森で生まれたもの、或いはそれらと深く縁を結んだものでなければ立ち並ぶ木々に知れず五感を惑わされ緑の大海を彷徨う羽目になる。
「先の討伐での次第は噂にも聞いとるよ、大層な活躍だったそうではないか」
「…一体誰からどんな顛末を聞いたらそんな結論になるってんだ」
「デメテルのやつが『麓の様子を見に行くと良い』と強く勧めるものでな、ついでに陛下のご様子伺いに城下で仕入れた酒瓶を提て行ったらそれはもう雄弁に語って下さったわい」
「…うちとこの王族がたは何方様も酒精に魅入られ易くって困るぜ」
その癖イイ所で寝落ちするもんだから俺は何回お預け食らったか知れねぇ。
「なぁに、人死にを出さなんだなら大金星だろうて」
「さっすが、大侵攻を食い止めるのに友好国の砦一つ丸ごとぶっ潰した『壊し屋ガイウス』のお言葉は説得力が有らぁな」
「おうとも、『人命の為に使える物は何でもぶっ壊せ』は我が家の家訓ぞ」
「いや聞いたことねぇよ!言ってる事もだいぶ滅茶苦茶だよ!」
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「まぁお前さんの事だ、自分に向けられる悪口雑言よりも大きな気掛かりが有るのだろうが」
「…わかってて聞くのは野暮ってもんだぜオジイチャン」
そう、平民上がりの近衛副長に対する木っ端文民どものやっかみなどは全く取るに足らない。道理の分かる連中には間違い無く実力で築いた地位だと理解も得ていよう。結局のところ、そんな俺に寵愛を向ける二人に対しての風聞のみが唯一の懸念だった。
「まぁ儂が総隊長の時分にもそんな輩は少なからず居ったが…背負うものが自分以外にも有ると中々なぁ」
「あんまり気にしない様に私達も言い含めているのだけれど…愛の深さが仇になってしまうのでしょうね」
「いやそれもちょっと違…ってなにしれっと参加してんの」
「形式に則った請願の儀は済んだわ、御歓談の邪魔になってはいけないと思って抜け出して来ちゃった」
どうせ何を話しているか私にはわからないし、と付け加えたリズはそのまま膝上に滑り込んでくる。バランスを崩さぬよう横抱きに支えながら眉間に寄った皺を揉み解していると隣の曾祖父は堪えきれぬと言った様子で吹き出した。
「おい爺ぃ…何が面白いか言ってみろ」
「いや、何、悩み相談に真剣に取り合ってやろうと思っていた自分が阿呆らしくなってな…幸せそうで何よりだよ、坊や」
「やめろぃ!正しく『年配者特有の生暖かい目』で見るんじゃねぇ小っ恥ずかしい!」
その後、リズの後を追う様にしてやってきた義妹友人たちにさんざ囃し立てられた俺は曾祖父同様全く悩むのが馬鹿らしくなってしまった…
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「あっ、ひいさまズルい、私も義兄さんのお膝乗りたい」
「アンタ…公衆の面前で堂々と複数の女性侍らせて恥ずかしくないワケ?」
「かーっ!これだから出世頭はなぁー!」
「…な?儂があれこれ言うてやるでもなく人には恵まれ取るじゃあないか」
「この扱いでか!?この言い種をして『恵まれてる』と抜かすか!?」
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