第27話 兄弟

今まで見た事のない険しくも凛々しい表情で冷たく言い放ったシェルジオに私達は驚いた。


隣にいたハレルドもシェルジオを見て固まっていた。


「コール、昔からお前は素直でバカだった。だからこそ、この家を継ぐのはお前しか居ないと思っていたが、私は間違っていたようだ。」


シェルジオの目は嫌悪感で満ちていた。


「まるで自分は兄弟想いかのように言われるんですね!!いつも俺のことを見下していたくせに!」


コールは立ち上がるとシェルジオに向かって叫んだ。手を後ろで縛られたコールは肩が軋むのも構わずに前のめりでシェルジオへ罵倒を繰り返す。


「アンタみたいなのが兄になったせいで、俺がどれだけ生きづらかったかわかるか!?いつも比べられて貶されるのが俺の役目だった!それでもみんなに慕われるあんたは俺の目標だった!でも!…アンタ俺になんて言ったか覚えてるか?覚えてないよな!?だって、あんたにとって俺はアンタを目立たせるための道具だったに過ぎないからな!教えてやるよ。アンタは俺に、努力をしろ。と言った。」


それまで黙って聞いていた私達は目を丸くした。

いや、みんな多分よく言う言葉だと思う。努力が足りないから成功しない、とか、試合で負けた時努力が足りなかった、とか。

それは多分シェルジオからしたら、厳しい激励の言葉、けど、コールからしたら…


「俺はな!!今まで努力してきたんだよ!でもそれはアンタのためじゃない!俺自身の為だ!いつかアンタを超える為に、だから医師としての資格を取ってアンタを見返したかった!でも、学校でなんて言われたと思う?出来損ないの弟。」


耐えられなかったんだ。どんなに努力をしても、完璧な兄を持つと少しでも出来ない自分が周りからもバカにされる。たとえ秀才だとしても。


コールは確かに一般人よりは頭もよく武術にも秀でていると聞いたことがある。(ベルの記憶の中で)


でもそれだけじゃダメだった。


兄が『完璧』だったから。


弟のコールも同じく『完璧』を求められた。


「俺が試験に落ちたのはアンタのせいだ。アンタの弟だから、周りの期待に少しでも逸れればみんなは俺を勝手にダメなやつと評価した!アンタの存在が勝手に俺の価値を決めたんだよ!だから!俺は医師として才能が有ると認めさせたかった!正確には俺は奴隷商人じゃない。解剖して、臓器を売るいわゆる仲介人だ。ただ丈夫な奴隷を選別するために、商人として働いたこともあるけどな。」


コールは、シェルジオに大きなコンプレックスがあったのか。


シェルジオはコールの話を黙って聞いていた。


表情は変わらず冷たかったけど、目の奥は泣いているようだった。


私達が動こうとした時、シェルジオは口を開いた。


「すまなかった。」


それを聞いたコールは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「謝るな!!これ以上俺を惨めにするな!!アンタは、どこまで俺をバカにする気だ!!」


今にも頭突きをしそうな勢いでシェルジオに向かったコールを兵士が押さえ込みコールは呆気なく地面へ倒れた。


私は兵士に顎で連れていくよう命じた。


喚きながら連行されたコールを、見えなくなるまで見送ったシェルジオは、私を見てまたあの苦笑いをした。

私はシェルジオに対して少し怒りが湧いた。


「なんなんだお前は。」


気づけば私はシェルジオに対して、嫌悪感丸出しで、低い声で、そう言ってしまっていた。

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