第911話 中継拠点

「周りの木が高くなっているせいですかね? まさかあの高さの壁を突破して、中に入られるとは思いませんでした。入りにくくするような返しより、単純に高くした方がよくないですか?」


 戦闘後、食事を終えてピーチと先ほどあった襲撃について話し合っている。


「確かに高くすれば問題解決かもしれないけど、単なる平面だと工夫次第で登れちゃうからね。かといって凸凹にしたら、身体能力だけで登れる可能性も出てくるし、悩ましい所だね。イメージで壁が造れるといっても、細かい装飾までは無理だからね」


「でも、普通に壁を作るだけでしたら、表面はそこまでつるつるにならないのではないですか?」


「そうだね。でもそのつるつるにならないというのが厄介で、魔物のステータスは人間に比べて基礎値が高いからね。その微妙な突起でも登ってくる可能性が出てくるんだよね」


「それでしたらいっその事、入れなくしてしまえばいいのではないですか?」


 シュリから出された意見を自分の中で噛み砕くのに時間がかかった。それは、話を聞いていたピーチやアリス、姉御組の皆も同じだった。


「どうかしましたか? 入ってこれる場所があるから困っているなら、全部を塞いでしまえば問題ないと思います。強度の事を考えるなら半球状のドームを造れば問題ないと思います。それでも重量が気になるのでしたら、ドームの中に柱を建てるか、半球状の岩を召喚でもしてくり貫けばいいのではないですか?」


 そう言われて、目からうろこが出る気持ちになった。


「なるほど! それなら強度を気にする必要もないし、加工自体も簡単だもんな。気になるとすれば、通気口をどうやって配置して、一応見張りに立てるように何かしらの工夫は必要か?」


「見張り台なら、鉄格子でもはめておけば十分じゃないですか?」


 1ついい案が出ると、次々にいい案が重なっていく。20分程話し合って、ここに来るのは俺たちだけではないという話から。100人規模で泊まれる野営地がいいのでは?という話におさまった。


 ダンジョンの床や地面は基本的に加工できないが、地面の上に物を置く事には何の問題も無いので、その置いたものを加工する事で話がまとまった。


 居住性はあまり考えずに、カプセルホテルをイメージした寝る場所にする。高さ1メートル、横1メートル、奥行2.5メートルで1人分の寝床だ。


 天井までは3.5メートルで、縦に3人分ずつ寝床を作り、2メートルの通路を挟んで両側に3人ずつ。1メートルと壁分の距離で6人分の寝床が確保できることになる。20列作れば120人分。十分な数だと思う。2階に別けて、13列と7列に別けよう。


 直径30メートルの半球体があれば十分だろう。1階は所々に柱を作っておけば問題ないだろう。そこには、食事スペースと調理スペースを用意して、2階の空いているスペースにお風呂とトイレ、3階は寝るところ以外必要ないかな?


 もし使いにくかったら、また改造すればいいだけだし問題ない! とりあえず、今回は俺たちが使うだけだしな!


 ソウと決まれば行動は早い。DPで硬い岩を召喚しようとしたが、


「別にドーム型にこだわる必要ないよな? 四角い建物の方が距離とか簡単に測れるから、四角い岩を召喚してくり貫こう」


 1階は水回りが中心の方がいいという事になり、お風呂とトイレを作ることにした。だが、男女を別けていなかったので2つ作成している。縦横20メートルのサイズで外壁は2メートル程の分厚い物にしておく。キッチンも1階に設置している。


 2階は、食堂兼ミーティングルームのような空間になっている。


 3階は、10列ずつのカプセルホテル風の寝床が120人分。


 4階は無く、屋上になる。外の様子をうかがうための場所と考えている。外につながる扉に関しては、スライド式になっていて、鍵を使う事によって上下に閂がかかるようになっているので、これを力尽くで動かす事は困難だろう。素材はアダマンタイトで作成しているしな。


「初めての作業だったから、思ったより時間がかかっちゃったな。もうすぐおやつの時間だな。昼食がちょっと早めだったから、3時間くらいかかった計算かな? 今日はこれ以上進むのは止めよう。今から行っても中途半端な位置で野営する羽目になるからな」


「ご主人様、ちょっとお待ちください。確かに今から向かえば中途半端な位置で野営になるかもしれませんが、3時間程整地しながら進んで戻ってくるのではダメですか?」


 ピーチの提案に妻たちが全員頷いている。それでいいのか? と思わなくないが、みんながやるよ言っている以上、俺も協力しないといけないな。軽く休憩を挟み出発する事になった。


 10日前にここに来た時に比べると、少し魔物の密度が高い気がする。進むのにやはり時間がかかっているな。


 ただいい事と言えば、1つ目の中継地点であったような、大量の魔物が一斉に襲い掛かってくるわけでは無いので、特殊攻撃をする前にほとんど倒せているという所だろう。魔物の密度。数が多くなっているので、10日前、伐採しながら進んでいた時に比べれば、頻度は高くなってしまうのはしょうがないか。


 3時間で2キロメートル程整地して進む事が出来た。


「やっぱり10日前に比べると進める距離が短くなってますね。作業に慣れてきたと言っても、伐採しながら道を作っているわけですし」


 ピーチはもう少し距離を稼ぎたいと考えていたようだが、さすがに無理して進める事はせずに堅実に1歩1歩前に進んでいく指揮をとっていた。


「今日はしっかりとした建物の中で寝れるから、ゆっくり休んで明日に備えよう」


 少し落ち込んでいる様子だったピーチだが、食事を食べ気を取り直したようで明日の計画を立てると言って、年長組や姉御組を呼んで話し合いをするようだ。


 俺は先にお風呂へ入ろうと移動すると、従魔たちが全員男風呂の方に入ってきた。


「お前ら、俺に全員洗えって言うのか? さすがに全員洗うのは無理だから、毛に絡まったゴミを洗い流すくらいだぞ! ブラッシングは後でしてもらえよ!」


 シャワーの魔導具を少しいじって水圧をあげてから、並んでいる順に全身にお湯をかけていく。簡単な高圧洗浄機みたいな威力の水圧だが、従魔にとっては心地がいいのか、尻尾をぶんぶん振っている。まわりに被害が出るから気を付けてくれよ。


 1匹が終わるたびに、ブルブル自己脱水するため俺は抜け毛が体に張り付き大変な思いをしていた。一番被害にあっていたのは、立ち位置的に最後尾のダマだったけどな。


 シエルは、長い首をつかって、口に柄付きブラシを加えて甲羅を綺麗に洗っていた。途中でお湯かけて! と言われることはあったが、ほぼ自分で行ったようだ。洗ってもらうのを待ってたらいつになるか分からないからな。


 甲羅を洗い終えると、湯船に走っていきダイブして、コウとソウに怒られていた。ウルフは湯船が狭いので今回は入らずに出ていっている。クロとギンも一応そういった配慮できるんだな。

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