第892話 迷走に次ぐ迷走
どういった船を造るか話し合い、迷走を始めて1時間が経過していた。
「思ったんだけどさ、造りながら考えないか? このまま話してるのも面白いけど、俺たちの目的は……ロマンを造る事だろ? 足踏みなんかしてる場合じゃない! だから、まず船のサイズを決めよう!」
2人から少し不服な感情が出ているが、このままでは話が進まないことも分かっている。なので、俺の意見を受け入れてくれた。
そこからは、船のサイズを決める話し合いが始まった。
はずなのに、船首に付ける武器の話に移行していた。積む武器によっては船のサイズに影響が出ると、俺が話を逸らしてしまっていた。
「やっぱり武器は、あの宇宙戦艦に付いているようなやつがいいわ!」
「確かに……あれはロマンでござるからな。ですが、あのまま船首に付けても怪しさバツグンでござるよ」
「それなら、開閉式にして隠すしかないか? 偽装船とは言え、漁船の見た目にするなら、漁船としての機能もないと怪しまれるよな。あっ! 魚は収納箱に入れられるようにしておけば、船内のスペースを船首の武器にまわせるか?」
「それはいい案でござる。ついでに、捕った魚を入れるプールと、製氷機もほしいでござるな。魚を締めてからじゃないと、収納箱に入れられないでござるからな」
「収納箱があるなら、船内のスペースにかなり余裕が出来るわよね? 船体の半分だとさすがにスペースをとりすぎだから、3割位で武器を作ればよくない?」
「とりあえず、武器の構想としては、10メートル位あればいいから、30メートルクラスの船にしようか」
こうやって船のサイズが決まった。そこからのスピードは、尋常じゃないくらい早かった。
夕食の前には、見本として出した30メートルクラスの漁船を真似て、外観は完成していた。
夕食の際に、リンドから船の造り方の手順が全く違うわよ! と、突っ込まれたが、こんなムチャクチャな方法でも、問題なく造れてしまうクリエイトゴーレムさん、マジ半端ないって!
ちなみに装甲は、外から樹海の木材、アダマンタイト、軟らかいミスリル合金、アダマンタイト、樹海の木材となっている。しかも、魔核に使った魔石はSランクで、船体だけで30個もつかっている。
これだと、一撃で大破しなければ、10分程で完璧に直るレベルだ。そもそもアダマンタイトをSランクの魔石で作った魔核で強化しているので、壊せる敵がいるかどうか?
外観はできたので、明日からは、武器を積むスペースに合わせて、可能な限り強力なものを作る予定だ。
だったはずなのに……今は、船の機動力について話し合っている。デジャヴ!
「確かに、攻撃力は大切だと思うよ! でもさ、遅い船じゃ意味ないでしょ? だから、動力にもこだわるべきだと思うの!」
今日の脱線者は綾乃だ。昨日、話を脱線させた俺が言うのもなんだが、よく重要な事に気が付いた!
「とりあえず、1つは従来型のスクリューでいいとして、補助というかメイン動力は何にしようか?」
「えっ? スクリュー以外になにがあるの?」
「例えば、ジェットエンジンみたいな風で速度を得る方法かな?」
「……」
「それだけしかないんかい! 思い浮かばなかった私が言うのもおかしいけどね。バザールはなんかないの?」
「思い付くのは、魔法による水流操作くらいでござるな」
一応出てきたのだが、俺と綾乃にはよくわからなかった。
「そんな胡散臭い顔で見ないでほしいでござるな。自分が考えたのは、イメージをするでござるなら、筒の中にある水を操作して前から後ろにかけて、水を動かすような魔導具でござる」
「……あぁ! そう言うことか、その反動で船を動かすってことか! 理屈は全く違うけど、ジェットエンジンを水中で使うようなものか! 水の方が質量があるから、反動も強くなるよな」
ああでもない、こうでもない、とそれから30分。
「とりあえず、通常動力にスクリューで、水中の両サイドの船底にバザールの案の水中ジェット、水中じゃない船尾の両サイドにジェットエンジンでいいか?」
話がまとまらなかったので、全部を採用することにした。
魔導具を作成し始めて気付いた。
「通常動力のスクリューはいいとして、他の動力は隠しておかないと拙いでござるな」
「そうだよな、船底のはともかく船尾にこんな風に筒が付いてたら不自然だよな・・・」
「それもそうだけど、このジェットエンジンを参考にした動力。これ拙くない? バードストライクじゃなくて、フィッシュストライクや浮遊物の巻き込みとかが怖いわよ!」
「フィッシュストライクなんて言葉は無いと思うけど、確かにアダマンタイトで作っても、壊れはしないが機能不全をおこしそうだ」
「あのでござる。ちょっと言いにくかったでござるが、自分が考えていた魔導具は、ジェットエンジンみたいに羽根が付いているような物ではなく、魔法を使う魔導具でござる」
俺と綾乃は理解できずに、頭の上にハテナマークがたくさん浮かんでいた。
「えっとでござるな……【ウィンドブロウ】こういった魔法を付与出来ないでござるか?」
「「あっ!」」
やっとバザールの言いたかった事が理解できた。
「その方法なら、確かに巻き込みの心配はないわね!」
「確かにそれが出来れば問題無いんだけど、ゴーレムに魔法を使わせる事って出来ないんだよな」
「そうなのでござるか? 昔、まだ生きてた頃の話でござるが、羽根のない扇風機みたいな魔導具があったでござるが」
俺も綾乃もそんな魔導具を見たことないが、バザールが見たことあると言ったからには、昔は存在していたのかもしれない。
と言うことで、ダンジョンマスターのスキルで召喚できないか3人で、リストを探し始めた。
1時間が経過しても見つけることが出来なかった。
「昔、バザールが見たことあるなら、絶対にその魔導具はあるはずなんだよな。可能性を考えるなら、目的も分からず試験的な意味で作られた魔導具の可能性か? あのカオスなラインナップのタブの中を見るしかないな」
この世界の召喚物の中にある、使用用途不明と謎の物体というタブがあるのだ。
過去に何度か見たことあるのだが、ただ震える物体、外れなくなる指輪、摩擦力が減る靴等々、何のために作ったのか不明な物が山のように羅列されているのだ。
俺達3人は、げんなりとした表情になり、禁断のタブの中を捜索することにした。
発見出来たのは、2日後のおやつの時間を少し過ぎたくらいだった。
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