第801話 まさか!

 魔物が10匹が合流してから5分以上が経過しているが、シュリたちは安定して10匹の相手をしている。


 俺たちからすれば、このくらいできて当たり前だったりするんだけどな。樹海の魔物としては強さは普通だが、10匹のオオカミ系の魔物の連携なので、一般的な冒険者たちからすれば絶望的な強さだと思われる。


 まぁそんな魔物が相手でも、俺たちが相手となれば10対1でも避ける事に集中すれば、怪我などを負うはずも無かった。そんな様子をマップ先生で確認していると、ダマから念話届いた。


『主殿! 5人組の冒険者は、シュリ様たちから見えない位置で、様子をうかがっていますね。そこでの会話の内容は「あいつら予想以上にしぶといな、早く怪我しろよ!」と言っています』


「ってことは、こいつらはここまで連れてくることが、仕事の1つという事だな。こっちも手をうつか、3人組の方は犯罪の称号があるから、サクッと捕まえてしまおう。ピーチ任せていいか? 2チームほど連れて捕縛してきてもらっていいか?」


『了解いたしました。アリス、こっちのチームと合流して3人組を捕まえに行きます』


「5人組の対処は……スライムたちやダマに襲わせると、俺に犯罪の称号がついてしまうか? じゃぁここは、ダンジョンマスターの力で魔物を生み出して襲わせるか。俺が生み出しても従魔と認識されてなければ犯罪の称号がつかないからな。


 もしそれで称号がつくなら、すでに俺にも称号ついてるもんな。という事で『目には目を、歯には歯を』でいきますか」


 そう言って俺は、5人組の近くに狼系の魔物を10匹召喚して様子を見る。ちなみLvは5人組の平均が70前後に対して、俺の召喚した狼たちは同じ70だが、能力向上Lv10を覚えさせているので、ステータスは圧倒的な差がある。


「ダマ、そっちに召喚した狼たちが行ったから様子見ておいてくれ。一応召喚する時に、殺さないように注意するように意識したけど、もし殺しそうだったら吠えて追っ払ってくれ」


『了解した!』


 引き続きマップ先生で様子を見ていると、すぐに3人組が捕まった。5人組は奮戦しているがどんどんけがを負っている様子だ。自分たちが危険だと分かったのか、さっきはシュリ達から離れていっていたのに、今回は近付いていっている。


『お前ら! 助けてくれ! こっちにも魔物があらわれた! 前衛の2人がケガしちまったんだ! 頼む!』


『無理です。私たちもこいつらの相手で忙しいのです! 自分たちで何とかしてください』


『お前たちは、まだ怪我してないだろ! 何匹かもってくれ! そしたらこっちで片付ける!』


『あなたたちは、さっき煙玉のような物を使っていたでしょ! それでこっちに3匹が追加されているんです。その煙玉をもう1回使って見てはどうですか?』


 シュリの助言によって煙玉を使うと、シュリたちに群がっていた狼系の魔物がどこかに逃げていった。


『早くこっちを手伝ってくれ!』


『思ったよりあっさり引きましたね。それであなたたち、こっちに3匹が来た時に、何で私たちを助けなかったんですか?』


『そんなこと言ってる場合か!? 早く助けろよ! 死んじまうだろうが!』


『こうやって、何組のパーティーをここに誘導したのですか?』


『何のことだ! ふざけてないで早く助けろよ!』


『……』


 無言になって、近くの3匹を釣って対応する。


「ピーチ、そっちに逃げていった従魔だと思われる魔物を……ってもう処理が終わってたか。3人組を連れて他のチームと合流してくれ」


『ふざけるな! 何で3匹だけなんだよ! もっとひきつけろ!』


『ふざけた事言わないでください! あなたたちの方が人数が多いのですから、何とかしてください!』


『クソが! お前たち、あれをやるぞ!』


 そういうと、5人組がシュリたちの方を目指して走り出す。その際にシュリたちをはじいて進もうとしたが、シュリを押しのけられずに盾に激突してふっとばされる。立ち上がろうとするが、一瞬の隙をつかれて首筋をかまれ瀕死になる。シュリは一瞬の隙をついて、魔物を処理する。これで残り9匹。


 シュリたちの横を抜けて逃げようとした5人組の残りは、ウルフたちに先回りされていた。何で俺たちの方に……と絶望した声が聞こえてきたが、弱い敵を狙うのは野生の本能だろう。


 逃げる獲物の方が襲いやすいのだろう。そうしているうちに女2人が足をかまれ、行動不能になった。何故止めを刺さないのかと思ったら、俺が召喚した際の意志が残っているのだろう。


 5人組の残りは、6対2になり一方的になぶられて瀕死になった。そうすると、6匹がシュリたちの方へ向かう頃には、シュリたちを襲っていた3匹は絶命していた。残り6匹。


 手加減の必要がなくなったシュリたちは、一振りする毎に1匹ずつ死んでいくため、3人で2振りで6匹の命が尽きた。


『お前たち……助けてくれ、何でもする』


 一番初めに瀕死になった男が必死に訴えてきている。それを聞いたシュリは、1本のポーションを取り出して、5人の怪我に少量ずつかけていく。しかも麻痺毒+睡眠毒入りのポーションだ。そのまま、5人は意識を落とした。


『ご主人様、どういたしますか?』


「とりあえず、3人組を尋問しようか」


 全員で合流して、3人の尋問を始める。今回一番活躍したのが、スライムだった。それだと正確じゃないな。スライムが連れてきたスライムたちが活躍した。いつの間にか仲良くなったのか? アメーバタイプのスライムたちを連れて合流したのだ。


 そのアメーバスライムが、3人の足に取り付いて食事を始めたのだ。ダマがアメーバスライムから伝わってきた思念を、あえて言葉にするなら『生肉! 生肉! 美味しい!』とはしゃいでいる様子だとの事。アメーバスライムからしたら、動物の肉はご馳走なのだろうか?


 そのジワジワと溶かされる状況は、恐怖だったのだろう。10分位経って、つま先がなくなっていく恐怖に耐えきれず、情報をゲロった。俺の予想通りあの5人組は、ここまで他のパーティーの冒険者を連れてくるための人材だったらしい。


 煙玉は、こいつらの従魔に対する、命令みたいなものだったようだ。ケガをした冒険者たちを5人組が連れ帰って、聖国の司祭に傷を治させて法外な請求をして奴隷落ちだってさ。


「…………」


「低いと思っていた可能性が、的中しているなんてね。でも、こうなると現状、司祭たちをどうにかするのは、難しいかもしれないわね」


 ミリーが自分の意見を述べた。確かに難しいだろうな。俺はとりあえず、グリエルに連絡をとる。


『そうですか。条件に合った人材がミューズにいますので、そこへ連れて行ってもらっていいですか? 場所はマップ先生に記しておきます』


 そう言ってグリエルの指定した人間がいる場所へ運んだ。

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