第799話 情報収集

 冒険者ギルドでは有名な質の悪い奴だったが、犯罪の称号がついていなかったので、対応に困っていた奴が捕まって清々している雰囲気だ。それにしても、何であいつらに犯罪の称号がついてないのに、今回は無様に捕まったんだろうな?


 冒険者ギルドに併設されている酒場でこっちを見ながら話している、30歳くらいのおっさん冒険者に近付いて、


「ちょっと話いいかな? 店員さん、この人に同じの持ってきて」


 そう言って、酒の代金を払って酒を持ってきてもらう。


「お! 分かってるね、それで何が聞きたいんだい?」


「今さっきの冒険者……えっと、ゲスドだったっけ? あいつって、普段からあんな感じなのか?」


「あいつの名前はゲイドだぞ。まぁ、ゲスっていうのは同意だがな。で、あいつの話だったな。普段から横暴な態度や行動をしていたな。でも、なぜか犯罪の称号がつかないから、ギルドでも困っている様子だったな」


「あれで、女とかが連れてかれてたのか?」


「そうなんだよな、不思議な事にそれでも犯罪の称号がつかないんだから、犯罪は犯していないって事で、衛兵も困っていたくらいだしな」


 ん~つい最近聞いたような話だな。聖国の司祭たちが関係してたりするのかな?


「でも、今回は残念ながら暴力の現行犯だからな。でも、しばらくしたら出てくるんだろうな。しばらく牢屋に突っ込まれてればいいのにな」


「さすがにもうここには来ないんじゃないか? 俺みたいな頼りない奴にやられてちまったんだからな」


 酒場にいたみんなが、楽しそうに笑ってくれた。悪い奴ばっかじゃないんだな。


「店員さん! ここにいる人全員に同じ酒を持ってきてやってくれ。お代はこれでいいか?」


 大きな歓声につつまれた。喜んでいる人間の中から俺に近寄ってきて、耳打ちをする人がいた。


「兄ちゃん、聖国の司祭たちに気をつけろよ。ゲイドの野郎は、あいつらとつながってたみたいだからな」


 どうやら、思っていた通りゲスドゲイドと聖国の司祭達が繋がっていたようだ。寄ってきて耳打ちした人間に、金貨を持たせておく。あいつらがゲスドゲイドに犯罪の称号が、つかない方法を教えたのだろう。結構緩いようでシビアな称号判定を、どうやってかいくぐっているんだろうな?


「いい情報だったな。みんな情報は聞いたかな? こいつらだけかもしれないが、他にも聖国の司祭が絡んでいる件があるかもしれないから、注意して対応してくれ」


 魔導無線から返事が聞こえてきた。それにしても、幸先のいいスタートだな。その後も少し酒場で情報を入手してから、クエストを受けに行くことにした。


「すいません。ミューズのクエストを受けるの初めてなんですが、常設の薬草の件なんですが条件の有無はありますか? それとも、状態で買い取り額の変化ですか?」


「その前に、ギルドカードを見せてもらっていいですか?」


「はぃ、どうぞ」


 いつもらったか忘れたが、フレデリクの時の冒険者ギルドカードは使えなくなったので、いつの間にか作ってもらっていた冒険者ギルドカードを受付の人に渡す。


「っ! ふぅ、シュウさんですね。この冒険者ギルドでの薬草買取りは、品質や状態による買い取り額の変化になります。樹海の薬草は効果が高いですしすぐに生えてきますので、品質や状態で買い取り額を変化させないと、雑にとってくる人が多いんです。理解していただけましたか?」


 シュウの冒険者ギルドカードを見た受付の人が、一瞬引きつった顔をしたが、それなりに年を取っていたので一瞬で立て直せたのだろう。登録名は、シュウとなっており、俺のような名前は珍しくこの街の領主もシュウである。だから顔が引きつったのだろうが、立て直せたのはさすが年の功がろうか?


「ありがとうございます。じゃぁ、ちょっと薬草を取りに樹海に入ってきます」


「気を付けてくださいね。最近樹海で行方不明になる冒険者も多いので、注意してください」


 再度受付の人にお礼を言って樹海へ向かう準備をする。それにしても行方不明か……聖国の司祭がかかわってるか? 何でもかんでもあいつらの所為にしたらいけないな。一応、監視してくれているスプリガンに、追加情報を渡しておく。


「さて、俺たちも樹海に行こうか。他のメンバーはもう出発してるみたいだぞ」


 別に競い合っているわけでは無いが、一応毎日の成果をランキングにして1位のチームに、ご褒美をあげる事になっている。


 俺は渡す側なので別にどうでもいいのだが、俺のチームには俺以外のメンバーもいるので、真剣にやらないと怒られてしまう。だが、マップ先生を使っての検索は反則なので、自分たちの素の能力も試される。


 樹海に侵入していく。索敵範囲内には人の気配も魔物の気配も無い。慎重で進んでいくと、何かが争った形跡を発見した。


「この様子を見るに、魔物との戦闘があったのかな? 血の跡が無いのは不思議だけど、あれとかは魔物の痕跡だよな?」


「そうですね、魔物同士という可能性もあると思いますが、血の跡が無いのは不思議ですね」


 ジュリエットと一緒に痕跡の評価をしていたら、マリーから鋭い声が聞こえてきた!


「ご主人様! 下がって!」


 言われるがままに、俺とジュリエットはバックステップでその場から下がる。そこに、何処にいたのか頭上から何かがふってきた。


「食虫植物ならぬ、食人植物? いや、魔物も食べている可能性があるから……なんていうんだ?」


「ご主人様、そんな事は後でもいいです。いま気にしなきゃいけないのは、あの魔物の対処ですよ」


 今さっきまで普通の木だった物が、今ではウネウネ動いてこっちに向かってきてるんだよな。この手の魔物って普通はその場から動けないんじゃないか? それに、擬態が完璧すぎるだろ。索敵で気付けなかったぞ。


「さすがに火魔法は拙いよな。って事は、切り刻むしかないか。って事で、みんな行くよ!」


 待ち伏せで獲物をとる魔物だ。そこまで強いわけがない。俺とサーシャが長物を使って大雑把に解体して、マリーが大雑把に解体された魔物を更に細かくして、それをジュリエットが焼き払った。


「それにしても、擬態がすごかったな。こんな魔物もいるんだな。注意していかないとな」

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