第661話 老ドワーフのファインプレー

 魔導列車の中で一晩過ごし、目が覚めるとディストピアについていた。降りようとした時に、いつもと違う風景なのに見覚えのある風景で、ちょっと混乱している。


 いつもなら、地下鉄の駅みたいな感じなのに対して、今回は地上にある駅のような作りになっており、少し離れた所に、ダンジョン農園の畑や果樹園に似たものがあるのだ。というかこの感じは、間違いなく果樹園の雰囲気なのだ。


「どういうことだ?」


 思ったことをそのまま口にしてみるが、俺の中で問題が解決する様子は無い。そこに俺の声を聴いていたのか、近くにいたミドリが俺の問いに答えてくれた。


「ここは、ご主人様専用の駅になります。ご主人様が他の利用者や荷物と、一緒の所から出発するのは変だと考え、ノーマン様とガルド様が専用の駅を作りました!」


 なるほど、俺というか、俺が他の利用者と一緒なのは変だから、わざわざ新しい駅を作ったのか。これが地球の出来事なら、どれだけ金がかかったか分からないが、金の無駄遣いと怒っただろう。


 ここは地球でもなくダンマスのスキルで、トンネルも簡単に掘れるし、有り余るほどDPはあるから問題ないか、ないのか?


「ん~色々思う所はあるけど、グリエルとガリアはこのこと知ってるのかな?」


「えっと、確かノーマン様から御二方に相談した所、『ディストピアをはじめとする街のトップなので、専用の出発場所があったほうがいい!』と強く言われたそうです。なので、先の方を見ていただければ、お分かりかと思いますが、いくつかに分岐しています」


 ミドリの言った通り、先を眺めてみると、線路の先がいくつかに分岐していた。現代の都会ばりの線路になったりするのだろうか? ダンジョン農園の中なので、たいして長い距離は、線路をひいていない。


 この先にあるトンネルに入ると、今まで使っていた線路に合流するのだろう。


「ちなみに聞くけど、俺専用の線路は無いよな?」


「それはさすがにありませんね。現状でも一日に数回しか通らないので、単線で問題なく対応できています。


 問題があるとすれば、ディストピアの幹部級の人間や、家族が移動する時に出発の時間が! と言っていましたが、今までの移動を考えると、時間が短縮されているので、贅沢に慣れてきてしまったかと思います」


 そういう問題があるか、グリエルとかガリア、商会のゼニスや一部の人間には、ある程度自由に使えるようにしてあるからな、そういう弊害も生まれるか? 時間的には問題ないから、大丈夫だろう。これ以上文句が出るなら、直接話を聞くか。


「大きな問題は、無いってことだな?」


「そうですね。魔導列車に関しては、特に問題は無いかと。物流も馬車に比べれば、何百倍も便利ですからね。それに、食料が足りない街があれば、迅速に手配できるので、街で飢饉が無くなり餓死者が、ほとんど出なくなっていますからね」


 物流が良くなっても、餓死者は出るのか。犯罪に手を染めるか、飢えて死ぬかってことか。ダンマスのスキルをもってしても、そこまで面倒を見れないからな、しょうがないと割り切るしかないか。


 大人の犯罪は容赦しないけど、子供の犯罪は生きるためにしている場合も多いからな……


「ミドリ、ちょっとグリエルに伝言頼む。子供が生きるために行った犯罪は、情状酌量の余地があると思うから、そういう子供には少年院のようなものを作ろうと思うから、明日にでもそっちに行くと伝えておいてくれ。


 簡単な概要なら、ミドリもわかるよな? 子供の刑務所って言っても、グリエルたちには分からないか、更生施設兼職業訓練みたいな感じで、説明しておいてくれ」


「了解です」


 敬礼をしてから、他の三人のシルキーと少し言葉を交わし、ダンジョン農園を出て行った。


「皆はしばらく休養しよう。長い事休みもなくダンジョンに潜ってたし、自由行動にしようか。別にディストピアじゃない所に、出かけてもいいぞ! 専用の魔導列車あるし、みんなで遊びに行くのも、悪くないんじゃないか?」


 俺がそういうと、妻たちは真剣な顔で悩み始めた。みんなが揃って、奴隷からこんな生活ができるようになったこと自体奇跡なのに、俺と結婚してさらに、色んな所にも行けるだけでも幸せ! その上、自由に色んな所に行けるなんて、夢みたい! と言っている。


 色んな所に行ける事って、そんなに点数が高いのだろうか?


 気になったので聞いてみると、全員が口をそろえて、魔物や盗賊が怖くて、徒歩での移動なんてできないし、馬車となればお金もかかり、知らない街はそれだけで危険がいっぱいあるんだってさ。


 今は心配なくどこでも行けるだけの、強さはあるからきにならなくなってる、と言っていた。


 俺はそんなものかと思い、みんなの話を聞いていた。


 俺の護衛の事が気になるみたいだったので、その間はスライムとハク、クロとギンが付き添うから大丈夫だ、と言うジェスチャーをニコがしていた。


 それで納得したのか、妻たちは本気でどこに遊びに行こうか、検討を始めていた。俺はみんながお出かけする時の服装を、どうしようか悩んでいる。


 機能も大切だけど、見た目も重要だよね! さすがに本気装備で街中を歩かせるのは拙いので、ファッショナブルだけど、機能的な装備がないか老ドワーフの所へ向かう。


「……という事だけどなんかいい装備ってある?」


「そうじゃな。最近ディストピアの冒険者も強くなって、余裕ができてきたおかげか、良い装備に買い替える冒険者が増えてきのう。


 その中でも女性冒険者は、お前さんの妻たちみたいに強く可愛くなりたいから! っていって、ファッション性も考えた、装備の注文が増えてきて、弟子の技量もどんどん上がってるぞい」


 そんなことがあったんだ。すぐ準備できるかな?


「と言っても、今は受注生産だからどうにもならないな」


 その声を聴いて、両手両膝をついてがっくりする。無いモノはどうにもならないよな、どうすっかな?


「どうすっかな? 何かいい方法ないかな?」


「DPで出したらいいんじゃないか?」


「!!!」


 今まで自分の装備は、自分たちで作ってるから、DPで出すとか頭の中からすっぽり抜けていた。自分で使う武器・防具で召喚した覚えがあるのって、初めの時の槍くらいなんだよな。他には覚えが無い……


 何か召喚してるかもしれないけど、忘れてるからノーカンで、誰に言い訳してるんだか。


 老ドワーフの意見も聞きながら、妻たちにあう衣装……ゲフンゲフン……装備を召喚していき、収納の腕輪にしまっていく。


「悩みを解決してくれてありがと!」


「お礼は気持ちじゃなくてもので頼むわ」


「しょうがないな。今回は特別だからな? 一人一本ずつ、例の高級日本酒をあげよう。味わって飲んでくれたまえ」


 老ドワーフが、風貌を崩して喜んでいる姿を見て、こいつらにとって、本当に酒が中心なんだなって思ったのだった。

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