第290話 特定
グリエルとガリア、老ドワーフ達が準備を進めてくれていたため、『壊血病に似た症状について』の会議が終わってからニ日後には準備が完了していた。
ただ準備している間に、あえて告知してからの調査をする方が効果的ではないか、という意見が出たため方向転換をすることになった。準備が終わってから全宿、飲食店に調査が三日後に入ることを告知した。
ただ告知するだけではなく、王国が関係している店には鬼人たちに陰ながら動きがないかを、監視してもらう事にしている。一応食料の搬入路になるジャルジャンと通じている地下通路の監視を、行うようにスプリガンの方達にお願いしている。
何処に原因があるか分からないので、監視できる部分は全部行う事にしたのだ。食料の流れなどを考えると宿や食料店で何かをしていると考えるより、食糧自体に何か細工をされて運ばれてきている可能性が高い、と判断したので地下通路の監視も行っているのだ。
ただ食糧自体に何かしらの細工をされているなら、王国内やジャルジャンあたりで細工されている可能性が高いけどな。
毒だったとしてもその毒を特定する方法が無いので、後手に回らざる負えないが何もしないよりはましだろう。念のためジャルジャンのフェピーの所を急襲して、情報を絞り出してきた。
今ディストピアの砦で起こっていることは把握していたようで、すんなりと話に応じてくれた。俺たちが調べた情報を渡してジャルジャンや王国内でも、壊血病のような症状を発症した人がいないかを聞いたり、ジャルジャンから王国の宿や食堂に食材を運んでいる商隊の情報を聞き出していた。
フェピーはまたディストピアとの交易が、できなくなる事を危惧しており非常に協力的だった。
フェピーの協力でわかったのは、食材を運んでいる商隊は今までジャルジャンでの取引をしたことが無かった新興の商隊だったという事、食材を中心に扱っているのに他の食材を中心に扱っている商隊に比べて明らかに羽振りがよかったという事が分かった。
この情報から考えられるのはディストピアで何かをするために新しく組まれた商隊で、食料の売買だけでなく別の所からも資金提供を受けている疑いがあるという事だ。
フェピーには突然襲撃して情報を集めてもらったので、その見返りとして大量の量産品の和紙を提供している。和紙に限ってはお金だけではどうにもならない商品であるため、外交のプレゼントでもかなり役立つアイテムである。
とりあえず鬼人たちからの報告では、告知してから三日間では特に動きがみられなかったとの事だ。ただ調理場で料理を行っている際に、何かしらの細工をしている可能性も否めないので要注意が必要だという事になった。
最悪の場合、毒であれば調味料などに仕込んで、本人たちが気付かないうちに協力されている場合だろう。宿や食堂の従業員に発症者が出ていないので、従業員も知っている可能性が高いと踏んではいるが油断は許されないだろう。
立ち入り調査当日。
砦の南から順々に調査をしていく事を当日公表して調査を開始する。基本的に宿も食堂も中心側にディストピアの直営店が多く、外側に行くにつれてディストピアの外の街から来た人間が経営している宿があるため、必然的に他の街のお店から調査が始まる。
普通の宿や食堂の状況を正確に把握しているわけでは無い俺は、カザマ商会からそこらへんに詳しい人材も召喚している。
帝国やヴローツマイン、疑いのある王国関係以外のお店はごく普通だった。むしろ評判やトラブルの有無で管理局に問題があると判断されると、営業権が取り消しされる可能性があるので、他の街に比べて質は高くなっているとの事だ。
儲けにも不自然なところはなく、真っ当な手段で経費を削減して儲けを確保しているのだから、商売人としてはいい人材が集まっているようだ。
その経費削減に一躍買っているのが、ディストピアの畑エリアや肉ダンジョンから得られる安価で美味しい食材のおかげだ。定価で販売するにはすこし見た目が悪い物を安く買って、調理の腕で補っていたりするのだ。
カザマ商会から召喚した経営に詳しい人材は、感心したようにうなづきながら見習う場所がたくさんある、としみじみ呟いていた。
日本でも規格外と呼ばれる商品にならない食材が、多く捨てられている現状を考えると利用できるのもは利用すべきだろう。
多少見た目が悪くても味は変わらないので、腕で何とかなるレベルなのだから工夫すれば値段を抑えて利益を上げることだってできるだろうとの事だ。なんかこれを聞いていると鉄〇ダッ〇ュの〇円〇堂を思い出した。
メインの目的の他にサブの目的として、ディストピア直営の店の状況を確認するというのを俺が勝手に作ったので、調査員はしっかりとその部分を調査してくれた。
やはり直営というだけあって質が高く保たれている所が多かった。高いといっても他の街から来た商売人たちと、同じ位のレベルなのだけどね。それでも店自体の質が高いので他の店より良く感じるのだろう。外から来た商人たちはお金に余裕があれば、迷いなくディストピア直営店を選ぶようだ。
ただ、三店舗ほど基準から外れている店があった。宿屋ニつと食堂一つにそれが見られたのだ。基準から外れているとはいっても、宿屋一つと食堂一つは良い意味で外れていたのだ。
食材や調理術、接客やサービスの質が高く、泊まった商人に言わせると各国の王のお膝下の高級店に匹敵するものがあるとの事だった。
ちなみに宿は砦で一番高級店という事で、壊血病に似た何かを発症した人たちのために貸しきりにした宿だった。泊まってた商人たちには悪いことしたな。次回だけじゃなくてニ回分の無料宿泊券を贈呈しておこう。
食堂の方は、シルキーたちに鍛えられたブラウニーの弟子にあたる、ディストピアから通っている母親たちのやっている食堂だ。家庭的な味なのに高級感あふれる食事を食べれるという事で、密かに人気になっていたらしい。
品質が基準以下だった宿は、店主がお金儲けの魅力に取りつかれて削ってはいけない経費をガリガリ削って、お金を稼いでいたようで評判がかなり悪かったとの事だ。もちろんその店主はクビにしている。
しかも店主はゼニス商会から派遣されていた人間だったらしく、調査に召喚された人たちに物理的にも精神的にもボコボコにされていた。
さて本命の発症があった店の調査だが、真っ黒だった。うまく隠してばれないと思っていたのだろうが俺たちには通じなかった。調味料のケースには不自然なものは見られなかったが、ケースの中身に今回の原因となった物が入っていたのだ。
不自然にならないように塩やコショウなどの調味料や香辛料のケースは複数用意されており、おそらく従業員に賄を作るように用意された場所のケース以外からその謎の物質が発見されたのだ。
なんでわかったのかといえば、疑ってかかっていたこともあり従魔たちの中で、鼻のいいクロとギンの他にニコにもついてきてもらい体に取り込んでもらっていたのだ。
その結果、調味料とは関係ない物質が検知され、複数の調味料や香辛料のケースから同じものが検知されたのだ。驚いたことに調味料以外にも食材からも同じ物質の臭い等が検知されたため、王国の人間達が関与している疑いが濃厚になった。
ただ発症した全部の店の調味料などのケースから発見されたわけでは無かった。発症した十五店舗中十一店舗が知らないうちに加担させられていた様だったのだ。その店舗の店主には、ディストピア産の食材に切り替えるように促しもし、受け入れられない場合は営業停止になる事を伝えるとあっさりと指示に従ってくれた。
相変わらず王国は糞だな! ひとまとめにするのは失礼かもしれないけどな。確実に関与していた四店舗の人間は全員拘束し、ツィード君謹製の奴隷の首輪をつけて確実に関与している人間を、あぶりだしてから情報を引き出すことにした。
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