第233話 やはり馬鹿がいた

 二週間後にはバリス聖国の兵士が集まってミューズに侵攻してくる予定だったが、物資が行方不明になったり荷馬車が俺に壊されたりと進軍の遅滞が生じていた。


 今日は特に襲撃の予定はない、どの部隊も街にいるか空腹で飢えながら近くの街へ向かっている最中なので、少なくとも街から一日以上離れてから再度襲撃したいところだ。


 街も自分達の命がかかっているわけだから、余剰分があれば売りに出すだろうが、余裕が無ければ衝突もあるだろうか? 徴発とかするんだろうか? それを観察するための今日という日なんだけどな。


「今日は賊軍がどうやって食糧調達するのか気になるところだから、みんなでモニターしようかな。直接映像を見ることはできないけど、マップ先生を使ってお金や物のやり取りがあったか、確認することはできるからそれで判断しようと思ってる」


「ご主人様~従魔とかと、『しかくきょうゆう』っていうのはできないの?」


 シェリルが拙い発音で視覚共有という言葉を使った。


「そういえば、アニメや小説にそういった能力があったね。でも俺にはできないみたいなんだよね」


「じゃぁ、オートマタにカメラ仕込むのはどうですか?」


「悪くないかもしれないけど、やっぱり知らない人間が急に来たら怪しいからね。それにどんなに強化しても、おそらく人間みたいには対応できないよ。そういう意味だったら、猫やネズミなんかの動物と視覚共有できれば最高なんだけどね」


「こら、シェリルもネルもご主人様を困らせたらいけないですよ。少し大変かもしれないですが、スプリガンの皆さんも手伝ってくれるのですから。今日は頑張った人にご主人様からスイーツの差し入れがあるらしいですよ。ご主人様の手作りだそうですよ」


 娘たちが喉をゴクリと鳴らす音が聞こえた。俺は普通の料理は普通だけど、何故かスイーツの腕だけはいいんだよね。というのも、自分が甘いものが好きだから、結構作ってたっていうのもあるのだ。初めは自分で作ったほうが安く済むから、と思って作り始めたのがきっかけだったかな?


 そしたらこりだしちゃってね。一流のパティシエとはいかないけど、それなりに上手なのである。その知識を継いだシルキーたちの腕は俺のはるか上だけど、みんなは俺の手作りを喜んでくれるので時々作っているのだ。


 今日の俺のスイーツ甘さ控えめプリンアラモードと、ビスケット生地から手作りの濃厚レアチーズケーキだ。両方とも俺が好きっていう事もあるし、片方は蒸しで片方は冷蔵でいいからな手狭になる事もないしな。


 ビスケット生地は焼かないといけないけど、オーブンだし万能魔導キッチンなら特に問題になる事はないだろう。何せ大火力の五口コンロと二台のオーブンが二セットあるから困ることはほとんどないな。


 サクサクのビスケットができたら砕いて溶かしバターと牛乳を少し入れる。作った生地を型の底にギュッギュと押し付ける。この際円柱状の底が平らなものコップ等に溶かしバターやラップなのでコーティングすると作りやすいのだ。


 それを冷蔵庫で冷やしている間に、クリームチーズを耐熱ボールに入れて湯煎で温める。レンジがよかったのだが、さすがになかったので湯煎にしたのだ。グラニュー糖をだまがなくなるまできれいに混ぜる。


 そこに昨日から用意していた塩ヨーグルト、生クリーム、レモン汁を入れかき混ぜる。ちなみに塩ヨーグルトは、プレーンで四〇〇グラムぐらいに小さじ一杯を入れてかき混ぜ、コーヒードリップとフィルターを使って水分を切っていく。


 この際に水分が大量に出るので、ドリップの下にコップを置いておくといい! この水分はホエーといって、肉などを漬けるとお肉が柔らかくなるので、お昼用の鶏肉を漬けるのに使ったよ! ホエーだけだとすっぱかったりするので同じ効果のある、ハチミツと合わせて漬けるのが俺の好みだ。


 ゼラチン用に牛乳を温め溶かして、混ぜたチーズクリームにくわえ更によくかき混ぜる。混ぜたら手早く一度漉してから、準備してあったビスケット生地の上に流し込んで冷蔵庫で冷やせば完成!


 プリンは肉ダンジョンのコカトリスの卵を使って作った。この世界のコカトリスは、石化能力はないので大して強い魔物ではない、Cランク程度と評価されている。


 肉ダンジョンで卵がドロップするかと思えばそうではなく、ダンジョンで産み捨てられた卵は食材として扱われるらしく持ち帰ることができるようなのだ。コカトリス自体がダチョウより大きいので卵もそれに準じた大きさになっている。


 味は日本の鶏の卵に引けを取らない味なので今回の食材として使っている。ちなみにプリンに使った砂糖は、和三盆なのでほのかに甘い極上のプリンができたと自負している。


 盛り付けは背の低いワイングラスの様なものに下からプリン⇒カラメル⇒生クリーム⇒各種果物のトッピングをしている。実に綺麗でうまそうだ!


 できたデザートに見とれていると、ピーチから初日に攻めた北側の部隊の様子の報告が入った。予想外というべきか予想通りというべきか、どこにでも屑でバカな人間がいるものだな。


 おそらく金にがめつい浪費ばっかりしてる人間なんだろうな、街の中に入ってすぐにその街の領主の司祭に会いに行ったのだろう。街の中に入った兵士たちが一般市民の家の中に入って二から三人で一つの光点に群がってた様子を考えると……おそらくそういう事なのだろう。


 いくら聖国とは言え自分の街でない所で、そんなことをしていいのか? 聖国の序列が上の人間なら何でもしていいのか? あ、領主の側近が死んだっぽいな。


 金や宝石などのやり取りは行われずに、徴発されたようだ。良さそうな実験対象になってくれそうだ。


「えっと、一番北側の部隊がどうやらオイタが過ぎたみたいだから、あの部隊をターゲットにして例の作戦をしよう。多分俺が思ったように踊ってくれると思うよ。だから今日の深夜はあいつらが徴発した物資をいただきにいきますかね。


 おそらく徴発した荷物がなくなれば、この部隊は略奪に走って住人と殺し合いになるだろうね。そうすれば、レベル的に見てもこの街の兵士たちの方が強いから、確実に殺されるだろうね」


 こんな殺伐とした話をしているのに娘たちは、俺が準備したプリンアラモードを満面の笑顔で食べている。甘さ控えめで少し酸っぱい果実も使っているので、もりもりとみんなが食べている。やっぱりおいしそうに自分の作ったものを食べてくれるのって、料理人でもパティシエでもないけど嬉しいよね!


 他の街ではきちんとした徴発以外で物資を調達していた。だからと言ってその物資をいただかないわけじゃないけどね! 懐がドンドン寒くなっていくがいい。


 今日は荷物を盗まない予定だったが、一番北のアホ部隊の物資だけは夜中にもらいに行ってきました。明日はどうなるか楽しみですな。

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