第220話 面倒事が増えた

 中立都市ミューズから外交特使が来るまでの二ヶ月の間に本当に色々起きた。


 初めに起きたのはもちろん、犯罪の称号のある者の通行拒否である。その人が何をしたか知らないが、犯罪の称号のある人は通せない事を説明し、帰っていただこうとしたら暴れだしたので、護衛の冒険者ごと捕らえてジャルジャンの牢屋にぶち込みました。


 しかも王国の貴族だとか。あの国も本当に面倒かけてくれやがる。捕らえられた貴族は、私にはそんなことは関係ない、私を通さなかったらわかってるのか? とか脅しになっていない脅しをしてきたので、丁重にお断りしたそうです。


 ちなみにジャルジャンとグレッグを合わせて二ヶ月で十七件もの貴族の関わるトラブルがあった。三件の貴族に関しては、毒物やそれを合成できる錬金術師を密入させたので、その場で奴隷落ちしてもらった。


 貴族であっても他国や中立都市の決まりを守らなければならないのは事実であり、親族が何を言ってこようと意味がないのだ。


 犯罪の称号で拒否した一〇七件の内、四割ほどの四十件は帰ったのだが、残りのは全部が全部暴れだしたので、守備の者たちがきついお灸を添えて、近くの中立都市の牢屋に放り込まれている。


 毒物の持ち込みで対応したのが十四件で、その内六件がジャルジャンやヴローツマイン、グレッグへの荷物輸送で頼まれている商品だったそうだ。


 無線で連絡を取り合い間違いない事実だったので通しているが、これを利用して毒物を持ち込もうとするやつがいずれ出てくる恐れがある。


 なので、毒物はこちらが用意したレンタルの金庫に入れてもらい、持ち運び到着したらこちらの関係者で開ける方式が採用された。薬にも毒物って使うもんな。必要な人には必要だからな。


 収納の腕輪等で毒物を持ち込もうとした人間もいたので、収納の腕輪に関してはツィード君とシルクちゃんが魔道具を作ってくれそれで対応した。


 各中立都市側の砦で機能を制限する魔道具をつけて、ディストピアの砦では指定された場所以外で収納ができなくなるという優れモノだ。もちろん出ていくときは制限を解除しますけどね。


 自分たちが普通に使っていたせいで、中身がチェックできないという事を忘れていたのだ。


 他にはディストピア側の砦で獣人がいたので奴隷にしようと思ったと、俺の街の中で堂々と拉致をしようとした奴や、獣人の売るものだからと商品を盗もうとした奴らも結構な数がいた。


 帝国ではバリス教は浸透していないが、王国は一応隣国になるのでそれなりに獣人へ対する批判的な扱いが、当然であるというバカがそれなりに存在するため、片っ端から奴隷にしてヴローツマインに送り付けた。


 バリス教はここでも面倒をかけてくれやがる。一応どこの街の人間なのかピックアップしているので機会があったら、その街に行ってディストピアに来ないか誘ってみよう。


 初めの一ヶ月は本当にバカが多かったので苦労したが二ヶ月目になってくると、問題のある人間が減りまっとうな商人が多めに来るようになった。それでも中には質の悪い奴もいるので、本当に気が抜けないのだ。


 ある日、ミューズの外交特使が地下通路の建設の依頼をしてきた。それと同じ日に、王国から軍隊が攻めてきたとフェピーから情報がもたらされた。中立都市で私的に武力を行使するバカが出てきたのだ。


 一番近くの街は中立都市に鞍替えしたので放置されていたが、金のなる木がジャルジャンの傍にあるのだ、その砦を占拠しようと二つの王国の都市から軍隊が送られてきたそうだ。それに両都市の貴族のバカ息子が暴れて捕まったのは、理不尽だという名目で攻めてきてるんだからたまったもんではない。


 軍隊はいいのだが三人程異分子が紛れ込んでいた事に気付けたのは僥倖だった。その軍隊には明らかに軍人ではない高レベルの人間がいたのだ。レベルを見る限りおそらくシングル以上の冒険者だと思われる。


 三〇〇台に乗っているので間違いないだろう、俺たちは三〇〇の壁を越えられていないのだ。何かしらの方法があるのだろうが、俺たちはそれを知らない。ちょうどいいので、最低でも一人は生きて捕まえよう。両軍とも五〇〇人規模でかなりの人数を出してきている。俺たちも対応しないとな。


 ディストピアの軍の編成は速やかに行われた。そもそも住んでいる七割の人間は戦闘に耐えうるレベルなのだ。


 冒険者をやっている人間に関しては、レベルも上がっており能力向上スキルまで習得しているので正直一〇〇人もいれば、大半の敵を蹴散らすことが可能だが、今回は冒険者に関しては自由参加にしている。大した経験にもならないし、金にもならないのでダンジョンに引き続き潜る方が多かった。


 今回は娘たちを中心に、街の警備として訓練していた一五〇名程と、鬼人から一〇〇人程の有志が参加することになった。俺たちも合わせ、合計で三〇〇人の軍が早々に組まれてた。


 参加してくれるメンバーには、後日褒章を出すという話をしたのだが一切受け取らないと、自分たちの街は自分たちで守るから必要ないと言われてしまった。従軍してくれている間はシルキーやブラウニーたちの料理をビュッフェ形式で自由に食べれるようにした。


 ジャルジャンのフェピーには戦争に入ることを了解してもらい、兵力の提供を申し込まれたが相手が敗戦した後に、商人たちを襲わないように注意をしてもらいたいとお願いした。もちろんただではない、フェピーのほしがっていた和紙を対価としてお願いしている。


 それとフェピーには大きな声で、王国のある二つの街から軍が攻めてきているので地下通路が使えない、と情報を流してもらっている。王国のせいで地下通路が使えないとね。後で商人ギルドの陰湿な経済制裁を受けるだろうな……と予想しながらにやにやしていた。


 正直出してきた軍の数が合わせて一〇〇〇人、その内の三人を除くと平均レベルが二〇程なので負ける要素が全くない。それにしてもリーファスとフレデリクの戦争は、両軍合わせて五〇〇だったのに、今回の軍は多いな。徴兵された民兵はいなそうだから、もしかしたら他の都市も絡んでいるかもな。


 そういえば以前に、王国の兵士や冒険者の平均レベルを調べた際は、十五位だったのに、何で五も高いのか調べなおしたところ、兵士には街の警備兵や予備役、訓練兵の人間のレベルもカウントされていたため、平均が低くなっていた。


 冒険者も一緒で、街中でできる依頼を中心にして稼いでいる孤児たちがたくさんいて、その子たちが平均値を大きく下げていたようだ。なのでDランク以上の冒険者って調べると平均値が六十前後まで上がるようだ。


 兵士のレベルが十五から二十になったところで、こちらの平均レベルは一〇〇を超えてるんだから、戦争にもなりはしないんだけどな。ヴローツマインの領主からは中立都市が舐められてはいけないので、完膚なきまでに蹂躙してくれと言われた。初めて領主として話した気がする!


 フェピーの報告を受けてから一週間で相手の軍が到着した。一応攻城兵器を持ってきているが、カタパルトや投石器の類はなく、破城槌のみだった。


 侵入者用の堀が、まさかの正面からしか破城槌を使えなくしていた。ちなみにミリーも来たので、ワイバーンも参戦したがり六匹ほどが戦争開始と同時に、敵軍の後方から挟むように着地して威嚇してもらうことにした。一人たりとも逃がさん!


 なんの宣言もなく攻めてきたのでこちらからは、


「中立都市同盟の領域を侵犯しています。あなたたちはただの略奪者です。誰の命令で動いているか知りませんが、ここに来た事を後悔して犯罪者になってください。冒険者の方は、今逃げるならあなたたちは罪に問わないので逃げていいですよ」


 一応、気付いているよ! 的なニュアンスを含めて宣言して戦争を始める。


 一般兵たちは特にいい所もなく非殺武器をもった俺の軍に蹂躙された。非殺武器とはいえ即死的な死亡がないだけで、骨折などが酷ければもちろん死んでしまうので、可能な限り死なないようにしてとらえたいところだ。もちろんグレッグやヴローツマインで奴隷としてうっぱらうためだけどね。


 宣言してから十分後、両軍が接触した。明らかな蹂躙が開始されて二分後に、軍の中にいた高レベルの人間が動いた。軍に紛れていた俺たちも、それに合わせて行動する。何が目的かわからないが全力でお相手しよう。


 一人目はシュリに接近され、シールドバッシュを受けて軍の外に弾き飛ばされる。二人目はレイリーとリリーの爺孫コンビが外に弾き飛ばす。三人目はもちろん俺! 今日は片手剣と盾のスタイルだ。三人ともほぼ同じ位置へ押し出されて互いに顔を見やっていた。


「どうもやっぱり冒険者の方々ですよね、明らかにあちらの人達と動きが違いますしね。何が目的か知りませんがここで捕えさせていただこう。この依頼を受けたことを後悔するがいい」


 この手順で既に詰んでいたのだ。俺の話が終わるとイリアのソーンバインドとライムのアースバインドが三人を拘束して、そこにメアリーとマリアの矢が三本ずつ飛んできて三人の両膝にささる。


 そこにケイティ、エレノア、シェリルの大型武器を持った三人が盾を狙って攻撃をする。非殺武器とはいえ盾を粉砕して盾を持っていた手を壊した。


 なんかあっけないな。魔法を使う可能性があったので、猿轡をかませ目隠しして両手両足を拘束し足の傷以外を治療する。


 戦闘が始まって四十三分後には、敵軍全員が地面に倒れていた。こちらの負傷者は七十二人。多い気がするけど、重症者はいないので問題ないか。さてと全員に奴隷の首輪をつけて、情報聞き出して売っぱらうかな。

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