第179話 初遭遇
出航してから四日目を迎えた。
四時間おきにダンジョンコアを用いたエリア掌握を海面に行っており、自分たちの予想位置とのずれを計算していた。この世界でも羅針盤が使えたのが救いだろう、そのおかげで大きな誤差はなく海を探索できている。
掌握と言っても、コアを置いて場所を確認するだけで、持続的に掌握できないのだ。
初日を除いた二日間で戦闘になった回数は四回。三回はシーワームで残りの一回は、Cランクの魔物の集団だった。
魔物の名前はスモールシャーク、小さいサメ? ただの魚じゃんとか思ってたが、魔石があるから魔物に分類され何より二十匹前後の群れで敵に襲い掛かるため、個体の脅威度がⅮランクなのにCランクの魔物になっているらしいという事は後で知ったのだ。
シーワームの三回の戦闘報告としては、ハープーンによる迎撃、銛による迎撃、アクアに教わったウォータージェットの魔法と、海に行く事が決まってからカエデに頼んで作ってもらっていた、水蜘蛛のブーツでの海面での迎撃。
魔導銛による迎撃はコスト面に大きく響いた。シーワームを倒すために十二本も使い捨てにした、採算が合わなかった。
その点、ハープーンによる迎撃は成功と言っていいだろう、電の魔法を使用するのに発射する人間による供給でまかなっているため、メンテナンスをするだけで済むのだ。
娘たちの海面での戦闘はシュールと言わざる負えなかった。人が水面を歩いて三十メートル近い海ミミズを殴る・蹴る・突く・切る・砕く・押しつぶすといった現実離れした戦闘だった。
娘たちによる海面での戦闘で分かったことが一つあり、相手のフィールドに合わせた魔物のランクが付いているという事だった。海中や水面を自力で移動できない状態での戦闘となれば、おそらくAランクの陸の魔物でも余裕で倒せるだろう。
船の上でシーワームと対等にやりあうためには、最低でもBランク上位は必要なので魔物の評価としてはBランクになっているらしい。水面を自由に動けるすべを持っているのであれば、おそらくCランクの冒険者であれば難なく倒せてしまえるだろう。
簡単な話、魔法耐性はそこそこ高いが物理耐性は全くと言っていいほど紙装甲だ。質量による攻撃にさえ注意すればDランクの攻撃力でも問題ない程なのだ。
スモールシャークはそこそこ広範囲に広がって狩りをするため、魔法組四人による大規模な雷魔法サンダーレインで蒸発させたようだ。
その余波で半径一キロメートルにいた魚も一緒に殺してしまったので、回収するのが大変だった。さすがに放っておくわけにはいかなかったので、回収して食べれるものは美味しくいただく予定だ。中にはカツオやマグロみたいなのも、数匹いたのでたたきやステーキを楽しみにしておこう!
五日目の昼食過ぎに念願の魚人との遭遇があった。
魚人だけあってやはり海の中を移動していた。
魔物は海面から見えていたので視認(そもそも見えないところの敵を索敵する手段がなく、不意打ちがあってもアダマンタイトのコーティングを施しているため後手になっても問題なかったため)で問題なく索敵できたのだが、魚人に関してはそれが通じなく焦ったのだ。
一番初めに気付けたのは、最下層で横になりながらブッ君を読んでた際に、ふと使った索敵スキルに真下に反応が出たためだ。次の瞬間に船内放送で敵襲を伝える。
索敵では相手のサイズ位までしかわからないので、敵か味方か分からないため警戒態勢を敷いていた。しばらく攻撃せずに様子を見ていると水面にゆっくりと人影が浮かんできた。
「貴様らは何者だ? 魔物ではあるまい……何者だ?」
「俺たちは西の大陸の者だ。魚人がここら辺にいると聞いて、友好を深めたいと考えこの海域を探索させてもらっていた。とりあえず敵意はない、武器を下げてもらえないだろうか?」
魚人にはわからないだろうが、俺たちの方が圧倒的に優位なのだが、武器を突き付けられている俺たちは一応下手に出た。
「友好だと? 貴様らヒューマンや獣人はわれら魚人族を虐げ魔物だといって、狩り殺したではないか! 殺された同胞たちの苦しみを無かったことにはさせないぞ!」
「やっぱりそういった過去があったのか? やっぱりバリス聖国のせいか、だぁ~~っ! あいつら本当にろくなことしねえな! 今すぐに信じてもらえるとは思っていない、一つの質問といくつかの情報をこちらから提供する形で、信頼の一部を得ようと思いますがどうでしょうか?」
「情報はもらいたい……質問は聞いてみないと判断できない」
どこまで情報を渡そうか? 大国では認知されていないような気がするから、すべてを話しても問題ないか? 特に海底トンネル? の存在を説明できないしな。全部を話して信頼してもらうしかないだろう。
「とりあえず、こちらの情報を渡すためにも一つだけ質問させてほしい。外海での生活は厳しいと聞きます、今より身の安全を守れる場所があったら移り住みたいですか?」
魚人の青年がしばらく考えた後に、苦い顔をしながら答えた。
「安住の地があるのであれば移り住みたいとは考えている。そんな地はないがな」
「ありがとうございます。簡単に私たちの事を話しましょう」
ライチェル王国で起きた事件の話、襲撃の事、安住の地を作るために樹海と呼ばれる厳しい環境に街を作っている事、その街の近くに海水の湖がある事、その海水の湖は海まで間違いなく続いている事、バリス聖国に魚人と同じく排斥されている獣人と、バリス聖国の実験によって生まれた魔物との混血の一族も住民として生活していることを説明する。
そしてなぜそんなことが可能だったのかを説明するために、俺がダンジョンマスターである事を伝える。
それによって海と湖がつながっている理由が分かったようだった。ダンジョンマスターと言って理解してもらえるかはわからなかったが、この世界ではダンジョンマスターと勇者の名声? 悪名? は迫害され情報が少ない魚人でも知っているようだった。
「その街に移り住む気があったら来ないかい? まぁいきなり言っても信じられないと思うから、海から湖への入口を教えるから一度見学に来るといい。かなり遠いので覚悟してほしいが、だいたいここから陸までの距離の恐らく四から五倍くらいの距離がある。
大体入口から湖まで二五〇〇キロメートルあって、迷路みたいな形になっているが迷わないようにしてある。一応一〇〇キロメートル毎に休憩所を用意してあるから、時間がかかっても来れるとは思う。よかったら見に来てくれ」
「いったん村に帰って相談してもいいだろうか? うちの村の場所を教えるわけにはいかないので、その間はここにとどまってほしいのだが」
「ゆっくり相談してくれ、俺たちはしばらく航海できるように物資は積んできているから、何の問題もないよ。海の幸もゆっくり堪能させてもらうよ」
交渉が成立して、しばらくここでのんびりすることになった。
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