第145話 依頼完了

 朝、息苦しくて目が覚めた。ニコ、頭の上は許すが顔の上で寝るのは止めてくれ、マジで死ぬから。いつも頭の上に乗っている感覚で顔の上に乗ってきたのだろう。ニコは見た目可愛い系のスライムなんだけど……


 みんな想像するんだ、あれが顔の上に乗ってきたら、息ができなくなるんだぜ。スライムの使い道、攻撃方法としてトップに上がってくる、顔を覆って窒息させて殺すを身をもって体験する事になるとは思わなかったよ!


 殺しかけた俺は、ニコに今後顔の上に乗らない事を必死に教え込んだ。呼吸という概念のないニコにはどうしてダメなのか分かっていなかったが、とりあえず顔に乗られると俺が死ぬ可能性がある事、俺が死んだら今の生活できないよ、と教えたらブルりと震え納得してくれた。


 ニコも今の生活が気に入っているようでよかった。ニコの姿が見えなくなったら、風呂かサウナを覗けば十中八九そこにいる。何度も言っているがスライムがお風呂に入るのもおかしいけど、百歩譲ってまだいいとしよう、液体というか粘液生物なのにサウナなんて入って大丈夫なのか? と毎回思う。


 サウナに入るともちっとした表面から、水滴みたいなものが出てくるのだ。少し小さくなるのでカピカピにならないかと心配するが、出た後に体の一部を伸ばして娘たちが用意してくれている飲み物を飲むのだ。最近の一押しはオレンジジュースとの事。


 ニコとじゃれあっているとそれを見たハクも参戦してきて、よくわからない混沌とした状況になっていた。しばらく楽しんでいると食事の準備ができたと呼ばれ、ニコとハクを両脇に抱えて食堂へ向かう。


 ニコもハクも俺たちと一緒に三食食べているが大きくなったり、太ったりする様子が見られないのでそのままにしている。朝なのでビュッフェ形式だ。ちなみにニコもハクも俺たちと同じものを食べている。ニコは触手を伸ばしてこれとこれがほしいと指してくれ、ハクは飛んで首を伸ばしてほしい物をねだるのだ。


 にこやかな食事が終わったがまだシビルが来ないので、食堂に作った暖炉の前に座り心地重視で召喚した、リクライニングチェアに座ってハクをお腹の上に乗せブッ君で本を読むことにした。


 仕事の終わった娘たちも暖炉のまわりに用意した、ソファー等に集まり一狩り行っているようだった。暖炉の暖かさって眠気を誘うんだよね。ブッ君で本を読んでいたが三十分後位には寝てしまっていたようだ。誰かが毛布を掛けてくれ、リクライニングチェアを倒してくれ眠りやすくしてくれていた。


 肩をトントン叩く感触がする。


「ご主人様、シビルさんが見えましたよ」


 ふぁ~とあくびをしながら目を覚ましていく。玄関にいたシビルに挨拶をして、シュリを連れて冒険者ギルドへいく? シビルに誘導された方向は、冒険者ギルドの方ではなく領主の館がある方だった。


 フェピーの所に行くんだろう、一応今回の荷物を取りに行くのはフェピーからの依頼だったな。変身できて隠密効果のあるアイテムがもらえるんだったな。


「シュウ君、相変わらず仕事が早いね。盗賊もその日の内に捕まえて戻ってきましたし、リブロフからもすぐ戻ってこられましたし荷物を運んできてくれたと聞いてますが」


「荷物は今全部預かってますね。どこへ受け渡したらいいかわからなかったので、そのまま持ってる状態ですね。あとリブロフの商会でジャルジャンを相手に荒稼ぎしてきた所から慰謝料をもらってきましたよ。もちろん領主からもです」


「シビル君から聞いていたけど、慰謝料っていうのは何だい?」


「あれ? そっか、この国というかこの街には慰謝料っていう言葉は無いんですね。なんていえば解りやすいかな?戦争した時に負傷した見舞金みたいなのは渡しますよね? それと同じようなものですよ。


 今回は盗賊じゃなくてリブロフの領主や商会がグルになってしでかしたことなので、被った被害をそいつらからもらってきた感じですね。あいつらに殺された商人たちの家族にもお金を渡せるようにいただいてきたかたちです」


「なる程、その荷物もたくさんあるってことだよね? どこに荷物を置いてもらおうか」


「初めに言っておきますが、慰謝料として持ってきたものは、絶対に被害にあった人たちに渡してもらいます。もし懐に入れるような奴がいたら切り殺しますからね」


 俺の発言というか、雰囲気にビクッとしたフェピーは苦い顔をしながら、


「ん~誰に頼むのが正解ですかね。きちんと取り締まっていてもやる人はやるからね」


「そうですね、リブロフの街の領主に連なる人間ならほぼ一〇〇パーセントやるでしょうね。だからあれだけの隠し財産を持っていられたのでしょうし。そだ、シビルさんあの話考えてもらえました?」


「何の話かね?」


「シュウさんに雇われないかとお話をいただいたんですよ。悪くない話かなとは思っているんですよね。まだ帰って来たばかりで家族とも話ができてないんですよね。もうしばらく待ってもらっていいですか?」


「もちろんですよ、お願いしてるのはこちらですし。こっちに帰ってきて仕事の方はどうですか? もし、仕事がすぐないのでしたら、慰謝料の支払いの事務でもどうですか? 給金もしっかりと払いますよ」


「なるほど、もし雇われるのであれば、そのまま慰謝料を払う事務に入ってもらおうと思っての発言だったのですね。実際に働かせてもらって考えさせてもらえるなら、喜んでさせていただきます」


「じゃぁフェピーさん、あの盗賊モドキに妨害されたり殺されたりして、損害を受けた可能性のある人や家族のリストを作ってもらっていいですか? 運んでもらうように依頼されてた荷物以外はこっちで適当にやりますね。


 あ~でも、商品とかで渡されても家族が困ると思うので、まずお金に変えないといけないか? 家族が奴隷に落ちてるケースもあるか? もしそういったケースがあるなら買い戻しできるように手配してくれ、もし買い戻し渋ったやつがいたら、命の保証は無いって脅しておいて。王国側でもよろしく」


「また無茶なことを言いますね。奴隷の買い戻しはかなり無茶なんですが、やらないと私の身が危険になるかね……しょうがないですね。全部引き受けます。荷物は、シビル君にもっていってほしいところを伝えてありますので、この後向かってもらいます。


 それと、リブロフからジャルジャンに連れてきてくれた人たちの報酬は、私から出します。今お渡しするアイテムと一緒にもってきてもらっているのでお待ちください」


「待っている間に聞きたいことがありました。俺たちがジャルジャンを発って次の日辺りに来たリブロフの商隊の様子はどうでした? あの商隊の塩も全部慰謝料としてもらったんですよ。依頼されてた荷物と一緒に置いておきますね」


「あ~あの商隊ですか。今牢屋にいますよ。バカ高い値段で塩を売っていたのはいいんですが、全部土だったので詐欺で捕まえましたよ。あの商隊の謎はあなただったんですね。捕らえられてる時の顔は見ものでしたよ。いつも高い値段で売り付けていた奴らですからね、兵士たちの扱い方がかなりすごかったですね」


「あ~くそう、その顔見たかったな~でもこの街の人のストレス発散になってたら俺も頑張った意味があるな」


 リブロフの商人の滑稽な姿について話していると、収納持ちの元冒険者が変身アイテムと今回の報酬を持ってきてくれた。シュリが受け取り、シビルの案内で荷物をおろす場所に向かう前に、今回の荷物を預かっているのがリリーだったようで呼びに行ってから倉庫へ向かった。

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