第24話 大切なものは守れたっぽい
満腹亭の特製サンドイッチを食べ終わり、少し肩を落とした。おいしいものが食べ終わると何か、満足感と喪失感があるよね。こうなんていうか、そういうことです!(説明放棄するな作者!)
目標の水晶花も5個以上確保できたので久々のクエストはクリアできたも同然である。まだ昼を少し過ぎたくらい、メニューには13時24分をさしていた。
まだ時間があるので、きた道と違うルートを探索しながら帰ろうかな? オークが外縁部近くまで出てきているなら遭遇できるかもしれないしな。
薙刀は収納の腕輪にしまい、獣道もないちょっと茂った道を鼻歌を歌いつつ、カエデからもらった数打ちの片手剣を鉈代わりにして、切り開きながら歩いていく。
本当にオークたちがこの辺まで出てきているのか疑わしいくらい索敵にも何も引っかからない。どこかの強いパーティーが討伐してまわってるのかな?
フレデリクでオーク嫌いで有名なのは、Cランクパーティーの『アマゾネス』だろう。最初は種族か何かかと思っていたが、どうやら戦う女たちという意味だとミリーに教えてもらった。
1回合同クエストでオーク退治に行ったときは、俺やカエデの取り分が少なくなるんじゃないかと思うほど、過激に討伐していた姿を見ている。あの人たちならオークの情報つかんでたら討伐しに行きそうだよな。
2時間くらい探しまわったが、ゴブリン一匹すらも見当たらず索敵にもかからないので、今日はもう引き上げることにした。
森の外まではおそらく直線で5キロメートル程の位置からの脱出なので、ステータスの上がった俺なら脱出に1時間もかからないと頭で計算した。
片手剣を振るのに飽きたので、森の中を行軍しながら薙刀を振り茂った道を切り開いていく。急に襲われた事を想定して、薙刀をどう使うかイメージしながら体の動きを調整していく。
こういった調整は大切で、思ったように動けるとびっくりする位に、綺麗に刃が振り抜けるのだ。直径50センチメートルを超える木も何の抵抗もなく切り割けるくらいにはすごいことができるのだ。ファンタジーの世界ってすげえ!
2キロメートル程進むと、
「ブヒ~~~~~~~~!!」
オークの悲鳴だろうか? よく分からないがこの世の終わりと言わんばかりの悲鳴が聞こえた。直後に背筋が凍るような感覚にとらわれた。
あのオークがこんな悲鳴を上げる理由が思いつかず、興味本位に悲鳴の聞こえた方に進んでしまったのはシュウの判断ミスだった。
周りに注意を払いながら索敵を行い慎重に進んでいくと、悲鳴のした方角から3匹のオークがこちらに向かってかなりの速度で移動してきた。視界にオークをとらえ、気付いていない事を確認し不意打ちで1匹の首を刈り取る。通り過ぎたオークを迎え撃つために振り返り、武器を構えなおす。
「え゛!?」
走っていた2匹のオークは、俺を無視して背中をみせて遠ざかっていく……
ドロップに変わったオークの肉と豚鼻を拾いながら、
「なんだったんだろうな? 仲間が殺されたら相手が強くても襲ってくるのにな? なんていうか必死だったな。何かから逃げてるような? オークに天敵なんていたっけか? オーク肉はそこそこうまいし強い魔物が食べあさってたりするのか?」
『ブッヒッヒ』
悪寒の走る笑い声が聞こえた方を振り返る。赤黒い見た目のオークがいた。オークと言っても弛んだ肉体ではなく体が引き締まっている。なんだかよくわからないがオークという区切りだけでいえばイケメン? イケ豚? なのではないだろうか。
色々考えながら鑑定を行うと、【ブラッドオーク(変異種】と出ていた。
鑑定は、以前採取クエストを受けて森の中に入ったのにどれが目的の物かわからず、カエデに見つからない様に宝珠をDPで召喚して覚えて目標のアイテムを探したのだ。
ブラッドオークといえば、オークの変異種だったはず。オークより強い性欲を持ち人間種や精霊種以外の者とも交配が可能なオークの中でも変態だとか、変異種ってことはオークより2ランク上のCランク相当になるはずだ。俺のランクより1つ上だが、一対一なら何とかなるだろう。
ブラッドオークをみる。冒険者の様に装備を身に着けているのに目がいく。黒い革で出来たレザーアーマーと、オークに似合わない両手剣を装備していた。
俺と同じようにブラッドオークは、俺の事を観察していた。だがその視線がむず痒い気がしてならない。何というか嫌悪感しかない視線なのだ。
自分よりランクの上の敵を相手にすると恐怖心から、こういった負の感情の嫌悪感が出てくるのだろう。
相対しお互いの武器を構えあう。
俺は、能力向上スキルを魔力でブーストする。
初撃は、突き。避けにくい体の中心を狙って突き出すが、ブラッドオークに難なく回避されてしまう。
「マジで? 結構自信のある攻撃だったのにかすりもしないとかありえねえ」
ブツブツ言っていると、ブラッドオークが視界から消えた。
危険を感じた俺は、武器の中心を持ち回転させながらさらに体を回転させた。
ガキンッ
武器と武器がぶつかり合った音が響く。薙刀を持っていた手がしびれる。何処にいるのかわからなかったが、とっさの行動が俺の命を救ったのだ。ここで運3セットの効果が発揮したのではないかと思う。
ブラッドオークは、余裕があるのかニヤけているような表情で俺を見ている。そのニヤけ顔が異様に腹が立ってくる。
索敵を目の前のブラッドオークに集中し、今度は見失わない様に注意している。リーチの優位性は薙刀にある。俺の距離で戦えるなら十分に有利に戦えるはずなのだ。
薙刀を下段にかまえ、右下から切り上げる。これも難なくかわされるが、今回はこれでは終わらない。薙刀は使う人が上級者になると、絶え間ない連撃を放つことが可能になるのだ。切り上げた薙刀を返して切り落とし、流れを壊さず薙ぎ払い、突きさす。
ブラッドオークは、初撃とは違い武器を使ってガードしながら俺の攻撃をしのいでいる。そんな様子を見た俺は、オーク共に剣術とかの概念があるのだろうか? と思考がそれた。だがこの世界がゲームのような物であれば、人間だけがスキルを覚えるわけではないだろう。
おそらく、ゴブリンにナイトやアーチャーがいたようにスキルを覚えているであろう敵はいたのだから、目の前の敵が剣術とかを持っておりその知識によって武器を使って上手に俺の攻撃を受けているのだろう。
ブラッドオークは、両手剣を上手く使いガードをしていた。慣れてきたためか薙刀の攻撃の間に反撃をしてくるようになった。俺もガードせざるを得なくなり攻守が逆転してしまう。
ここにきてシュウは大きな違和感にとらわれた。
少し前にブラッドオークと同ランクとされているオーガを相手にしたとき、どっちかというと一方的に倒すことができたのに、武器防具を装備しているとはいえこのブラッドオークに防戦一方になってしまっている状況だ。
変異種であるため強さを計るランクが役に立たない可能性はあるが、今までにないレベルで能力向上スキルに魔力を注ぎ込んでいるのに……
このままでジリ貧になってしまうが、距離をあけようにも相手の方が動きが早いため付与魔法を使うタイミングが見いだせず苦虫を嚙んだような顔をしていた。
「「フゴォォォォォォォォ!」」
2匹のオークがブラッドオークの来た方角から現れた。
まずいまずいまずい、オークとはいえ今の状況でブラッドオークと共闘されたら負ける、女なら苗床にされるが、男なら食われるか殺されてそのまま放置される。
せっかく拠点も建てたのに死にたくないな。
何で1人で調子に乗ってきちまったかな。
もっと気を付けるべきだった、死の迫ってきた俺は急に時間が伸びたように感じた。
これが事故とかに遭った時にある時が止まるあれなのか……
ブラッドオークの背後から現れたオークを見ると、尻を押さえており視線は俺より俺と対峙しているブラッドオークに向いている。親の仇を見るような表情をしていた。オークの表情が分かるかって? 分かるわけないじゃん、そんな雰囲気がするだけだよ。
死の瞬間がすぐそこまで来ているのに、俺は何をのんきにそんなことを考えているのだろう?
オークの変異種のブラッドオーク、Cランクの魔物だが俺より明らかに強い、尻をおさえた二匹のオーク……ん? オークの変異種がブラッドオークだったはず、だけどこいつはブラッドオーク(変異種)だったな。Cランクのブラッドオークの変異種? 尻をおさえた2匹のオーク、背筋が凍るような悲鳴……
ピコンッ!
このブラッドオークは、ブラッドオークの変異種だから実質Aランク相当の魔物ということになるのか。そりゃ強いわけだ。性欲の強いブラッドオークの変異種と尻をおさえたオーク……オェェェエエ。
これってそういうこと? もしブラッドオークに負けたらそういうことだよね? これは死んでも負けられん!
ブラッドオークが後ろから現れたオークたちに気を取られている間に雷の付与魔法を今もてる最大の出力でかける。雰囲気の変わった俺にブラッドオークが気付き、何かを察知しているのか今までとは全く違うスピードで切りかかってきた。
かなりの魔力を使っているため問題なく防御することに成功した。これによって勝負は決まった。
武器にも付与していた雷のおかげで、ブラッドオークがマヒを起こして動けなくなったのだ。
復活されるのはいやなので、間髪いれずに首を切り落とした。その姿を見ていたオークたちは、っざまぁ! みたいな顔をしてたが俺の視線に気づき慌てて逃げだしていった。しつこいですがオークの表情なんて(以下略
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