第15話 カエデはカエデのようだ
5分くらい見つめ合っていると、カエデが再起動をした。
カエデがゆっくりと近付いてくるので、ちょっと足を引いてしまった。踵に何かがあたり転びそうになる。
だけど転ばなかった。
どういう状況かというと、頭を抱えられて抱き着かれている。なんでこうなったのか俺自身もよく分かっていないが、気付いたらカエデの胸が俺の顔に当たっていたのだ。
やわらかいな……女性の胸にこうやって触れたの初めてかも。思いのほか心地よかったため、俺の息子が若干テントを張ってしまった。
顔に胸を押し付けて抱きかかえられているのに、へっぴり腰の様に腰が引けてしまっている情けない状況。周りから見たらかなり変な体勢に見えるだろう。
「あれ? シュウ、今私に欲情してくれた?」
「まて、気にするのはそこじゃないだろ」
「え? だってシュウがやっと私に反応してくれたんだよ? とっても大事なことじゃない!
シュウがダンジョンマスターだって言ったのにもそれは驚いたけど、私の胸の柔らかさを感じてシュウが初めて私に欲情してくれたのよ? これを越す大事なことって他にあるの?」
カエデは、心外だと言わんばかりにふくれっ面になっていた。
「そういうもんなのか?」
「そういうものよ。シュウがダンジョンマスターだったからって、シュウじゃなくなるわけじゃないからね。
それよりもそこそこ見た目には自信があったし、3週間も一緒にいて色々アプローチしても欲情してもらえなかったことの方が問題よ。
私に魅力を感じないかと思うくらい悩んだんだからね! ここにきて、ちょっとでもそういう対象で見られたことに喜ばずにはいられないわよ」
エッヘン! と言わんばかりに胸を張っている。スタイルの良いから胸を張られると、目のやり場に困るからやめてほしいところだ。
ゲームや小説が好きなDTだった俺に、若干発言に問題は見られるが実害はなく、見た目はストライクの女の子からアプローチをかけられても、どうしていいのか分からないのだ。
「カエデ、お前って本当にぶれないな。初めて会ってゴブリンのコロニーを潰したあたりから、ずっとこんな感じだったな。
俺さ、今までに女性と話すことなんて、お店で買い物したときか、おばちゃんたち位なもんだよ。後、親の職場の人もそうか、業務的な会話しかしてなかったけどな」
「そうなの? 女性にあまり興味がないのかと思ってたよ。前にも言ったと思うけど、私もシュウのことを好きになって初めて知ったけど、こんな性格だったとは思っていなかったんだよ。
シュウ以外の男にも同じようなことをしてれば、ただの痴女だけど、この気持ちはシュウだけなんだよ! 都合のいい女でもいいの!」
「おい、さらっとカミングアウトすんなって言ってるだろ。俺は女性に対して体の関係だけ、みたいな不誠実な奴にはなりたくないと思ってる。後、自分を安く売るようなことはやめてくれないかな?」
「えっ? 男からみたら女性は子供を産んでくれる人でしょ? それに男性の方が死ぬことが多いんだから、男性の方が少ないんだよ。
一夫多妻だったり、貴族やある程度の金持ちだったりしたら、妾だってそれなりの数いるんだよ。ちょっと前に貴族が妾にしてやるとか言われてカチンときて、片方の玉を潰してやったわよ」
「へ?」
しばらく何を言われたか理解ができなかった。
小説とかでは、貴族は男の世継ぎを残すために複数の女性を囲って、子供を産ませてるような話も多くあったな。で、男が沢山いると兄弟で家督を争って、殺しあったりとかもあったっけな。
三男以降は、おこぼれにもありつけないことが多くて、それでも貴族としての生活をやめれずに、騎士を目指して授爵を狙うみたいな話もあったな。
それにしても一夫多妻に妾か、本当にハーレムが存在するんだな、異世界だけに。
「じゃぁ、カエデは自分の他に俺が誰かを抱いても平気なのか? 都合のいい女ってそういうことだろ? 俺にはよくわからんのだが……ってか、貴族にそんなことしても大丈夫だったのか? 下手したら処刑されるんじゃないのか?」
「欲を言えば私だけを見てほしいけど、シュウは貴族なんかとは違って何かを成し遂げる! と私は感じているの。そんな人を私だけ見てほしいって縛ることはしたくない。
でも、好きなのには変わりないから近くにいさせてほしいかな。助けてもらった時から変わらない気持ちだよ。
貴族の件は、借金で首の回らない貴族が私の鍛冶の能力に目をつけて金稼ぎをさせようとしてたから、さすがに女性として求められたわけじゃないのに腹が立っちゃってさ蹴っちゃったのよ。
女として見られてもあの見た目じゃ、断ったわね。その時はさすがに殺されるかと思ったけど、お得意様だった上位の貴族の人に、事情を話して武器を1本渡して揉み消してもらったの」
カエデの作る武器は、刀匠と呼ばれているだけあって廉価版の数打ちでも二流品でも上位になるそうだ。
手を抜いていてそれなんだから、本気で打った武器はどれだけの能力が秘められているかわからないな。
自分用に調整した霞の切れ味を考えれば恐ろしいのだが、あそこまで調整して鍛錬するのには時間がかかるらしい。
基本的には、人に合わせて鍛錬し直すことはしないそうだ。調整なしの武器に関してはどんなに頑張っても一流に到達できないと悔しそうに語っていた。
「まぁ、シュウが自分の秘密をカミングアウトしてくれたから、ある程度は信頼関係ができたと思っていいのかな?」
「そりゃな、でも迫ってくるのは止めてくれよ? 俺がダンジョンマスターだって知ってもカエデの思いは変わらなかったみたいだな。
重要なことをカミングアウトしたのに、女として見られたことの方が重要って言われたら、カエデに正体をばらすかばらさないか悩んでた俺が馬鹿みたいに思えてきたよ」
「私の場合は精霊の血が流れてるから、ある程度は本質が見抜けるし、観察して思ったけどシュウが好きなタイプだったから、ダンジョンマスターだとか正直関係ないかな」
「この世界に来て初めてできた仲間がカエデみたいな子で本当に運が良かったな。場合によっては討伐対象になりかねないし、白い目で見られなくて本当によかったよ」
カエデは、細かいことを気にしてもしょうがないといって、俺がウジウジ考えていたことを切って捨てた。本当の意味でパーティーになったカエデは、俺に武器を打たせてほしいと願い出てきた。
好きな人のために、持てる力をすべて使って作ったものをプレゼントしたいと言われたのだ。何回も鍛錬し直さないといけないので、本当の意味で完成するのは先の話になるのだけど。
とは言っても、素材から何にするか考えないといけないので、ダンジョンマスター専用のスキルで呼び出せる素材を吟味していくことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます