第44話
隣の部屋で書類を書いていたはずの三葉がやってきた。倫典もだ。
お経が遮られて体が一気に楽になってきた。息もなんとかできる、落ち着け、整えろ。さっきまで俺の後ろにいたお袋たちもいなくなっていた。
生きている時に聞いたことがあった三途の川をガチで見ちまった。もう死んではいるけど本当にあるんだな、三途の川。
「三葉さん、倫典さん……書かれましたか?」
「まだ書き終えていませんが、すごくお経の音量が大きくてなんかただよらぬ感じがして。それにかなりの汗に、息切れでして。大丈夫ですか」
「あ、すいません。つい熱が入ってしまいまして」
まだ書かなくていい、それは。
「今日はせっかくきてくださって申し訳ないんですが、また改めさせてもらおうかと」
「ど、どうしてですか」
「和樹さんの妹さんにも話を聞こうって、倫典さんが……あ、お墓はもちろん倉田さんに頼みますが」
倫典が俺の方を見ている。……倫典!! 俺はいるぞ、戻っているぞ。気付け!!!
「最後のお経を読ませてください、じゃないと……」
やめろ、倉田。
「もうこんなに疲れ切ってますよ。今日のところは」
「いや、もう最後にさせてください。これを区切りにしないと大島さんが」
「え、和樹さんが……???」
そうだ、俺はまだいる。ここにいる。
「このままあなたたちの生活に影響が出ます。いいんですかっ」
「影響って何? やっぱり和樹さん……和樹さん、あの時の強盗から助けてくれたのは和樹さんなのね」
あぁ、三葉。
「三葉さん、少し話を聞いてほしい。多分信じてくれないかも知れないけど」
「……倫典君?」
「倉田さん、申し訳ないです。三葉さんと話をしたいんです。今日はおかえりください」
そうだ、帰れ! 倉田!
「……早めにしたほうがいいですよ、この様子だと倫典さんも知ってらっしゃるんですね」
「ええ」
「まぁいいです、彼がしてることは倫理に反する。そういうことをする往生際の悪い霊は幾つかみています。私はそれをどうにかすることもできますからね、ご覚悟を、とお伝えください……」
やっぱり普通の住職じゃないな。俺は往生際が悪い。別に犯罪を起こしているわけじゃないからな。許してくれ。
最後思いっきり倉田に睨まれた。っ!! それだけで頭が痛くなる。
「またご連絡お待ちしております」
あれが倉田の本当の顔。笑顔で2人の前を去って行ったが殺気が漂う。怖い。もうここに来るな。
三葉と倫典は仏壇を見ている。
「ねぇ、倫典君。教えて」
「あの遺骨ジュエリーはどこに」
「仏壇のこれと、私のジュエリー置き場に。持ってくるわ」
部屋は倫典だけになった。
「大島さん、今ここに戻っているだろ」
気づいたか……。
「なんか変な感じがして、湊音にメールをしたらいつもの湊音だった。だからもしかしたらここに戻っているかと思ったんだ」
そうだ、あの倉田のせいで戻ってきてしまった。
「実は美守君からメールをもらってて、あの住職と神社がなんか変な気もするって」
おい、なんでお前はいつも事後報告なんだよ。
「僕が色々と調べたら倉田の一族は陰陽師の血を引いてるらしくって。普段は普通の住職だったり仏具や墓石の販売とか倉田のお姉さんみたいに遺骨ジュエリー作ったりと家系を増やして日本の霊界の治安を守っているそうだ……ってなんかそんな世界あるんだなぁって。あ、別に悪徳商法や詐欺とかではないんだけどいつまでもぐだぐだしている幽霊とかを成仏させてる、日本版ゴーストバスターズみたいなやつらしいぜ」
なんだ? 陰陽師やらゴーストバスターズって。わけワカンねぇ。でもあのお教は相当な威力があったな。グダグダしている霊って俺のことか……。にしてもそんなオカルトまがいなものをよく調べたな。まぁ倫典らしいっちゃらしいが。ちゃんと仕事してるんか?
あ、三葉が戻ってきた。首にネックレスを付けてきた。
「これよね、これがどうしたの? 倫典君」
「それのジュエリーの中に大島さんの骨が混ざっているんだろ」
「ええ、倉田さんのお姉さんがジュエリー職人で作ってもらったのよ」
「まぁこれは信じられないかも知れないけどさ、聞いてほしい。まだここの仏壇に骨も残っているだろ。大島さんの魂は仏壇の中にいた。そのジュエリーを持っている人に乗り移ることができるんだ」
「ええ?」
信じられないよな、三葉。
んっ?
「何それっ!?」
「三葉さん!!」
あ、ネックレス仏壇にっ……。
「乗り移り? どういうこと? スケキヨも確か首輪につけていたわよね。まさかスケキヨが動き出すようになったのは和樹さんが入ってたってことなの?」
「そ、そういうことですね」
なんか三葉怒ってないか?
「まさか私にも乗り移ってたわけ?」
「……そ、そういうことです。だから強盗から身を守れたし……あ、強盗が三葉さんに紐で縛ってくれーって言ったのも大島さんです」
……そうだ、うん。
「いやだ。もう墓場まで持っていきたかった過去なのに」
別にお前がSM嬢だっていうことは気にしてないぞ、ただ本当に手際良すぎて気持ちよかった……じゃなくて、あれがあったからこそ強盗も捕まえられたわけで。
「あと他に誰か乗り移ったりしたの? 倫典君も?」
「僕はまだですが美守君や、こないだ来た高橋くんとか実は湊音にも。そうそう、このここに隠してたこのノートに大島さんがやり残していたことを叶えたいって」
「この字は和樹さん……。あぁあああああっ、もぉ」
やばい、これは三葉怒っているぞ。
「和樹さん! 正々堂々と出てきなさい!!! 人に迷惑かけてばかりでっ」
す、すまん三葉。そうだ、怒ると怖いんだったよなぁ。でも出てきなさいって言われても。
「乗り移れる? だったら倫典くんに乗り移りなさいよっ!!!!」
「三葉さん!! ちょっと」
「そんなら早く倫典君に乗り移って私となんで話をしようとは思わなかったの?! ばかばかっ!!!」
三葉が倫典にネックレスをつけた。泣いているのか?
「ちょ、僕だけ乗り移られてほしくなかったのにぃいいいいい!」
すまん、倫典!!!! お前に乗り移るぞ!!!!
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