第27話
目の前が真っ暗になりまた明るくなったかと思ったら目の前があの窓の景色。
そうだ、最後になんか首輪を外された記憶。あの遺骨ジュエリーのついた……。そうか、外されると俺はここに戻ってしまうのか。なるほど。
いや納得しちゃダメだ。スケキヨは? 三葉は? 電話することもできないし……美守も倫典もいない。
落ち着け、落ち着け、精神統一! こんな不安になったことはあったか?
病院には三葉しかいない。今診察して、倫典達と合流すれば俺がいないと美守は気づいて何かしらの連絡はあるだろう。
しかしそれよりもスケキヨは大丈夫なのだろうか。今朝もまた食欲がなかった。猫ゼリーも食べなかったようだ。
俺はずっとここに留まることしかできなかった。他の幽霊みたいに自由に動きたい。てか見たことないが、他の幽霊を。出くわしてもおかしくない気もするけどなぁ。こないだのモールの時とか見なかったなぁ。
でも美守には見える。他の幽霊と同じように。そして俺の話を聞くことができる。本当に不思議だ。そんなことありえないと思っていた。
となんぞ色々考察して時間を費やすことにしよう。
……。
それからどれだけだったか。玄関から音がした。
バタバタバタっ! この足音は美守か?
「美守くん!」
後ろから三葉の声。そして倫典もやってくる。いきなり美守が仏壇の前きたら三葉も不思議に思うだろ。
「やっぱここにいた……」
美守は俺を見てる。俺は頷くしかなかった。
「美守くん、どうしたの……? まず手を洗いましょう」
三葉の腕の中にはスケキヨがいた。大丈夫だったのか? 首輪はついていない。
「うん、わかった……」
戻ってこいよ、美守。倫典もこっちを見てる。三葉がこっちに来た。深刻そうな顔だ。
「スケキヨ、もう長く生きないって」
……。そんなにギュッと抱きしめたらスケキヨも苦しいだろ。
「もういつ死んでもおかしくなかったんじゃなかったって。なんで私、気づかなかったんだろう……」
泣くな、三葉。しょうがないだろ。お前は猫が苦手なのに俺が好きでここに連れてきて、俺が事故に遭ってからリハビリの付き添いや葬式、それに自分の仕事……そして俺のこともあって不慣れな猫の世話……一緒に暮らしてくれていただけでも十分だったよ。
「手術も無理だって。なんでそこまでわからなかったのかな……」
みゃお
スケキヨも泣くなって言ってるぞ。小さく弱い声で。……てか俺がスケキヨの中に入ったから体力を消耗したのか?
ごめん、スケキヨ……。
「三葉さん、お茶用意したから飲んできて」
「……ありがとう。スケキヨ、和樹さんの前で待っててね」
泣く三葉がゆっくり座布団の上にスケキヨを置いた。タオルに包まれてゆっくり横になった。三葉が部屋を出た隙に美守がやってきた。
「大島先生、びっくりしたよ。三葉さんが病院から出てきたらいなかったもん!」
『俺もびっくりだよ。首輪を外された途端にここに戻ったんだ。それよりもスケキヨは……』
「とも君も三葉さんもなにか暗い顔してた。病院から出てきた三葉さん、ずっと泣いていた」
……。
「スケキヨ、かわいそう。でも大島さんのところに行けば大丈夫だよ」
美守、スケキヨを優しく撫でて……少しの間だったけど可愛がってくれてありがとうな。ってまだスケキヨが死ぬなんて。
「あ、そういえば……首輪を外したら仏壇に戻ったって言ってたよね」
『ああ』
「これ……とも君から預かっていたの」
美守がスケキヨの首輪を持っていた。……。
「外した途端に……わかった」
『わかったか、さすが子供ながらの発想力!!!』
すまん、美守! びっくりした顔をしているがおまえにのりうつるぞ!!!
「うわぁっ!」
「美守くん?! どうしたの? スケキヨに何かあった?」
倫典が部屋に入ってきた。
「ん? 何もないよ」
俺は焦った。美守に乗り移れた。やはりこの遺骨ジュエリーを身につけているとその人間に乗り移れるんだ。美守のズボンのポケットに仕舞い込んだ。
「ならいいけど……」
「三葉さんは?」
「いま疲れてソファーで横たわっているよ」
……。
「ぼく、スケキヨに、ぎゅーする」
「うん、優しくね」
ぎゅーっ。お前をしっかり抱きたかった。
ミャオ。
かぼそく鳴く声。愛おしい。匂いも抱き心地も、毛並みも全て懐かしい。
もう苦しかったら俺のところにおいでな。
「美守くん、スケキヨ……次会う時にはもういないかもしれない。でも短い間ありがとう、だって」
「嫌だよぉおおお。もっと生きてくれよぉおおおおお!!!!」
「美守くん……」
ん、なんか力が抜けてきたぞ。もしかして、これってまたまさか……眠気?!
なんで子供はすぐ眠くなるんだ。まだそばにいたい、スケキヨのそばで寝させてくれ。
俺はまた仏壇に戻った。座布団の上で美守とスケキヨは一緒に横になった。それを見守る倫典がブランケットをかけながら静かに息を引き取るスケキヨを見て涙した。
どうしよう、美守のズボンの中に首輪を入れたままだ。でも無理矢理入って起きても美守に負担になるだけだ。……俺は優しくその姿を仏壇から見下ろす。
スケキヨ……。
ミャオ
気づくとスケキヨが俺の腕の中にいた。来ちゃったか。ここに。
スケキヨ、お疲れ様。そしてようこそ、こちらに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます