スケキヨ
第25話
あれから数日たちまた土曜日。俺がスケキヨに乗り移れるようになって一週間、あっという間だった。
「和樹さん、おはようございます……」
毎朝いつものようにお供えを置いてくれる三葉。本当に美しい。ありがとうな。
「おはよう、三葉さん」
「あら、おはよう。倫典くん」
寝ぼけ眼でやってきたのは倫典であった。なぜこんな朝早くにこの家にいるのか。倉田が帰ったあと倫典と口論になり(俺は三葉に入ったまま)結局俺が折れる形になり、仏壇に戻った。
その後2人はリビングで話をし、倫典がプロポーズに近い告白をしたのだ。
しかしモテ期だーとか、どうしよーとか浮かれていた三葉が意外にも恋人としてはいいが結婚までは考えられないと返答をしたのだ。
だが恋人として良いというのがわかった倫典は大はしゃぎだった。倉田の早期離脱で自分が優位に立ったと思ったのか、たわけ。調子乗るな。倉田も倉田でもっとアピールしてこないのか!!!
どうやら仕事が忙しいとのことだ。まじめだな、本当に安泰だよな、倉田の方がと思うがやはり猫が好きなだけなんだよな、きっと。
その後、寝室のドアが閉まった音がしてから……
あああああああああっ!
ここまで聞こえてきた2人の愛し合う声をこの仏壇の中で聞いた俺の心境を誰がわかったことか!!! 展開が早いぞ! 早すぎるぞ! おいっ!!!
次の日の朝、三葉に入って倫典に説教しようとしたが2人に入る余地のないラブラブっぷりで。
なぜかここ数日の間、倫典はいつづけている。そして毎晩……俺はもう生きた心地はしなかった。倫典曰く(仏壇の前で報告してくれたが)俺のやりたいことをサポートできるからいいじゃん〜って。まぁそれはそれなんだが。
乗り移る気にも慣れなかった。もう一週間で終わりでいいよ、とか思ったがまだ俺にはやらなきゃいけないことがある。
若菜から手紙とお供物が届いたのだ。電話ならいいとのことで声だけ会える、しょうがないか。倫典にも協力してそこまでこぎつけたから文句は言えない。
そして今日も美守を預かる日。あれから倫典の元に連絡はないとのこと。もう一緒に小橋も暮らしてはいるのだろうか。美守は嫌な思いはしていないだろうか、なんとなく心配してしまう。
教師の時も家庭に問題を抱えた生徒も少なからずもいた。話を聞いてほしいというものもいたり、聞いてほしくない触れてほしくないというものもいたり、黙っているものもいたり。
どの場合にしてもほっとくことができなかったがウザがられたこともあった。でもそこまでしないと何か心に傷を負ったり自分1人で仕舞い込んで辛くなったり……それだけは避けたいいのだ。
高校生と4歳児じゃ捉え方は違うかもしれないが今からあそこまであんな小さい子が新しい父親を受け入れたくないっていうのはかなりの問題である。
って真剣に仏壇の中で考えているうちに美守がやってきたのだ。倫典と一緒に。まずは仏壇の前に座ってるスケキヨをヨシヨシしている。
実は今日はスケキヨを病院に連れて行く日でもある。やること多すぎるな。倫典がペットショップ兼動物病院の所を知っているとのことでそこに行くことになっている。
そこなら診察をしている間に倫典と美守はペットショップで動物を見て過ごすことができるのである。
三葉は玄関先で美帆子と話している間に倫典と美守が仏壇の前で作戦会議。
「三葉かスケキヨに乗り移るかが問題だよな。三葉の意識の状態で病院連れて行きたいけどスケキヨに乗り移ったとしてもしかしていきなり手術とかなったら……」
そ、それだけは嫌だ。もしなんかメスとかで切られたりしたらどうなるんだ?
でも確かに三葉ばかり乗り移ってもなぁ。俺は方法は知っているもののそれをいうと簡単に三葉に乗り移れなくなってしまうかもしれない。
美守はすっごく俺を見るんだが……。
「大島さん、なんか隠し事してない?」
隠し事なんてしてないぞ……。倫典までこっち見てくるし。
「大島さん、僕には見えていませんが本当に隠し事してないですか」
するわけない!! って首を横に振る。
「ちなみに大島さん、僕は大島さんの声は聞こえるんだからリアクション大きくしなくていいんだよ。何か言い方あるんでしょ」
『あ、そうか。聞こえるか』
「うん、聞こえるよ」
「僕は聞こえない、何か大島さん喋ってるの?」
倫典には本当に聞こえないようだ。不思議なもんだ、こうやって生きている人間と話せるなんて。一番は同じ男である倫典に入りたい(こいつはチビでガリだから窮屈そうだ)ものだが……。
『途中までスケキヨに乗り移って、診察の時に三葉に乗り移るのが一番かもな』
「確かにね。とも君、最初はスケキヨに入るって」
「わかった。そのほうが三葉の意識も途中まであるからな。で、診察の時に三葉にって感じか? そんなトリッキーなこと外でできるのか」
『やればできる』
俺はガッツポーズした。すると美守も一緒に
「やればできる!」
と真似をすると倫典は笑った。釣られて美守も笑った。そこに三葉がやってきた。少し浮かない顔をしているようだが。
「2人とも仲良いわね。倫典が人懐っこいからかな」
「僕、とも君好き!」
「とも君、だなんて。じゃあ今日一日楽しもうね」
「はーい!」
三葉は相変わらず露出の多い服を着ている。彼女の趣味かもしれんがそんな格好で外に出るのは本当は嫌だった。
……そうだ、まずは……。
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