第17話
「いや、でもさ……なんで一年目にしてこんなことになってんだよ」
「しらん、そんなの俺が一番知りたい」
一年以上ぶりにまともに(身体は三葉だが)倫典と話すことができる。
「最初はスケキヨに冗談で乗り移るぞーって乗り移ったら乗り移れてさ」
「冗談が過ぎる」
「四足歩行も悪くないし、猫ゼリーも美味だがやはり人間の食べ物が一番だ……」
スケキヨはお皿の上に載った猫ゼリーをぺろぺろ舐める。お前もキャットフードよりもこっちか? 食いつき方が違う。
「死んでもキャットフードは食べん」
倫典は鼻で笑う。
「いつかお前も死んで猫に転生した時に何も食えずに餓死するぞ」
「猫ゼリーしか食べてないくせに」
倫典がこっちをやたら見る。そして肩をぐいっともたれた。
「ねえ、お願いだからもう少しシャキッとして座って。それに喋り方も三葉さんはそんな話し方しないし」
「しょうがないだろ、それが俺だ」
「やっぱり悪夢だ。……でも三葉さんはいまどこにいるんだろう」
あ、それは考えたことがなかった。スケキヨの時もだが、俺が乗り移ったら体の持ち主の意識はどうなるのか。
「昨日は覚えてないと言ってた」
「覚えてないって……だからといって絶対変なことしないでくださいよ! てかしたんでしょ?」
……。
「あー! やっぱりしたんだ。最低最悪だぞ」
「るっせーよ、胸を一揉み二揉みして何が悪い、もともとは俺の妻だ」
「奥さんだからといってしていいこととしちゃだめなことあるんですよ。それ以外に何かしたとか、見たとか……」
何そこまで興奮してるんだ、倫典。まぁ確かにそれ以上のことはできるかもしれんがな。
「にしてもなんで俺はこんなことできたのか。死んでからできたのであればもっと早くしたかった」
「ですよね……なにかしらの奇跡が起きた、なんでしょう。ここ最近隕石が落ちたとかそんなこともないですし、三葉さんが大島さんに会いたくて何か祈祷師、霊媒師……イタコに頼んだとか」
倫典、なんでそんなことをぽんぽんと思いつくんだ? 三葉は朝のニュースの占いでさえも信じない女だ。不妊治療の際や俺が事故を起こして一生下半身麻痺と言われた時に何度かいろんな方面からどこで聞きつけたかわからんが怪しい飲み物勧めてきたり、治療を受けさせようとしたり、宗教に入会しろとか、ここの神社はいいぞとか言われても行かなかった三葉がそんなオカルトチックなことはしない。
「それか相当大島先生がやり残したことがあり過ぎて、後悔しているところを見かねた神様が……」
「はい、もういい。まぁ確かに俺はやり残したことはたくさんある。でも後悔したって死んじまった以上しょうがないって思っている」
目の前の倫典はじーっとこっちを見ている。
「でも今はこうして乗り移っていろんなことができるようになったからやれなかったこともできるんじゃないんですか」
あっ、そうか。でもどこまでやっていいものだろうか。とか思いがらもこのままこの乗り移りがいつまで続くかわからない。急に明日、いやこのすぐにでも終わってしまうかもしれない。そのほうがやり残してしまった感や後悔が絶対強く残る絶対。
すると倫典が自分のカバンの中から紙とペンを取り出した。そして俺にさしだした。これをどうするんだ?
「今すぐやり残したこととかいろんなこと書いて!」
書く?!
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