グラン・ギニョールは今日も始まるショートショート集
蓮見 悠都
バラエティー番組のワイプにおける偏見的解釈
ワイプとは何か。
この疑問について四半世紀考えてきた御年十九歳の私であるが、いまのところ明々白々としたアンサーは出ていない。しかし、錆びてカビの生えた使いどころのない脳みそをなんとか働かせ、一つの文章体系として以下にまとめたので、ぜひ愉悦と享楽を持ってお読みいただきたい。
ズバリ宣言しよう。ワイプがなぜそこまで重要視されるのかが私は理解できない。単純に面白くないからだ。
ということで、今回はいわゆる「ワイプ」について話を深めていきたい。
ご存じでない方のために説明すると、番組中VTRが流れると画面の脇に小さな正方形ないしは丸形がつくられ、スタジオにいるさして見たくもない人間の顔がドアップで写し出されている。大抵はVTRに対する芸能人のわざとらしい笑み、頷き、泣き顔が抜き出され、視聴者の感情を操作しようという
そして、ワイプに顔が繰り出されたまま視聴者諸君に笑いを届けてやろうというのが「ワイプ芸」だ。ご存じない方は、ぜひ「ヒルナ〇デス!」を観ていただきたい。あの番組こそワイプ芸の真骨頂であり、昼間のお茶の間に産地直送で寒気を届け、平日の同時間帯で他局のこの世のものと思えない番組の中からも頭一つ抜け出せない原因になっているともいえる。
さて、前提条件として私は「ワイプ及びワイプ芸は不必要である」と話を進めていたが、読者貴君は問題ないだろうか。まさかワイプ芸を積極的に自分から欲し、求めている人間などこの世にはおるまい。いたら、粛清するまでだ。
だがしかし、研究において公平性を保たなければ研究とはいえない。それは独りよがりのゴミ箱に吐き捨てる駄文でしかない。ということで、私は北楢市駅前でアンケート調査を執り行った。「あなたはワイプ芸で笑ったことがありますか?」と質問を投げかけて、「はい」「いいえ」「どちらでもない」の三択から一つを選択させた。
結果……「笑ったことがない」100%(内訳:回答者1名、未回答者108名 死者2名)
上記の通り、100%が「ワイプ芸で笑ったことがない」という結果なった。予想よりもかなり高い数値であったので私自身も驚いたが、世間としてもワイプに対してのマイナスイメージが強いことがよく分かるのではないかと思う。
さて本題に入っていく。
早速だが、核心となる問いを提示する。すなわち、「なぜワイプ及びワイプ芸は視聴者に不快感を与えるのか」である。以下、答えとなるであろう理由を列挙した。
一、わざとらしい
二、生理的嫌悪感
三、VTRに集中したい
四、ネタとして面白くない・つまらない
五、その芸能人が嫌い
六、人間のドアップが嫌い
七、人間の顔が嫌い
順繰りに整理していこう。
一、わざとらしい
これは最もワイプを嫌う理由として挙げられやすいのではないのか。なぜなら、視聴者はテレビ局やマスコミに本来あるはずもない「公然性」「正当性」「真実性」を求めがちであるからだ。「やらせ」を見つけたならば、ここぞとばかりに飛びついて批判することからも見て取れる。
だがしかし、テレビ側も一つの「脚本」に沿って番組のストーリーを構想しているので、番組に登場する「役者」の方々にも演技をしてもらわなければいけない。笑うところ、泣くところ、怒るところ、悲しむところ、感心するところ、と事前に決められた場面で表情を出し、視聴者と共有すべく画面に提示する。
そして、当然ながら「役者」の方々は「役者」を本業としていない人が大多数だ。彼らの頷きや笑い方はどうにも鼻についてしまうのは、致しかたがない。素人の演技は、本物と比較するとやはり劣ってしまう。そうなると、「真実性」を求める視聴者は「こいつは大して面白くもないのに笑ってやがる」という卑屈な人間心理が働き、冷めた気持ちになってしまうのだ。
これはテレビの虚偽性を理解していない視聴者が悪い、といっているのでは決してない。むしろ、あくまで「私は公正公平です」と装っているテレビ側のほうがよっぽど害悪なのである。よってこの「わざとらしさ」が生まれてしまうことには、なんの疑問の余地もない。
二、生理的嫌悪感
これはどうしようもない。人間の本能的な価値観はどうしようもない。「虫が嫌い」「集合体が嫌い」「男が嫌い」というのと同じように「ワイプが嫌い」「生理的にワイプが無理」という人がいても、なんら不思議ではなかろう。ちなみに私は、小学校四年時に国語の教科書に掲載されていた「初雪のふる日」という物語文の挿絵に、いつも吐き気を催していた。唾を溜めながら音読していたあの頃を思い出す。
三、VTRに集中したい。
なるほど実に理論的な理由である。画面の横でちょこまか小さな人間がしゃべっているのは邪魔であり、しっかりと編集された動画の内容に集中したいという意見は至極真っ当である。
そもそもワイプ芸というのは、本筋とまったく関係なく挟み込まれる場合がほとんどだ。内容が気になってしょうがない時に、くだらないシャレで流れが途切れたら怒りも倍増であろう。画面の有機ELを一つ一つ潰すぐらいでないと鬱憤が晴れないぐらいだろうか。
四、ネタとしてつまらない・面白くない
単純明快にして至極同然、迅速果敢に快刀乱麻の一言は、ネタをやってる者からしたら擦り傷程度では済まない致命傷になるであろう。馬鹿の一言が楽になる、ともいうように、このようなシンプルな感想こそが発信者にもストレートに伝わりやすいのではないだろうか。とりわけアイドルがワイプ芸をやるようなケースは、内輪ノリの雰囲気になりやすいということも付け加えておく。
だとしても、本場のお笑い芸人がやれば面白いことには問屋が卸さないのが、ワイプ芸だ。痛々しささえ感じてしまう。「ああ、あの芸人は、こんなくだらないネタをしなきゃいけないほど売れていないんだなあ」と視聴者の胸を痛ませてしまう。放送作家からの強要も断れるほど、彼らの権威向上を心から願う。
五、その芸能人が嫌い
剛速球である。まさに火の玉ストレート。キャッチャーのミットに穴が空くんじゃないかってぐらいのスピードボールであるが、ワイプあるなしに関係なくその芸能人が嫌いだというのは、いささか同情の余地はあるのかもしれない。ただ嫌悪感は時としてポジティブな感情に勝利し、身体を負のスパイラルに巻き込んでしまう。今後とも留意すべき案件である。
六、人間のドアップが嫌い
目、鼻、口、耳の五感が付随している顔面は、一歩動かせば衛生的な問題を孕んでいることも見逃してはならない事実であろう。先ほどの理由とも関係があるが、嫌いな芸能人のドアップが写される時には、椅子で画面をかち割りたい気になるのも分かる。私もインターネットのサイトで皮膚トラブルや歯茎お掃除の広告が出るたびに、小学校の給食で苦手な料理を担任に無理やり食べさせられた時のような不快感を味わいさせられたものだった。
七、人間の顔が嫌い
嫌悪の最終形態、究極奥義といっても過言でない理屈であるが、幼き頃のトラウマ等で動物しか信じられなくなった方がいても妙竹林とはいえない。犬や猫、その他親愛なる動植物を愛でる方は千年前の文献、「虫めづる姫」にも参照できる。ぜひ、自らの持つ性癖に没頭していただきたい。
以上、ワイプに対する各人の持つ嫌悪感の中身を紐解いていった。ここからは、具体的な解決法について説明していく。
解決法①・観ない
手っ取り早い手段である。すなわち、不快な思いをするぐらいなら画面を閉じたほうが利口ではないかということだ。今はテレビ以外にも様々なメディアが存在している。YouTubeを筆頭とした動画サイトでネットの海に沈んでいくことこそ現代人としての
解決法②・イヤホンをする
もしも親がテレビをつけて、その場を離れられない状況に陥ったならば、迷わず自分の世界に入り込むことが大切だ。大事なのは、押さず駆けず黙って素早くイヤホンをして、音を聴覚に集中させることだ。YouTubeでもAmazon primeでもspotifyでも何でもいい。なんなら、動画を観ながら「シハシハシハシハ」と笑ってテレビの音声を妨害してやるのも一興である。
解決法③・テレビをぶち壊す
読者諸君が一番効率の良い方法として思いついた対策ではないのか。当然といえば当然だ。元凶を破壊しさえすれば、他に手を煩わせることはない。自宅にある金属バットやショットガンで済む簡単便利な対処法として、おすすめである。
解決法④・苦情電話を入れる
原始的な方法だが、相手に直接的なダメージを与えるという点では際立っている。一言、「つまらない」で切ってもいい。付け加えてマルチ商法や宗教勧誘をしてみても効果的だろう。通話をして無言のまま受話器を置き、これを無限に繰り返す行為で番組側のスタッフを苛立たせるのもまた一つだ。
解決法➄・放送局のビルに突っ込む
自らの身体能力及びその他のパワーが比較的高緯度である方のみを対象とした方法である。シュワルツェネッガーやキアヌ・リーヴスぐらいの力があれば好ましい。銃撃戦や爆発物を持って生放送のスタジオに突撃しよう。飛び込みのゲスト出演にもきっと心優しい対応をしてくれるはずだ。歓迎の仕方が異なる場合も覚悟して、きちんと防弾チョッキを着ていくべきである。
以上が、バラエティー番組のワイプ及びワイプ芸に対する私の見解である。ぜひ読者諸君も参考にしてほしい。
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