第8話

 体育の授業になった。

 男子は長距離走、女子はソフトボールだった。


 教室を出て、女子の着替えが始まる前に、僕はユイに一言声をかけた。

「ユイ、体力も凄いんだから、本気でやっちゃだめだよ?」

「うむ……いつでも全力で無いと、気持ちが悪いんだが……了承した」


 ユイは難しい顔をしたが、次の瞬間にはさっぱりとした笑顔を浮かべた。

「じゃあ、また後で」

「おう!」


 体育の先生は関口 佳美(せきぐち よしみ)と言った。三〇代独身の女性教諭だ。

 僕たち男子は学校の外を走るように言われたので女子の様子は、よく見えなかった。

「はぁはぁ、くっ……長い……」

 男子は五キロを走り終えると、校庭の隅にどんどん集まっていった。


「あれ? ユイが一人で座ってるけど、どうしたんだろう?」

 校庭の中央から離れた鉄棒のところで、ユイは膝を抱えて他の女子達の様子を見ているようだった。


 体育の時間が終わってから、僕はユイに訊ねた。

「ああ、晴人。 なんだかよくわからないが、球をなげたら取れる者がいなかったし、スチールしすぎだと注意されたし、ホームランばかりで球が無くなると言われてしまったぞ?」

「……ユイ、だから力加減しないと駄目って言ったじゃ無い」

 僕がそう言うと、ユイは口を尖らせた。


「力を抜いたぞ? 本気を出したら、怪我人では無く死人が出るからな!」

 なんだかわからないけど、ユイはしょんぼりしている。

 僕はユイの頭を軽く叩いて言った。


「元気出しなよ。 そろそろお昼の時間だよ」

「昼飯か!? もう腹が減ってしょうがなかったんだ!!」

 ユイの言葉に応えるように、ユイのお腹が豪快になった。


「あの、ユイさん? 食事一緒にしませんか?」

「?」

 僕とユイが振り返ると、葉山さんが緊張で震えながら、ユイを食事に誘っていた。

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