第3話

 朝、僕が目を覚ますとユイは布団でグウグウ寝ていた。


 ダイニングの机の上に載っていた書類を見て僕は驚いた。

「あれ? なんだ、これ?」

 書類の表には家の住所とユイの名前、そして僕の通っている学校の住所と名前が書かれていた。

「え!? これって学校の転入届!?」


「おはよー。何騒いでるの?」

 ユイがパジャマ代わりのロングTシャツ姿で僕に近づいた。

「これ、どうしたの?」

「あ、なんか届いた」

「届いたって、どこから?」

「うーん? 夜中に魔方陣が出てきて、なんか落ちてきたんだよ」


 僕はちょっと焦った。

 なぜなら僕の学校は、自慢じゃ無いけど偏差値が高くて自由な校風が売りの進学校だったからだ。

「ユイ、勉強できるの?」

「勉強? なにそれ?」

 僕は慌てて小学校から今までの教科書を取り出し、ユイに見せた。


「へー。この世界の常識って奴? ちょっと読んでみるよ」

 ユイはそう言うと、山積みの教科書をパラパラと見て頷いた。

 しばらくすると、教科書の山はすべて読み終えられて床に置かれていた。

「うん、大丈夫。大体読んだことは分かった」

「……凄いね」


 僕は結構努力してやっと入ったのに、ユイは小一時間で教科書の内容を理解したみたいだ。「ユイも学校に通うなら、もうちょっと服も買わないといけないね」

「そっか。金貨じゃ買えないんだよな? じゃあ、冒険者ギルドに行って仕事を探さないと」

「この世界には冒険者ギルドなんて無いよ。コンビニのバイトとかはどうかな? 家の学校はバイト禁止じゃないし」

「コンビニ? なんだそれ?」


 僕はユイが異世界からこの世界に来たばかりだと言うことを失念していた。

「あ、そっか。ユイはコンピュータとかレジとか接客は難しいかも……」

「力ならあるぞ?」

「じゃあ、引っ越しとかの休日バイトを探したら良いんじゃ無いかな?」

「引っ越しか。良いな」

 ユイは腕まくりをして笑った。


 僕は早速、スマホで引っ越し屋のバイトを探してみた。

「一人でも行ける?」

「大丈夫だ」

 ユイは胸を張った。それは根拠の無い自信に満ちていて、僕を不安にさせた。

「その前に、スマホ買おう。僕名義で契約してあげるから」

「スマホ? その小さい魔法道具か?」

 ユイは僕のスマホを指さすと、ふうん、と首をかしげた。


「スマホがあれば、色々調べられるし、連絡も取れるからね」

「そっか、こっちの世界は使い魔や魔法は無いんだな」

 ユイは頷きながら、僕の話を聞いている。


「今日は土曜日だし、スマホの契約に行こう」

「わかった」

 僕たちは近所のスマホショップに出かけることにした。

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