#山へ行った話【1話完結!スーパー短編】
「こんばんは、クリス米村です。
この間、現場へ行ったら、マネージャーが真剣な顔をして、なんか言いたそうにしてたんだ。
どうせうるさいことしか言われないから、無視してた。
そしたら、向こうから近寄ってきて、コロナに気をつけろとさ。
そりゃ、言ってることはわかる。
危ないもんな。
人にうつすかもしれないし。
でも、気をつけろったって、限度があるだろ。
手洗いはしてる。
大丈夫だ。
むしろ手洗いしすぎて、手がガサガサしてきた。
だけど、家へ帰った瞬間に、服を脱いでシャワーを浴びろっていうのは、どう考えても無茶だ。
せめてリビングの、100インチテレビのスイッチぐらい、押させてくれ。
あと、ペリエを1杯飲ませてくれ。
「それもダメだ、帰宅してすぐ」っていうなら、もう素っ裸の状態で帰るしかない。
外出先で、服を全部脱いでおくんだ。
これなら、玄関を入って、すぐにバスルームへ直行できる。
マネージャーの希望どおりだろ。
本当にやってやろうか?
素っ裸で、局の正面玄関を出てやろうか?
まあ結局、マネージャーとしては、あんまり人と接触してほしくないってことだ。
わからないわけじゃない。
気をつけるさ。
コロナのヤツ、けっこう長引いてるし。
おまけに梅雨も長引いてる。
暗い話題が多いよな。
気分を変えようと思って、おととい山へ行ったんだ。
オレはパーティによく誘われる人間だから、どっちかって言うと、海派に見えるだろ?
ビーチにはシャンパンが似合うし。
安心しろ、山派のリスナー。
オレは山も好きだ。
山だけじゃなく、海も好きだ。
どっちも間違いなく楽しめる。
だから山派のリスナーも、海派のリスナーも、仲良くしろ。
とにかく今回は、マネージャーがうるさいから、1人で行った。
ベントレーを運転してさ。
もちろんマスクなんて付けない。
車内で1人だから、問題ないだろ?
行った山をここで公表すると、ファンが殺到するから秘密だけど、都内からそんなに離れてない山だ。
ドライブして、車で道をずうっーとのぼってさ。
脇道へ入っていくと、行き止まりなんだ。
車を停めて。
下に川が見えたから、下りてったんだ。
冒険のつもりだったが、思ったより遠くてさ。
長靴を履いてくりゃよかったなんて、ブツブツ言ってたら、川に出た。
やっぱ山の水はキレイだよ。
飲めそうだもん。
飲まないけど。
川の中に小魚もいた。
なんて名前かはわからん。
調べたらわかるんだろう。
調べないけど。
まあ、川辺っていうか、砂利がいっぱいのとこでゆっくりしたよ。
寝転がってさ。
久しぶりの開放感を味わった。
マイナスイオンを浴びまくって。
ウトウトしたんだろうな。
起きたら、周りに小さい子供がいた。
びっくりして見回すと、どっかのファミリーがBBQをしてたんだ。
どおりで夢の中に、グリルチキンが出てくるはずだ。
肉の焼ける匂いがしてたんだな。
ところがだよ。
そのファミリー、内輪でワイワイ騒ぐばっかりで、こっちへ来て一口食べませんか? とか、言わねーんだよ。
そんな可能性はほぼないと思うが、100歩ゆずって、クリス米村を知らないとしてもだよ。
なんて言うのかな、近所づきあいっていうの?
何かの縁だろ、大事にしろよ、あのファミリー。
だいたいこんな人里離れた場所で、スーパースターと会えるって、もう一生ないぞ。
よく聞け、逆にあんな場所だからこそ、会話するチャンスなんだよ。
東京の路上で話しかけようとしてみろ、絶対にマネージャーが止めに入る。
なのに、そのファミリー、自分たちだけで肉をバクバク全部食っちまった。
オレは黙ってベントレーまで帰ったよ。
リラックスするために山へ来たのに、都内へ戻るオレの心は、怒りに満ちていた。
あの山を買い取って、あのファミリーがあそこで一生、BBQできないようにしてやることまで考えた。
でも、ふと思ったんだ。
そういや…
よく考えてみたら…
オレ、マスクしてなかったなって。
あのファミリー、オレのこと、どう思ったかな。
というわけで、今夜の1曲目はこれだ。
『ドンマイ』」
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教訓👉1人になったらなったで、寂しくなったようです笑
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ラジオ品川 99.92FM
Navigator クリス米村
『クリス米村のGO❗️GO❗️レインボー❗️〜今夜もパーリーしようぜ〜』
毎週木曜ほぼ21:30〜恋人たちが眠るまで
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