【集う者たち】編

9-1【燻りは残ったまま1】



くすぶりは残ったまま1◇


 【サディオーラス帝国】最東端の農村、【豊穣の村アイズレーン】が王国軍に侵攻されたあの日、あれからもう二日が経った。

 村の建物、育てた畑、豊かな森林の火災も鎮火ちんかし、ようやく少し落ち着いたと言う所……でもなく、二日前に戦っていた俺たちだけは、村の四方八方を行き来している。


 シュン――と、何の脈略もなく出現したのは俺、ミオ・スクルーズだ。

 敵から奪った能力――【転移てんい】にて移動をして、村のあちこちを確認して回っている最中さなかだ。


「おっと。こっちはまだ火が出そうだな。流石に木材置き場……もう四~五日ってとこか」


 ここは村の北部、資材や廃棄物などが置かれる地区であり、移住者が多く住んでいた場所だ。


「にしても、姉さんの説得に素直に応じるとはな……意外と言うか何というか」


 避難に揉めた王国からの移住者たち。

 一度は拒否し、自国から剣を向けられる事などないと決めつけていた人たちだが、ようやく自分たちの置かれた立場と、自分たちの国がした事の重大さに気付いたようだ。


『――現在は一部を除き、全員地下教会に避難済みです。クラウお姉さまの人徳か、もしくは』


 一部ってのは、どさくさに紛れて居なくなっていた数名。

 おそらくだが、王国側……【王国騎士団・セル】とかのスパイだったのではと予想される。

 イリアに侮蔑的な発言をした奴……らしいよ。


「もしくはなんだよ、高圧的に封じたってか?まぁそれもあるかもなっ……とっ!」


 ガラガラと崩れる資材だった物の残骸。

 確認するとやはり内側がまだ赤く、熱を持っていた。


「雨でも降れば時間を短縮できるのになぁ。東にあったあの雨雲、こっちに来ねぇんだもん」


 天候操作の能力でもあれば、村を焼かれずに済んだのにと……一瞬だけ考えたさ。

 だけどウィズによれば、その系統の能力は既にどこぞの誰かが持っているのだと。


『――下位能力は、基本的に多くの転生者へ贈られています。ご主人様が取得している能力の大半が上位能力、もしくはEXエクストラと呼ばれる神の権能を模した能力ですから……一部を除いて、ですが』


 【ブロードソード】とかだろう?

 それを除けば確かに、俺の能力の多くはチート能力なんだろうよ。

 そのほとんどが、まだ未開放なんだから恐ろしいっつの。


『当時、転生の特典ギフトとして残されていたのは……俗に言う勇者や英雄に成り得る存在へ授ける為の能力たちです。【叡智ウィズダム】もそうですが、【無限インフィニティ】や【豊穣ファティリティ】、【紫電パープルエレクトリック】に【極光オーロラ】、【煉華パーガトリー】もそうです。言わずもがな、【強奪スナッチ】や【破壊デストロイ】もですが』


「言葉にされると、やっぱとんでもねぇな……」


 俺の持つEXエクストラ能力じゃない能力は?


『【丈夫デュラブル】、【譲渡アサインメント】のみです』


 アサインメント……【譲渡じょうと】ってEXエクストラじゃないのかよ。

 普通にヤバい能力じゃないか?


『複数のチート能力を所持している転生者はいません。能力を受け渡す事など、本来ない事例ですから』


「な、なるほど……」


『それよりいいのですか?そろそろ時間です……帝国からのお客人・・・・・・・・・とお会いになるのでしょう?』


「――げっ!そうだった……あの帝国のお姫様、なんだかすげぇ好奇心旺盛で、村を見たがってたもんなぁ」


 俺は燃えてしまった村を見る。


 それはきっと自分の国である、この村の現状を把握するためだろう。

 もし帝国の皇女様が、王国女王のような考えだったら……今度は帝国とも戦わなければならないのか……それだけは避けたい。

 そんな事を考えながら、俺は二日前に対面を果たした、帝国の皇女――セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラスのもとへ向かうのだった。

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