エピローグ8-4【蠱惑】



蠱惑こわく


 【女神エリアルレーネ】がこの村に来た。

 それは、地下に籠る【女神アイズレーン】も気付いている事だろう。

 しかし……もう一人、この村に来ている女神がいることを、気付く事はない。


「……うふふ、滑稽こっけいだことリディオルフ……みじめな転生者」


 地面に伏す転生者、リディオルフ・シュカオーン。

 ミオに敗れ、顔面から地面に突っ込み……今もなおこうして伸びていた。


 そのリディオルフの眼前にしゃがみ込み、鈍色にびいろの髪を月明りに照らす女性……【女神イエシアス】。

 彼女の指には、数枚のタロットカードが。

 そのカードは、女神が転生者に能力を授ける為の基となる、神の権能を凝縮ぎょうしゅくさせたものだ。


 十数人の転生者から回収して、イエシアスが所持しているもの。


「ざまぁないわねぇ。折角の能力も、我欲にまみれた貴方には宝の持ち腐れだったみたい……うふふ、返してもらうわよ?」


 イエシアスはリディオルフの背中に手をかざす。

 しかし……顔色を険しくし。


「――能力がないですって?」


 直ぐにイエシアスは、リディオルフの胸ぐらを掴んで起き上がらせる。


「――ぅいぇ……!?……ぅお、おうあえ、えあ!?」


「リディオルフ。能力を使いなさい、【転移てんい】を!早くっ!!」


「えぁ……!?――えんいぃっ!」


 シーン……


「能力がなくなった!?」


 ガスッ――!と、リディオルフを地面に叩きつけるイエシアス。

 その衝撃で、再び昏倒こんとうするリディオルフ。


「……リディオルフが戦った相手は……ミオっ!」


 イエシアスは今着いたばかりで、戦いを見てはいない。

 ただ初めから、この男では誰であろうと勝てないと思ってはいたが。


 思い出すのは、最後の転生者に贈られた能力リスト。

 その中に、能力を奪う能力が存在する。


 その名は【強奪ごうだつ】。


「ふふふっ……やはりそうだったのね、ミオ・スクルーズ。彼が“チート能力全持ち”の転生者、アイズレーンの息がかかった……神に仇名あだなす者!」


 疑いはあった。

 この小さな村に生まれた二人の転生者、ミオとクラウ。

 アイズレーンの名をかんするこの村に生まれた時点で、候補ではあったのだ。

 しかし、アイズ本人が張った結界には、他の女神を寄せ付けないと言う効果もあり、神力を使った侵入しか出来なかった。

 神力も無限ではなく、こうして人間界で活動するには倍以上の消費を迫られる。


「結界を壊した時点で、私が来たことはバレる……だから極力この村に戻る事はしなかったけれど、リディオルフの能力を回収するだけのつもりが……思わぬものを引いたわねぇ……うふふ――と、いうことは」


 この村に侵攻した聖女……イエシアスが転生させた女、レフィル・ブリストラーダも、ミオには勝てていないだろう。


「あの娘にも困ったものだわまったく、せっかく私が能力をあげた・・・・・・のに、ろくに使わないまま負けたのねぇ。所詮は欲に負けた一人の女、シャーロットに下剋上とか、笑わせるわよ……」


 聖女が複数の能力を所持していた理由。

 それは、イエシアスが回収した能力を、そのままリフィルに移植という形で授けていたからだった。


「それじゃあ……さようなら、リディオルフ」


 イエシアスは再びリディオルフに手をかざし、今度は別のタロットカードを背中に当てる。

 そして発動させる……自分の権能を、回収した能力を。


「【骸帰がいき】」


「がっ……あ、あ、あ、ああ、あああ、ああああああああああっ!!」


 イエシアスの手元に光るもの……それはリディオルフの魂。

 能力を回収できなかった八つ当たり、ミオに勝てなかった罰。

 リディオルフの身体は段々と痩せ細り……そして、むくろとなる。


 ぺろり……と唇を舐めるイエシアス。


「ごちそうさまリディオルフ。これで九十九分の一くらいは回復できた、役に立てたわねぇ……」


 骨と皮になったリディオルフの頬を撫でて、イエシアスは蠱惑こわくに笑う。


「さてと、まさかエリアルレーネまで来るとは思わなかったから、神力も不安だし帰ろうかしら。収穫はミオが“チート能力全持ち”だと知れた事、アイズレーンの馬鹿がくたばる寸前だという事……うふふ、あはは……もう直ぐです主神様っ!」


 イエシアスは天に向け両手を広げ、顔を赤くして己が使命を宣言する。


「主神様が命じられた、転生者を探す事が叶いました……もう直ぐ、能力の回収を行います、だからまた……世界を始めましょう!」


 高らかに、高揚しながら、イエシアスは歩いて行く。

 来た道を引き返す、場所は王国……自分が転生させた転生者が複数存在する、蛮行ばんこうの王国リードンセルク。


 主神が新たに生み出す世界の為に、新たな異世界の誕生に、その世界の母と成るために。イエシアスの真の目的は……絶対的な母、創造神へと成る事だった。


 その為には、ミオ・スクルーズと女神が邪魔だ。

 そしてその鍵を握るのは……誰が何と言おうと、不死の女王――シャーロット・エレノアール・リードンセルク、その人である。




~ 第8章【国と国とが交わる場所で】編エピソードEND~

―――――――――――――――――――――――――――――

 8章が終わりました。お読みいただき誠にありがとうございます。

 今章はバトル多め、胸糞多めで進みましたが、最後の方でスッキリ出来て……いると幸いです。

 さて9章の始まりは、村に来た帝国皇女と【女神エリアルレーネ】がどうするのか。村に向かっているミーティアとジルさんもですね。

 【国と国とが交わる場所で】……ということで、三国の国境に近い【豊穣の村アイズレーン】が舞台でしたが、焼けました……どうしましょう。

 それでは、次章もよろしくお願いいたします。

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