8-80【ひとつの恋のおわり1】



◇ひとつの恋のおわり1◇


 【豊穣の村アイズレーン】、北門での第二ラウンドが開始された。

 それと同じく、ミオもまた……村の地下に到達していた。


「なんじゃこりゃ……」


 首を仰け反らせて上を向く。

 それほどに……ミオが見つめるその扉は、重厚じゅうこうかつ巨大だった。


「その声……まさかミオか!!ほ、本当に……アイズさんの言う通りに」


 小さく聞こえるのは、ミオの父ルドルフ・スクルーズの声だった。

 やはりここに避難している。そう確信して、ミオは安堵する。


「父さんか!そうだ俺、ミオだよ!中に入れてくれないか」


 まるで詐欺さぎにでもかけているような会話だった。

 重そうな扉に近付き、声が通るように声を張る。


「……え~っと、これをこうして、確かこう……かな。それからえっと、ここをこう!」


 「独り言長いって」と、ミオは心の中でツッコむが。

 どうせアイズに言われた手順を慎重に試しているのだとも理解できた。


 ゴゴ……ゴゴゴゴ……


「ゆっくりだな、なら、俺が【無限むげん】で……」


『――無駄です。神力が使用された物体には、何者であっても干渉できません』


 ウィズの言葉に「ちっ」と舌打ちし、大人しく待つ。

 神の力の前には、転生者であれど下位扱いらしい。


「開いた……」


 重い扉が開いていき、徐々に見えてくる全貌。

 そこは……


「――きょ、教会?」


 巨大な広さの空間に、西洋にあるような教会が存在していた。


「ミオ!」


「と、父さん……これって」


 さすがにおどろきを隠せない息子に、ルドルフは。


「アイズさん……いや、アイズレーン様のお力で、村人を避難させてもらっているんだ。凄いだろう……女子供は教会の中、それ以外は外のこの空間で避難しているよ」


「聞いたのかその話、色々と。それでし、信じたのか?……意外だな」


 アイズを女神と信じた父さんもそうだが、更に村人がそれに素直にしたがったという事の方がおどろきだ。


「さぁミオ、こっちだ。アイズレーン様とアイシアが、待っている」


「……アイシアが?」


 まさか、と。不安がよぎる。

 女神と、その女神の代替品だいたいひん

 共に居ると言う事だけで、一抹いちまつの不安が。


 父に案内されて、ミオは教会の中へ。


「マジで教会だ、それもそうとう立派な。いつのまにこんな……不思議な力も感じるし、アイズの奴……無茶したんじゃないだろうなぁ」


「こらミオ!アイズレーン様に失礼だろう!」


「うっ……し、失礼って、皆は今まで知らなかったんだろ?俺は隠してたんだよ、アイズに言われて!」


 「む。う~む、それもそうか」と笑うルドルフ。

 しかし手が震えていたり、顔色が悪かったり、無理をしたのだろうととれるし、不安なのだろう……娘二人の事が。


「あ……父さん、クラウ姉さんもレイン姉さんも無事だから安心して。それからアドルさんも無事だよ、リアもね。今はレイン姉さんと一緒に安全な場所にいるはず」


「そ……そうかぁ」


 肩が一段階下がった。

 それだけ心配はしていたのだ。だが村長の身、娘だけを優遇は出来ない。


「ああ。だから安心していいよ、父さんも少し休んでくれ……疲れが顔に出てるからさ」


「す、すまんなぁ……ミオ」


 背中が丸い。

 少し小さくなった気もする。

 似合わないひげを伸ばして、必死に村長をする。


 少しの間会わなかった。

 ただそれだけで、ミオは父の老いを感じたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る