8-12【ステラダからの知らせ5】



◇ステラダからの知らせ5◇


 検討すればするほど、聖女の事が転生者なのではないかと、そんな疑問が沸々ふつふつと沸きあがってくる。

 ウィズが言うように、【奇跡きせき】なる能力が備わった女性だと仮定して、その能力の根本はなんだ……【奇跡きせき】、文字通り奇跡を起こす能力?

 そんなもの、不透明過ぎて検討の余地がないっつの。


「……ミオ、そろそろいいか?」


「あ、すいませんジルさん。どうぞ」


 考えを一時シャットアウトし、ニイフ陛下の話に戻る。


「――では続きを。ケイトは、もう少ししたら【ステラダ】を離れるそうです。【ステラダ】に居を構える騎士団は、どうも横暴を働いているそうで……」


「横暴?」


「まさか、あの時みたいに……」


 ミーティアが口元を押さえて驚く。

 いや……更に兵を集めるなら、一度おこなっている【ステラダ】では非効率だ。

 さっきも言ったが、【ステラダ】にいるのはあくまでも中継点に利用する為だろう。


 なら、横暴と言うのは。


「――略奪や暴行、男は強制労働……女は奉仕。そんなところだろうな」


「そ、そんな、酷い……」


 【ステラダ】は行商が盛んな街だ。

 国境が近いから、様々な国から行商人が訪れるし……物品は多い。

 珍しい品物も、安い商品も、色とりどりだ。


「そうでしょうね。しかし、以前に冒険者学校の生徒たちに撃退されたと言う不名誉ふめいよもあります。あまり馬鹿げた行いはしていないと思いたいですが」


「それを自国で行っているのだから……地獄だな」


 そう。そこだ。

 戦争状態なら、略奪なんてよく聞く話だし、北西の国【テゲル】の兵士に奴隷どれいにされたミーティアと言う例もある。

 問題は、戦争でもなく他国でもなく……【リードンセルク王国】内で行われているという事だ。


「詳細はケイトも判断しにくいのでしょう。隠れているそうですし、きっと冒険者学校も封鎖のまま……【ギルド】は【リューズ騎士団】が経営媒体なうえ、何も知らなかった団員も多いそうです。ケイトや多くの生徒、教官陣もどこかに避難しているそうですが……」


 う~ん、ケイト教官からの言葉だけでは、どうも判断出来にくいな。こればかりは。

 だけど、冒険者学校の生徒たち……クラウ姉さんの相棒であるラクサーヌ・コンラッドさんをはじめとする、優秀な生徒たちがあの時の騎士たち……【リューズ騎士団】を撃退したのは大きい。

 しかし今回は正規軍だ、ましてや女神の威光をかかげる聖女様が帯同しているのなら、歯向かいにくいだろうな。

 隠れているのなら、そのまま隠れていてくれればいいけど。


「ニイフ陛下、これからどうなさりますか?」


「……ふふ、聞いてくれると思いましたよ、ミオ殿」


 優しげに笑い、ニイフ陛下は待ってましたと言わんばかりに。


「冒険者学校の理事長として、【ステラダ】の現状を許す訳にはいきません、理解して頂けますね?」


「はい」


 そう言えばそうだったな。

 ミーティアからクラウ姉さんに教えられた事実、俺も又聞きした。


「学生の安全は第一条件です。みなには、どうぞ協力を要請したいと」


 もしかして、これがあったから……いとも簡単に、エルフ族に伝わる秘宝の使用を許可したんじゃないだろうか。

 だけど、【ステラダ】は俺にとっても村以外の最初の街だ……横暴が許される訳はない。

 だから俺も……守るために。

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