7-78【エルフの里フェンディルフォート2】



◇エルフの里フェンディルフォート2◇


 崖を一回りすると、何ともきわどい階段を見つけた。

 もしかしてここを降りて、その下に里があるってのか?

 馬はギリギリ……荷台は完全に無理だな。


「歩きですね」


「そうだな……すまないが」


「いえ、大丈夫ですよ」


 ミーティアと二人、荷台を降りて。


「私ももう平気、歩ける」


 休憩のおかげかな。

 それに、もう少しで着くと分かっているからか、気持ちも軽やかだ。


「さぁ、残り数分で到着ですよー!」


 ニュウさんの言う通り、崖下を降りるのはそう時間が掛からなかった。

 丁寧な安全柵も設置されていて、落ちる心配もなく順調に降りたよ。

 ほんの少しだけ期待した……ミーティアからの「キャー怖い」ひしっ!もなく、サーベラスをくルーファウスの後頭部を見ながら、あっという間だ。


 そして……


「到着ですー!ようこそ、エルフの里へ!!」


 両手を広げて、ニュウさんは笑顔を俺に見せる。

 いい笑顔です……ジルさんもそれくらいの笑顔見せてくれてもいいんですよ?


「あ~……帰って来てしまった、【フェンディルフォート】に……」


 あからさまに落ち込んでるな、ジルさん。

 どことなく銀色のポニテがしおれているように見える。


「ジルさんの感傷はともかく……ここがエルフの里か、凄いなこれは」


「……ですね。まさかここまで立派な里が、まだテスラアルモニアに残っていたなんて」


 木造作りの建造物は、枯れ草を重ねた茅葺かやぶき屋根のようで、竹林にも似た林がそれを隠している感じだった……日本で言う、古民家だな。


「空気が綺麗ね……澄んでいると言うか、息がしやすいわ」


 すーっと息を吸いこみ、気持ちよさそうに言うミーティア。


「湿度が低いんだろうな。森にいた間は結構高い湿度だったし、差がありそうだけど……ま、それだけじゃなさそうだけどな」


 そう言いながら、俺は里の中央部を見る。

 そこには、かがやく大きな石が……いや、巨大なクリスタルだ。


「あれは……」


「――あれが、エルフの里を隠してくれている里の宝。【シルフィードクリスタル】だ」


 シルフィードって、確か精霊の一種だったよな。

 冒険者学校に入りたての時に聞いたぞ……アクセ屋のおっちゃんに。


「――精霊宝具!?」


 うおっ……ルーファウス?


 一番の反応を示したのは、俺でもミーティアでもなく、ルーファウスだった。

 ジルさんが言った【シルフィードクリスタル】とは、ルーファウスの言う精霊宝具とは……いったいなんだ?


「ほう、やはりルーファウスは【テスラアルモニア公国】の人間だな……流石だ」


 感心したようにジルさんがルーファウスを褒める。

 【テスラアルモニア公国】の人間だから、そこまでおどろいたって言うのか?


「もちろん……です。昔、あれを始めとしたエルフ族の秘宝……それをおろかな貴族たちが求めた結果が、先の戦争なんですから」


 苦虫を嚙み潰したように、ルーファウスは顔をゆがめた。


おろかな貴族って……もしかして」


 公国は、貴族が統治する国だ……それつまり。


「――はい、約百年前……テスラアルモニアを束ねる公爵の一団が、【パルマファルキオナ森林国】に攻め込んだんです、あのクリスタルや他の秘宝を求めて。僕は学んだだけですが……それでも国の歴史なので……すみません」


 他の秘宝って事は、まだ他にもあるのか。

 そしてそれらが戦争のきっかけになったもの、その一つがあのクリスタルか。


「お前が謝る事ではないさ。馬鹿な王子が情報を流したのがきっかけだしな。さて……ニュウ、女王陛下のもとに案内頼むぞ?」


 それって絶対あなたのお兄さんですよね。


「はい!お任せをっ」


 切り替えるように、終わらせるように、ジルさんが笑顔でニュウさんに言う。

 それに合わせて、俺たちも何かを言える雰囲気ふんいきではないと察して、ニュウさんの後を追うのだった。

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