6-73【試験3(ミーティア視点)】



◇試験3(ミーティア視点)◇


 いったい、いつからだろう。

 私が自分自身を言い聞かせるようになったのは。

 お父様の為だと、お母様の為だと、商会の為だと……究極的には、国の為だと。


 昔から……周囲にそう言い聞かせられていたから、そうとしか考えられなかった気がする。

 でも、彼の言葉は私の考えを一蹴した。


 自分なりに抵抗していたつもりだった。

 でも結局、最後にはいつもお父様の言いなり。

 やるだけやっても、途中でいつも折れてしまう。

 だから……私は、自分を持たないといけない。


 彼から貰った言葉を自分の生きるかてにして……

 そしてなにより、彼の隣にいる為にも、私自身を成長させる為にも。





 試験内容は、【ドルザ】という名の馬タイプの魔物の討伐。

 私とイリアのポイントを合わせた結果、難易度的にはギリギリ中難度……ミオよりは圧倒的に簡単な内容ね。

 でも、今の私たちにとっての問題は……場所が場所なのよね。


 生息地は南方……南西の【サディオーラス帝国】ではなく、南の【テスラアルモニア公国】という国との国境付近。

 ミオの村である、【豊穣の村アイズレーン】よりも距離は少し近いけれど、整地されていない道は馬の負担になる。


 馬車移動をするにしても、今の私には資金がね……家と決別した私は、援助を求めるつもりはない。

 小さな商会もどきを持ってはいても、そこは稼働していないと同じようなものだもの。

 私の店……これからちゃんと出来るかしら。


「……ミーティア?聞いていますか?」


「――え、あ。ごめんねイリア……なんだっけ」


 しまった。考えが別の所に……集中しないと。


「いえ、馬はクレザース家から借りましょう。坊ちゃん……ロッド先輩にお借り出来ないか聞いてみます」


「でも、いいの?」


 クレザース家はイリアを認めてはいないわ。

 ロッド先輩が善処していると言うのは聞いているけれど、馬をレンタルなんてさせてくれるかしら。


「平気です。坊ちゃんの試験内容は【ステラダ】の近くですので、私たちよりも移動の手間はかかりません……それに、坊ちゃんは半分あきらめていますから」


 残念そうに、イリアは言う。

 ロッド・クレザース先輩……二年生の試験は、ソロでの行動だ。

 つまり、能力的に他人の力を活用する彼の場合……難易度が跳ね上がる。

 自分でも、もう無理だと判断したのだろう。


「あ、そんな顔をしないでくださいミーティア……坊ちゃんは冒険者になれなくても、まだまだやりたい事があるそうなので」


 どんな顔をしたのか、イリアは私に気を遣ってくれる。

 そうよね……私が気にしても仕方がないし、私は私の事を考えないと。


「ええ。ありがとう、イリア……頑張りましょう」


 私はイリアに礼を言い、二人で校舎を出る。

 イリアの言う通りに馬を借りるとして、それでも多少の金額は掛かる筈だし、なにより誠意を見せないと。


 クレザース家は貴族一家ではあるが、王家との直接的な関わりはない家柄だったはず……なら、個人的な意見も聞いて貰える可能性は高い。

 現当主、ダイノ・クレザース子爵の評判はあまり良くなく、ロッド先輩から聞いた話をかんがみても、裏がある事は分かっている。


 クレザース家の屋敷に向かいながら、私とイリアは色々と相談した。

 これからの事は勿論もちろん、パートナーになるのだからと……様々な話をしたわ。

 これが友達との会話……なのかしら、イリアが私やミオをよく思ってくれていて……本当に感謝の気持ちでいっぱいになる。


「……では、行きましょう」


「そうね」


 門構えは流石に貴族。

 少し緊張するわね……と、そんな硬くなる私たちに。


「――何をしている。そこの二人」


「「……!」」


 背後からかけられたその声は、どう考えても私たちにかけられたと分かる。

 振り返る先には……一人の貴族の青年が立っていた。

 口元には呆れと、微妙な含みを持たせた笑みを浮かべて。

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