5-8【成長の為に】



◇成長の為に◇


 時間は現在に戻り……六月。

 テントの中の俺たちだ。

 イリアを手当てする過保護なロッド先輩を見ながら、俺は言う。


「まさかロッド先輩が、ここまで過保護だとは思いませんでしたよ……」


「ふん……俺もさ」


 はぁ、そっすか。


「坊ちゃん……あ、いえ先輩。もう平気ですので」


「そうか。大事にしろ」


「はい……」


 ロッド先輩は立ち上がる。

 あれ……どこか行くんすか?


「俺はあいつ・・・を監視してくる。お前たちは休んでろ」


 俺の視線に気付いてか、そう言ってロッド先輩はテントを出ていく。

 あれまぁ……やる気になっちゃってさ。


「ホントに意外だよ……」


 思わず口にしてしまったが、これは本音だ。

 あんなにやる気を出して、しかもイリアの手当までしてるんだぞ?

 てか、手当てをしたらイリアの評価下がらないか?


「わ、私もです。ロッド坊ちゃんが、ここまで協力してくれるとも思いませんでしたし……積極的に戦いにも参加していて、おどろきました」


「……だよなぁ」


 ロッド先輩は、ひかえめに言っても強かった。

 その強さの根本は……魔法だ。

 【クレザースの血】と言う能力があるらしいが、それを使わなくても一人で戦えているんだよ。


 だけど、どうやら体力的に不安があるらしい。

 それと最大魔力量も……って言ってたな。

 だから先輩は、個人での行動をひかえている節がある。

 以前の依頼サポートで俺とトレイダに任せっきりになっていたのも、そういう事なんだろうな。

 あれはあれですげぇムカついてたけど、今はもういいや。


「で、どうだ調子は……怪我、平気か?」


 切り替えて、俺はイリアの腕に巻かれた包帯を見る。


「いえ……全然大したことはないんですけど、ロッド坊ちゃんが心配し過ぎていると言うか……私が心配され過ぎていると言うか」


 だよな……俺が見た時も、多少の切傷って感じだったし、小さすぎて気付くのが遅れるくらいの怪我だったはずだ。

 それを……そんなグルグル包帯巻かんでもなぁ。


 心配し過ぎてされ過ぎて、か……まぁ、どっちもどっちだろうな。


「あはは……それなら評価には関わらなそうだな」


「そうなんですか?」


「だってたいした怪我はしてないんだろ?なら、先輩が勝手にやってる事だ、心配してくれてありがとうって思っておけばいいさ」


「……はぁ」


 おい、分かってるか?


 首をかしげるイリアのその顔は、完全に分かってなさそうだった。

 誰かが心配してくれてるんだ……それはありがたい事だし、嬉しい事だ。

 だからこそ、その心配を安心に出来るように、心を広く持って柔軟に対応していこうって事さ。


 ちょっと過剰かじょうだけどな、ロッド先輩の心配性。


「なんにせよ、感謝すればいいって事だよ。でも、恩を感じてもいいけどプレッシャーには感じるなよ?」


 これは俺にもブーメランかもな。

 イリアに言ってるようで、俺自身に言い聞かせているんだ。


 俺も、自分の事だけを考えていた時……まったく思うように動けなかったんだ。

 余裕を持てなかったのかな。あせったつもりもなかったんだけどさ。

 でも結果的には、俺は誰かのために動いている時の方が……余裕を持てるんだ。

 それが身をもって分かった。


「……」


 イリアは何かを考えている素振そぶりだ。

 難しいか?でもそれでいいさ……悩めばいい。


あせらなくていいんだよ。イリアはイリアなりに、自分のペースでやればいいんだからな」


「で、ですが……私にはそんな力が」


 そんな力……そうか、そうだよな。

 自覚はあるんだ……なら、それをおぎなえばいい。


「――ああ、分かってるさ。だから、俺がいるんだろ?」


「え?」


 この数日で、俺も色々と試したんだよ。

 数種類ある能力の中で、未だに使っていない能力がある。

 名は――【譲渡じょうと】。

 それを試す覚悟を、俺は決めたんだ。

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