サイドストーリー4-4【突撃!汚部屋訪問!!】



◇突撃!汚部屋訪問!!◇


 数年前までスクルーズ家が元々あった場所……そこに、アイズの住まいがある。

 ミオが用意させられたその家は、アイズの意見がモリモリに組み込まれた最新の設備である……言ってしまえば、この村には不釣り合いなのだ。


 理由を知っているのは、ミオとクラウの転生者二人と、女神のアイズのみ。

 しかしミオとクラウは、アイズの事をおたがいに知らぬ存ぜぬを通している為、この家に言及する事も無かった。


 しかし内心は……こうだ。


『いやいや、どう見てもおかしいだろ!なに現代風の家をリクエストしてんだよ!バカなのか!?クラウ姉さんだったら気付くぞこんな建造物!』


『こ、この女神……いったい何を考えてんのよ!どう見たって世界観が違うんだけど……ミオも、なんでこの女の言うことを素直に聞いちゃってるのよ!』


 この世界……この村にはけっしてそぐわない外観。

 木造中心の建造物の中に、ポツンと建つモダンな雰囲気ふんいきは、絶対的に不釣り合いなものだ。

 現代的なその家を、この村の村民たちは疑問に思うはず……なのだが。

 ミオが能力【無限むげん】をもちいて建築けんちくしたその家の事を、変だと言及したものは誰も居らず、ミオとクラウが心中でツッコんで終わっている。


 そんな家の前に立つ、二人の少女。

 アイシアとコハクだ。


「おー。外は・・綺麗なままだねー」


 一度でも中の惨状を見て、知っているから言える一言だ。


「……ふ、不安だなぁ」


 外観をながめて、以前と比べるコハクと。

 一人では入りたくなくて、道連れコハクを連れてきたアイシア。


「ほらアイちゃんっ!それを持って来たんでしょ!」


「そ、そうだけど……ちょっ、押さないでって!」


 コハクが急かすように、アイシアの背を押す。


 アイシアが持つのは大きなバスケットだ。

 中身は数日分の食事であり、燻製くんせい肉をはさんだパンにドライベジタブル。

 最近は食肉もようやく一般村民も食べれるように回り始め、この村のブランドにしようと頑張っている最中だ。


「うぅ……あぁ嫌だなぁ」


 眉をハの字にして、心底嫌がるアイシア。


 アイシアは、潔癖症けっぺきしょうの一端をのぞかせる事がある。

 土や泥の汚れは、農家の娘として平気なのだ……だがしかし、ゴミは違う。

 ほこりでアレルギー反応も出るし、嫌悪感で顔をゆがめる事すらある……そう、今がそうだ。


「コハク、帰るけどいい?」


 押し返してくる年上のお姉さんに、コハクはその背中に語る。


「――わぁぁぁ!待って待って!ちゃんと入るからっ!一人でだけは嫌なのっ!」


 意をけっして、アイシアはアイズの家の玄関を叩く。

 コンコン――と、実にひかえめに。

 コハクの目には、玄関すら触りたくないのか……と見えたそうだ。


「……あら、出ない?」


「そんなノックじゃ聞こえないんだよぉ」


「う、うぅ……」


 コハクにジト目で見られ、アイシアはもう一度玄関を叩く。

 今度は大きく、声も出して。


 スゥゥゥゥ――


「――アイズさぁん!!ごはんですよぉぉぉぉ!」


 やけくそである。


「「……」」


 しかし、家の中から反応はなかった。


「あれ?」


「本当に出ないね、もしかして……いないのかなぁ?」


 コハクのその言葉に、アイシアは顔をパッと明るくし。


「それなら仕方ないね、じゃあ――ぐきゅっ!」


 その足で帰ろうとしたアイシアは、コハクに服をつかまれて首を曲げる。

 身長差はあるが、コハクが服のすそを思い切り引っ張った事で不意打ちを受け、首を痛めた。


「い、いたた……分かってるよぉ、冗談じゃない」


「いいから、行くよアイちゃん」


 そうは見えなかったから引っ張ったコハクは、何も言わずに玄関を……開けた。


「ええええ!?」


「おっじゃましまーす」


 ズカズカと入っていくコハクの度胸に、アイシアはクラウを重ねた。

 そう言う所まで似なくても……と。


 こうして、二人で汚部屋訪問の開始をするのだった。





 少し前……アイズはゴミの下にいた。

 部屋が片付いて三日……まだギリギリ綺麗な場所はあるが、アイズがいるのは……レインに触れさせなかった場所。

 物が豪雪地帯の雪のように積まれた、その場所だった。


「よっ……ほっ!」


 大きな箱を退かす。

 そこには、一枚の床板があった。

 取り外しが出来る床……そこは、床下に続く場所なのだ。


「さてと、今日は誰も来ないわよね~、なにせ二日前・・・にはレインが来てるんだしね~」


 三日前である。

 時間の概念がいねんのおかしい女神は、誰も来ないと思って油断をしていた。と言うよりも、ポンコツである。


「さ~って、続き・・をしますかね」


 この床下には、階段があった。

 長く……暗い……底までどれほどあるのかと思うほどの物だった。


 全くあかりも点けずに、床板を戻して真っ暗にする。

 しかし、アイズはなんの問題も無さそうにして、そのまま下りていく。

 鼻歌を歌いながら、まさかこの後すぐに来客がおとずれるとは思いもせず、真っ暗な階段をくだって行ったのだった。





 汚部屋の中に、少女が二人……アイズが地下に入って行って少しした後だ。


「――あれ、アイズさんいないねぇ?」


「ほ、本当だ……アイズさーんっ!?」


 アイシアは口元を押さえながら、ほこりが入らない様に注意するが。


「あれ、意外と綺麗だね……って、アイちゃんも入って来てよ!!」


「だ、だってぇ~」


 アイシアは玄関から顔を覗かせていたのだ。

 コハクは少し苛立いらだたしそうに、アイシアを強引に連れ込む。


「ああああああ!ごめん、ごめんってコハクちゃん!許してくださいお願いします!」


駄目だめ!!しっかり仕事してっ!!」


「――うわぁぁぁぁぁん!!いやだぁぁぁぁ~!」




 何とかアイシアを汚部屋に入れたコハク。

 アイシアは、この部屋で一番綺麗だと思われるテーブルの上にバスケットを置く。

 恐る恐るだが、確かにテーブルは綺麗だった。


 そして二人で室内を見渡すが、やはりアイズはいない。


「こっちは?もしかしたら埋もれてるかもしれないよっ!」


 コハクがまだ汚い一角を指差し、そこに向かおうとする。


「――ま、待った!止めておこうコハクちゃん……流石さすがにそれ以上は、私行けないぃぃ!!」


 潔癖けっぺきの血がゾワゾワする。

 あそこには行けないと、本能から拒否反応が出たのだ。


「えぇ、でも……アイズさんが死んでるかも知れないよ?」


「それはそれ!!」


 普通にひどい事を言う。


「もぉ~、まったく……しょうがないなぁ」


 コハクも内心は嫌だったのか、そのゴミの山には近付かなかった。

 その真下にいるアイズにとってはラッキーであるが。


「よし!食事も置いたし、帰ろう!」


 アイシアは、どこまでも長居はしたくないらしい。

 必死な気持ちは充分につたわるが……ミオがいればこの娘はどうするのだろうか。

 我慢しそうな気もしなくもない。


「はぁ~い。でも、本当にどこに行ったのかなぁアイズさん……普段は家にしか・・いないのにねぇ」


 地味に刺さる言葉を言うコハク。

 アイシアは苦笑いしながら「本当にクラウさんに似て来たね……」と、口元を引きらせるのであった。

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