美鈴、なにやら話をしているようです

 ここはレインライムのギルド。そしてエリュードとゴルイドはギルドマスターの部屋にいた。


 あれからルイドは、ギルドの者たちにしばらく部屋に近づくなと告げる。


 その後、念のため魔道具を使い外に音が漏れないようにすると部屋に鍵をした。


「ふぅ〜。まぁ、こんだけやっときゃ問題ないだろう。さてと、二人とも相変わらずみてぇだな」


 ルイドはエリュードとゴルイドを交互に見るとソファに座る。そして二人もソファに座った。


「ルイド。本当にすまねぇ。許してくれって言うつもりはない。だが今は、」


 エリュードは申し訳ないと思いうつむいている。


「コイツのせいじゃねぇ。俺のせいで」


 いつになくゴルイドは反省しているようだ。


「ゴルイド。おまえは黙ってろ」


 そう言われゴルイドは、話したいのを我慢していた。そのせいで、二人の話に耳を傾けているあいだも話したくてムズムズしている。


「エリュード。この街の事は俺がなんとかする。だが、おまえに聞きたい事がある」


「それって、冒険者登録の事か?」


 エリュードは恐る恐るルイドに視線を向けた。


「ああ。おまえが変装までして、ゾラって名乗っている理由と。なんで指名手配されてるのかだ」


「やっぱりそれか。だが、なんで追われるハメになったのかは分からない」


 そう言いエリュードは、またうつむく。そして、ここまでの経緯をかいつまんで説明をした。


「なるほど。そういう事か、って。まさか! あの黒い悪夢のライルがこの街に?」


「ああ。ゴルイドと一緒にいたはずだ。そういえばアイツ。どこに行った? なぁゴルイド」


 そう言われゴルイドは、あの時のことを振り返り考える。


「そういや。俺がリブルと戦ってた時。確か後ろにいたはずだ。でもそのあと」


 ゴルイドは思い出しながら、分かる範囲で説明した。


「そうなるとライルはまだこの街にいる。まぁ、大丈夫だろう。だがエリュード。これからどうするつもりだ」


「誰が俺をハメたのか追求しケリをつけたい」


 エリュードは、悔しさのあまり強く拳を握りしめたために血がにじみ出る。


 ルイドは難しい顔をすると、懐からエリュードの手配書を取り出しテーブルの上に置いた。


「うむ。俺はなぁ。この手配書をみた時は、まさかおまえがって思った。だからこの事を知っているギルドの者には口外するなと言ってある」


「ルイド、おまえ__本当にすまない」


 申し訳ない気持ちでいっぱいになり、エリュードは深々と頭を下げる。


「それでだ。うまい具合におまえはゾラと名乗り。変装までして冒険者登録をした。って事はだ」


 ルイドはエリュードをじっと見ると再び話し出した。


「これからその名を使えばいい。俺が身元引受人になってやる。ただし今までどおり重SSランクでだ」


「ちょっと待て。いくらなんでも、いきなり過ぎる」


 エリュードはどういう事だと思い、前のめりになりテーブルに両手をつく。


「不服か? だがな。かえってそれ以下のランクで登録すればだ。ゴルイドとの戦いをみた連中は納得しねぇだろう」


「確かに言われてみればそうだな。だが、そうなるとミスズはどうなる?」


 エリュードは、ふと美鈴の事が気になり始める。


「ミスズ? ああ。おまえが言ってた女のことか、って。さっき俺たちを追ってギルドに入ってきた女だよな」


 そう問われエリュードは不思議に思い聞き返した。


「そうだが。何か問題でもあるのか?」


「もちろん、おおありだ。俺が見た限り。おまえと一緒の依頼をこなすのは無理だろうな」


 そう言われエリュードは、美鈴の素性を明かすかどうか悩んだ。


 だがゴルイドは何も考えず口を滑らせた。


「ん? ミスズちゃんなら大丈夫だと思うぞ。なんたって女神が召喚した……」


 と言いかける。だが慌ててエリュードはゴルイドの口をふさいだ。


 しかし間に合わずルイドはそれを聞き逃さなかった。


「ほう。そりゃ面白い。女神に召喚されたって事はだ。あのミスズって女は異世界の勇者様ってわけか。って、エリュード。てめぇ、隠すつもりだったな!」


 ルイドはエリュードが自分にウソをついた事に腹を立て怒りをあらわにする。そしてエリュードの胸ぐらをつかみにらみ付けた。


「ルイド、悪い。だが本人の承諾もなしに言っていいものかと思ったんだ」


 それを聞きルイドは納得しエリュードを解放する。


「なるほど、そうなるとだ。下手するとあの女、エリュードよりも強いって事か?」


「強いって言うか。そうだなぁ」


 誤解のない範囲でエリュードは、美鈴の事も含めここまで来る間に何があったのか話をし、美鈴の姿を思い浮かべた瞬間。


 またどうきがしてきて苦しくなり胸をおさえ前屈みになる。


「クッ、まただ! いったい……なんなんだ」


 そうエリュードが苦しそうにしていると、ルイドは腹を抱え大声で笑った。


「ププッ、グワハッハッ! こりゃいい。いや笑える。まさかおまえがなぁ」


 エリュードはルイドに笑われ不愉快になる。だがそれと同時に、なぜ笑うのかと疑問に思った。


「笑うな! 俺が、苦しんでる。っていうのに。だが、なんで笑うんだ?」


「なんで笑うって? そりゃなぁ。言っていいのか? ゴルイド。笑いをこらえてるって事は、おまえも気づいてるよな」


 そう言いゴルイドに視線を向ける。


「プッ。いや、まぁなぁ。気づいちゃいるが。さすがに自分で気づかねぇってのも普通おかしいだろ」


 エリュードは二人が何を言いたいのか分からずにいた。


(いったいルイドとゴルイドは何が言いたい?)


 エリュードがあまりにも鈍感すぎて、ルイドはみていられなくなる。


「おまえなぁ。ミスズっていう女の事が好きだって。いい加減気づけ!」


 そう言われエリュードは息を荒くし顔を赤らめた。


「お、俺がミスズを? ま、まさかあり得ない。だが、言われてみれば。ミスズの事を思い浮かべると苦しくなる」


 そう言いエリュードは、また頭から湯気を出しテーブルの上にうつぶせになり苦しみ出す。


「コリャ重症だな。仕方ねぇ荒療治にはなるが。あのミスズって女をここに連れて来て撃沈してもらったほうが早えかもな」


 ルイドはひとまず魔道具を解除して扉の鍵を開けた。するとゴルイドにエリュードの事を見ているように言い部屋をあとにする。


 ルイドがミスズを連れて戻ってくるまでのあいだゴルイドは、エリュードのそばで笑いをこらえながら二人がくるのを待っていた。


(ん〜コリャ、どうなる。ルイドの思惑どおりにいくのか? だがもしミスズちゃんもエリュードを好きだとしたら。

 ん? そういやライルちゃんが__ミスズちゃんがエリュードを、って)


 エリュードは苦しいながらも横目でチラッと見るとゴルイドをにらみ付ける。


(ゴルイド。クソッ、あとで見てろよ)

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