美鈴、これはどう見ても回避不能です

 ノウマンがロビーに駆けつけた時には既に、ゴルイドとリブルのバトルは始まっていた。


 この宿の泊まり客は、危険を察知したロビーに見に来ていた者により、とうに外へと誘導されている。


 周囲は椅子やテーブルなどが破壊され、その破片が辺りに散らばっていた。


 ノウマンはその光景を見て、これ以上被害がでたら大変だと思い考える。


 だが見ていても仕方ないと思い、泊まり客がいる客室へ向かう事にしてこの場を離れる。


 ひとまずライルは、ゴルイドとリブルの争いに巻き込まれない範囲のところから、二人の様子を伺っていた。


「うわさには聞いてたけど。まさか、ここまで仲が悪いとはね。話をする前から、既に二人とも身構えてたし。どうにかして止めたい。でもなぁ」


 そう言いつつもライルは、二人の戦いを見ていたい気持ちのほうが大きくワクワクしている。


 ゴルイドとリブルは、互いに傷を負いボロボロになっていた。


(リブルとは五分五分だ。このままじゃ、らちがあかねぇ。どうする?

 宿屋を破壊しかねねぇと思い、わざと小さなバトルアックスにしたが。向こうは得意の双剣だが、まだ余裕があるみてぇだな。

 だが、考えている余裕はねぇ。仕方ねぇやるか!)


 そう思うとゴルイドは、異空間のケースにバトルアックスをしまい大きなオノを取り出し身構える。


「ほう、なるほど。やっと、本気になってくれたみたいですね。では、私もそうさせていただきますか」


 リブルは双剣を構え直すと腰を落とし、凍てつく鋭い眼光で射抜くようにゴルイドをみた。と同時に、剣を前後に構え弾みをつけ飛び上がり開脚する。


 そして回転しながら剣を交互に振り下ろし、ゴルイドを攻撃していった。


 ゴルイドは大きなオノで、その攻撃をガードし押し返そうとする。


「クッ、」


 だがリブルの凄まじい程の連撃により、防御するだけで精一杯で攻撃することができなかった。


「どうしたゴルイド。まさか、腕が鈍ったなんて言わないでくださいよ」


 そう言うとリブルは、さらに連撃を繰り出しゴルイドを攻撃する。


 だがこの時ゴルイドは、ただガードしていたわけじゃなかった。(そろそろ、ころあいか)__そして、不敵な笑みを見せる。


 リブルはゴルイドの表情が変わり、かすかにニヤケた事に気づき何かあると思い警戒した。


(何をするつもりでしょうか? ただ、防御をしているだけではないと思っていましたが。これは、用心したほうが良さそうですね)


 そう思いながらリブルは、右手に持つ剣を振り上げたその直後。


 ゴルイドのオノがまばゆい光を放ち、それと同時にリブルの攻撃により蓄積していた力が放出される。


 リブルはそれを避ける機会を逃し、その光により目がくらみよろけた。


「クソッォォー!」


 それと同時にオノから放出された力はリブルを襲い、吹き飛ばされ宿屋の壁を突き破り外へと投げ出される。


「コリャ、ちょいやりすぎたか」


 ゴルイドは、すかさずリブルを追いかけた。


 その様子を見ていたライルは、あまりにもすごすぎたためか、動けなくなりその場にたたずんでいる。


(えっと……)




 そのころ__。美鈴とエリュードは、ノウマンの宿屋の前まで来ていた。


「ねぇ待って。ちょっと歩くのが早すぎるよ」


 そう言いながら美鈴はエリュードを追いかける。


 エリュードは宿屋の前で立ち止まり、振り返ると美鈴をみた。


「ミスズ、すまない。だが、急がないと……」


 そうエリュードが言い切る前に宿屋から、『ドッオォーン! バリバリバリッ!」という音がし、リブルが壁を突き破り美鈴たちの目の前に吹き飛ばされ『バサッ』と落ちてくる。


「イタッ、クッ。ゴルイド……よくも!」


 リブルはよろけながら立とうとしていた。そして、破壊された宿屋の壁の向こうにいるゴルイドを鋭い眼光でみる。


 だが既に自分の近くにいる者すら、視界に入らないほど余裕がなくなっている。そうすぐそばに、エリュードがいることさえも気づかなかった。


 それを見るとエリュードは、すかさずリブルのほうへと近づき見おろす。


「エリュ……グフッ、ブグ」


 リブルは気づきエリュードの名前を言おうとする。


 だがリブルは、名前を言われるとまずいと思ったエリュードにより手で口をふさがれた。その後、リブルのみぞおちを思いっきり殴り気絶させる。


「ふぅ〜。なんか、ほぼ片付いてたって感じじゃねぇか」


 エリュードは、リブルを地面に寝かせた。


 するとそこにゴルイドが姿を現し、不服そうな顔でエリュードを見ている。


「おい! どういうつもりだ」


「なんの事だ?」


 そう言いエリュードは、とっさに身の危険を感じ身構えた。


「なんで、おまえがリブルを。俺がそいつを、」


 ゴルイドは顔をプルプルと震わせながら、言葉にならないほどに怒りをあらわにしている。


「それは、悪かったな。だが俺は、ただギルドの依頼でおまえたちを止めにきた」


 そう言いエリュードは、獲物を狙うタカのような鋭い眼光でゴルイドをにらみつけた。


「そしたらたまたま目の前に、リブルが飛ばされて来たから黙らせただけだ。だがその様子じゃ、納得していないみたいだな」


「ああ、当然だ。おめぇ、分かってんだろうな?」


 ゴルイドは、オノを構え直すと攻撃体勢に入る。


「フッ、仕方ねぇ。できれば、戦いたくはなかったんだが。おまえを黙らせないと、ムリみたいだな」


 エリュードはなるべく戦いたくなかった。だが仕方なく、異空間の収納ケースからつえを取り出し身構えゴルイドとの間合いをとる。


 その様子を美鈴は、そばでみていたが危ないと思いすこし離れたところに移動した。


(どうしよう。また、エリュードとゴルイドが。それに、これじゃ止めに来たんじゃなくて。

 ケンカをするために、ここに来たみたいになってるんだけど)


 美鈴は、二人をどうにか止めないとと思い考える。


 そしてその後、エリュードとゴルイドは互いに攻撃を始めたのだった。

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