22 真犯人、もしくは。
思い返せば、由香が部屋に入ってきてからだった。違和感はすぐそこにあった。
もちろん、それを裏付ける証拠はない。
それをする理由も分からない。
だが、数ある可能性の中で一つずつを精査していけば自然と浮かび上がる。
答えを導き出した自分でも信じられない。
動機が全くもって分からない。
いや、俺は少し早まりすぎているのか。
確証なんてない。
まだ本人と話してすらいない。
これは、まだ一つの選択肢。
数多く枝分かれしている中で有り得るかもしれない一つの可能性。
「実は、目星はついてる」
「誰なの!?」
姫木は身を乗り出して聞いてくる。
顔が近いことに動揺しながらもクールガイを演じながら俺は答えた。
「まだ確証がある訳じゃないから言えないけど……」
「いいじゃない!! 教えてなの〜」
「……とりあえず、今日はお開きにしよう。色々あったしな」
……言えない。言えるはずがなかった。
姫木の兄、光輝を疑っているとは。
ここで下手に立ち回れば
それに姫木にも言ったが、まだ確証がある訳ではない。彼女に話すのは早すぎる。
*
「沙恵ちゃんばいば〜い」
「二人共またね〜」
誤解を解いた二人を玄関で見送りながら、俺は考えていた。
これからやれる事を。
いや、やるべき事を。
……とは言っても通う学校は違うし、仲も良くない(最悪の形で別れてしまった……)
俺に出来る事と言ったら、こっちからコンタクトを取って話に行くぐらいしか。
……よりにもよって光輝みたいなやつと話にいくのかぁ。ハードル高ぇ。腰が重い。俺、友達一人しかいねぇんだぞ?
それに、言い合った時の光輝すごく怖かったし。また前と同じように言い返せる気はしねぇ……。
「お兄ちゃん…………」
尊厳のその字もない、クソダサい事を考えて口を歪ませていると、隣に立つ妹から声がした。
「今日のお兄ちゃん、カッコよかった……」
俺は今現在、クソダサい事考えてましたけどねアハハ。……と、それは置いておいて。
俺は姫木の前で光輝と言い合ってしまったことを反省しながら、俯きがちで答える。
「別に褒められた事じゃねぇよ。光輝の言葉に勝手にイラついて、勝手にキレただけだしな」
「でもそのおかげで二人は仲直りできた」
「……ま、巡り合わせが良かったんだろ」
「素直じゃねぇな、兄貴!!」
「お前、ここでヤンキーモードにならなくても……」
「カマしてやれって言ったのはこっちの私だからな!! マジで自慢の兄貴だぜ」
「…………こっちの私って、二重人格か何かですか」
「おい素直に喜べよ!! こっちだって、こんなこと言うの死ぬほど恥ずかしかったのに……」
沙恵は顔を赤く染めて体を寄せてくる。
こっちだって、死ぬほど嬉しいよ。
*
「おい〜それはウケるって!!」
校門付近で待機していると声が聞こえた。
数多くの生徒。その雑踏の中から確かに。
何人もの『友達』がそこに集まっている。
やがて近づいてくるソイツと目が合った。
前にも見た、笑みのない『笑顔』を浮かべながら歩いていたソイツは、俺を見つけると口元を歪ませた。明らかに嫌そうな雰囲気を俺に見せつけている。来やがった、と。
「なんだアイツ。制服違うし他の学校のやつか? 光輝、友達か?」
取り巻きの一人が俺を見つけ、中心にいた光輝に話しかけた。
「ううん、ちょっと違うけど、知り合いかな」
「出待ちとかキツいわ〜。光輝もモテモテだな。相手男だけど」
ワハハ、とバカでかい声量で笑うと、散るように去っていった。空気を読んで俺と光輝の二人きりにしたのだろうか。
その早さには驚いた。
『集団』で仲良くやっていくには、ここまでしないといけないのか。その洗練された動きに俺は少し呆れた。
ボッチのままでもいいかもしれないな。
「こんな所までなんの用? ウチの学校まで来るとか相当だと思うけど」
「姫木からはもう聞いたか?」
「由香ちゃんはやってないと、それで解決したみたいだね。君、解決させるなんて凄いよ。尊敬するよ」
素人声優が台本でも読み上げているかのように感情のこもっていない声で言われた。
そこにはもう、この前のような気持ちの悪い笑みはなかった。
「で? 言いたいのはそれだけかな」
俺達の間に出来た溝は、もう修復不可能なまでに奥深くへと侵している。
――――――それでも、前へ。
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