9 俺に出来ること
友達を信じて、本当のことを打ち明けた。
なのに、迎えた結末は刺すように冷たい。
『そんな人だとは思いませんでした』
俺は、俺は。
どうすればいいのだろう。
正直、大したことはないと思っていた。
不良が偽りだと打ち明けても、その程度のことで仲が悪くなる訳が無いと。
『触らないで!!』
どれだけ考えても、答えは出てこない。
思考はただただ、暗闇の中を彷徨うだけ。
だが、悲しいかな、時間は刻一刻と進んでいく。結論が出るまで待ってはくれない。
明日は、やってくる。
*
由香が家に来てから、次の日の朝。
昨日の出来事が頭に張り付いたまま、俺は学校を目指す。
今朝、紗恵に何か声をかけてやろうと思ったが、一向に部屋から出てこない。
扉をノックしても「今日は休む」と平坦な声で言われ、それっきり返事はしてくれなかった。
学校に到着して、授業が始まる。
当然、内容は頭に入ってこない。
紗恵に対して何をしてあげられるか。
それしか考えることはできない。
だが、特にいい案が浮かんでくるわけでもない。
……本当のことを打ち明けて、それを拒絶されてしまえば、覆すのは困難だ。
どうにかしないと……。
「裕二ぃ? そんな暗い顔して、どうしたんや」
いきなり話しかけられて驚いた。
いつのまにか授業は終わっていた。
そこで、いつまでも席に座って難しい顔をしている俺を見て、友達の端谷が声をかけてきたのだ。
「ん? いや、なんでもねぇよ」
別に、わざわざ何があったかを話す必要はない。
紗恵のことを勝手に話すのは、流石に気が引ける。
「大丈夫なんか? 明らかに浮かない顔してるけどな〜」
「ちょっと寝不足でな。だから、静かに寝かせてくれよ」
嘘をついた。いや、夜中まで考え込んだせいで寝れていないから、事実ではあるか。
とにかく、適当に濁して……。
「でもなぁ、」
端谷はいきなり真剣な顔をして、俺に話しかけてくる。
声は優しくて、諭すように。
だけど、とても頑丈で、芯があるように聞こえた。
「もし何か悩んでるんやったら、今のお前は最悪やな」
「何がだ?」
的をつかれたようなその言葉に、思わず食いついてしまう。
「おっ、反応するってことはやっぱり何かあるんやな?」
「違ぇよ。……ちなみに、何が最悪なんだよ」
「悩み事がある時には、思い詰めるんやないで。視野を広く持つんや」
「……お前、そんなこと言うキャラだっけ?」
「お前がいつにも増してヒドイ顔してたからなぁ」
*
「視野を広く、か」
帰り道にて、俺は端谷から言われた言葉を思い返していた。
その場では軽く流したが、端谷の言葉は俺を強く揺さぶった。
視野を広く持つ……。
俺は、昨日の出来事を最初から思い返すことにした。
『お邪魔します』
それから、部屋に入って……。
『あれ? 先輩の部屋ってこんな可愛いんですね』
……ん? 紗恵のファンシーな部屋を見てもそこまで驚いてはいなかった。
紗恵が不良であれば、あんな可愛い部屋になるのはおかしい。
それでも由香が驚かなかったということは……。
「由香が怒ったのには、何か他に理由がある!!」
我ながら名推理じゃーん。
だが、それが合っているかは分からない。
由香に直接聞かなければ。
なぜ早くそうしなかったのか、自分が不甲斐なくなる。
……やるべき事はできた。
後はそれを実行に移すだけ。
由香が、本当に不良ではない紗恵が嫌いなのであれば為す術はない。
だが、何か他にあるはずだ。
友達がいないボッチの俺が言うのもなんだが……。
友情は、そう簡単に切れたりなんかしない。
明日、由香の家に行ってみるか。
気分はスッキリした。悩むことはない。
明日には全て分かるのだから。
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