6 少女、思想、記憶。
*
小さい頃、私は何も夢中になれることがなかった。ゲームも、遊びも……趣味と言えるものは何ひとつとしてなかった。
親には度々、無個性だと言われた。
何をやっても中途半端に終わってしまう。
自分自身に嫌気が差していた。
こんな淡白な自分が嫌いだった。
何かに全力で取り組みたい。夢中になれることを探していた。運動も、読書も、時間を忘れてしまうほどの楽しさは見いだせない。
ピアノ教室に通ったこともあった。
私が「ピアノをやりたい」と言った時は、母は喜んで協力してくれた。なのに、なのに。
ピアノ教室も億劫になり、いつしか通わなくなった。
こうして、真っ白な日々が続いていた。
母はすごく協力してくれた。
私を想ってくれていた。
なのに、それに答えられなかった。
とんだ親不孝者だ。
母はもういない。少なくとも、私を産んでくれた母は。私の目の前にいる母は、母ではない。それは、父が選んだ二人目。
……。
母は、あの事故で亡くなった。
それで不安定だった私を安心させるための再婚だろう。
再婚を経て、お兄ちゃんに出会った。
それから少しして、趣味も見つかった。
不良という、キャラクター。
無理矢理と言われれば、そうだ。
でも、母のために。私のせいでいなくなってしまった母のために。
そんな気持ちがあったのかもしれない。
でも、不良というキャラが嫌いというわけではない。今までで一番熱中できる。
――――でも、だからこそ。
*
不良キャラを嘘だと認め、友達に打ち明けるのには勇気がいる。
それは私の心を覆う殻だ。閉じ込められる代わりに、私を守ってくれる。
それを破る時が来たのか。
一人であれば、そんなことをしようとは思わないだろう。でも、お兄ちゃんがいるなら……友達を信じられるなら……。
ちょっとした雑音で途切れてしまいそうなほど、か細い声で。それを自分で噛み締めるように、呟いた。
「本当のこと、話して……みようかな」
それに呼応し、兄は力強く言い放った。
「勇気出せよ、大丈夫だ。俺がいる」
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