4 金欠兄妹
『おにいちゃあん、話聞いてくれる?』
そうして、紗恵は顔を赤くして、目には溢れんばかりの涙を浮かべて話しかけてきた。
きっと、俺が何も事情を知らないと思っているのだろう。盗み聞きして何が起きたのか知ってしまっている俺からすれば、大袈裟すぎる反応だ……。あ、断じてストーカーではない。盗み聞きとは言っても偶然の賜物だ。
とはいえ「盗み聞きしてました!」なんて言えるはずもなく、何も知らないふりをして紗恵に説明を促した。
「いったいどうしたんだよ」
「たた大変なの! その……えっと……」
少しずつ声が小さくなる。
……なかなか口を開かない。
これでは話が一向に進まないので少し強めに言った。
「早く言えよ。俺は暇じゃねぇんだよ」
紗恵はハッとして、覚悟を決めたかのように表情が固くなった。じっと俺を見つめている。
と、思ったらいきなり甘く微笑んで、開き直ったように言った。
「友達が家に来ることになったんだけど、どうしよう?」
*
リビングにて。
俺は改めて紗恵から説明を受けていた。
友達が紗恵のヤンキーっぷりを見学しに来ること。
その『友達』はヤンキーとして紗恵の仲間で、ヤンキー要素のかけらもない部屋を見られて失望されたくないこと。
――――そして、友達を失いたくないということ。
「不良グッズ、買えばいいじゃん」
紗恵の説明を受けて、開口一番にそう言った。
「家での紗恵を見られて失望されたくないなら、不良っぽい物を買って適当に飾っとけばいいんじゃね?」
それを聞いた途端、紗恵の顔は一瞬で明るくなった。分かりやすいな、おい。
「その手があった!! こんなお兄ちゃんでもたまには役に立つね!!」
「息を吸うように侮辱するな」
……ともかく、そうと決まれば早速、近くのショッピングモールにでも行くかと思案していたところで、気づいてしまった。恐ろしい事実に。
「紗恵……一応聞くけど金あるよな? 最近、友達と遊びに行くこと多いけど、大丈夫だよな?」
先程までは明るかった紗恵の顔が一瞬で曇る。本当に分かりやすい。というかバカなのか、こいつは。
「お金……ない……」
泣きそうになりながら呟く。
そして、上目遣いで俺を見上げてくる。
紗恵の言葉を待つ必要はなかった。言わんとすることは分かる。
奢ってくれ――。
紗恵の目はもう、悲壮感で溢れている。
いつ涙が
さて、デキる兄ならここで妹に奢ってやるのだろうが、果たしてそうはいかなかった。
俺も金がねぇ。
ここ最近カラオケにハマってしまい、一人で毎日通っていた。他に金を使う機会なんて滅多にないから、金が無くなるまで歌いまくったよ……。
それがここで仇になるとは……。
俺は膝をつき、妹の目線より下に顔を持っていく。見下ろされる形になるように。
そして、紗恵がやったように上目遣いで、口に両手を当ててぶりっ子のようにして、何とも気持ち悪い格好で言った。
「私もお金ないの♪」
俺の愛する妹は、吐き気と絶望の淵に立ち、やがて涙を零した。
――他に手を考えなくっちゃな。
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