第49話 立ち直り中


 翌日から橘への嫌がらせはなくなった。

橘の下駄箱に紙なんて入ってなかった。

あれから国崎さんの姿は見ていない。

全て解決して平凡な学校生活に戻ったと思ったが、橘の姿がなかった。

橘は依然として学校に来てはいなかった。


 そこで今日の放課後、

俺と蓮と梅澤で橘の様子を見に行くことにした。

これ以上待っていられなかったから。





 そして放課後、

3人で電車に乗って橘の家へ向かう。

冬が近づいて来ているので、もうあたりは真っ暗だ。



「寒いね」



 梅澤が電車の壁に寄りかかって手を温めようとさすっている。

もう冬か。

早いな時間が経つのは。



「梅澤は橘の家行ったことある?」



梅澤に問いかける。



「何回もあるよー。めっちゃデカイよね、さすが金持ち」


「マジで!?そんなデカイの?」


「デカイよ、蓮、絶対びっくりするよ」



初めて見た人は絶対びっくりするだろうな。



そして橘の家に到着すると案の定、



「ええ!でっけぇ!なんだこれ!」



蓮が声をあげて驚いている。



「まじデカイよねー」


「デカイな、蓮行くぞー」



 俺と梅澤はスタスタ進んでいく。

見慣れてる俺と梅澤の反応は薄い。

エントランスのような入り口にあるピンポンを押す。

ベルが鳴る。


 使用人さんには事前に行くことを伝えてある。

橘には言ってない。

言ったら来ないでって拒否られそうだし。

まあサプライズってことで。



ドアが開き、中に入って行く。



「すげー!」



 蓮はずっと驚いている。

そんなんだと橘の家の中を見た時にあまりの豪華さにぶっ倒れるぞ?


 ドアの先の広いスペースを通ると前に屋根が平らな2階建ての家が見えてくる。

連絡してあるので玄関のドアを勝手に開ける。



「なんじゃこりぁぁぁ!」



蓮の口から今日一番の驚きの声が上がる。



「ちょっと、驚きすぎよ」



 梅澤が呆れた声を出す。

まあ俺も初めて見た時はめっちゃ驚いたしな。


 家の中は広くて開放感がある。

大きな庭があり、プールもある。

そしてモデルルームのように綺麗。



「ようこそみなさま。外は寒かったでしょう」



使用人さんが奥から出てくる。



「だ、誰ですか!?」



蓮が聞く。



「私はこの家の使用人です。あなたとは初めましてですかね」


「は、初めまして、え、えっとこれからもよろしくお願いします」



 何をだよ。

あまりの非日常に蓮がおかしくなっている。



「な、なんでお前らそんなに冷静なんだ?」


「最初は私も驚いたけど、もう慣れたのよ」


「俺も一緒」


「そ、そうか」



蓮もすぐに慣れるだろう。



「使用人さん、橘の様子はどうですか?」


「それが、部屋に引きこもっているというわけじゃないんですが、ずっと落ち込んでいる様子で」


「そうですか」



 落ち込んでる、か。

まあ仕方ないか。



「早く橘のとこいこーぜ」



蓮が催促する。



「そうだね。行こうか。でもその前に、さっき言ったことは覚えてる?」



橘への嫌がらせや国崎さんのことについては言わないように、と。



「覚えてるわよ」


「ああ、言わないようにな」


「よし、じゃあ行こう!」



 階段を上がって橘の部屋に向かう。

橘のドアの前に立つ。



「じゃあ・・・」


 コンコン、と

橘の部屋をノックする。

返事はない。



「あれ?」


「寝てるんじゃねーか?」


「京子?」



大丈夫か?

返事が出来ないほど落ち込んでるのか?



「だ、誰?」



部屋の中からそう聞こえてきた。



「た、橘!俺だよ!」


「里奈だよ!京子久しぶり!」


「蓮もいるぞー」



蓮と梅澤も続けて返事する。



「一馬くん!?それに京子と蓮も!」


「橘が心配だから様子見にきたんだ!開けてもいいかな?」


「え、ちょ、ちょっと待って!」



梅澤が無視して部屋のドアを開ける。



「ま、待ってって!」



 ドアを開けると、

薄暗い部屋が広がっていた。



「電気つけるぞ?」



電気をつけると豪華な部屋が広がっていた。



「広すぎ!」



蓮が驚きの声を上げる。



「ごめん、散らかってて・・・」



 いや、全然綺麗だけど。

ベッドに橘がいる。


 久しぶりに見た橘はやっぱり可愛かった。

なんかいつもの橘と違うな。

髪も整っていなくて無防備な感じがする。



「あー、髪もボサボサじゃん」



 梅澤がそう言って橘の髪の毛を手ぐしでとく。

確かに前のように元気な橘ではなかった。



「ごめんね、わざわざ来てもらって・・・」


「全然大丈夫だから!体調とかは崩してない?」


「うん、大丈夫だよ」


「精神的には大丈夫?」


「うん・・・だいぶ安定してきた」



心配で色々聞いてしまう。



「蓮と梅澤には橘と国崎さんのこと言っちゃった」


「・・・そっか。2人もごめんね?心配かけて」


「大丈夫!京子、心配しなくていいからね?」


「うん、国崎さんのことに関しては大丈夫だから。安心して」


「あんま考えすぎるなよー」


「気にしなくていいから、人の意見なんて。俺らがいいんだからそれでいい」


「たまにはカッコいいこと言うじゃん」



梅澤に褒められる。



「・・・誰も連絡くれないから見捨てられたかと思った」



橘が悲しそうにポツリと呟く。



「ごめん!そっとしておいた方が良いと思って!」



やっぱり連絡した方がよかった!



「ごめんごめん!でも元気出して!京子の好きなお菓子いっぱい買ってきたよ!」


「今日は全部忘れて楽しもうぜ!」


「そうだね、ありがとうみんな」



橘が優しく微笑んだ。



「よし!じゃあルームツアーしていい?」



蓮がそう言って橘の部屋を物色しはじめる。



「ちょっと蓮やめてよ!恥ずかしいから!」



11月下旬の寒い夜に俺たちの楽しそうな声が響いていた。

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